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帝国を背負う覚悟

「はい、それではこれで依頼達成です。本日もありがとうございました。」


「報酬確かに受け取った。」


「毎日のように強力な魔物を討伐されてますね。流石は皇帝陛下の推薦なさったS級冒険者様です。」


ギルドの受付嬢がニッコリと笑う。


「自分の力で功績を積むのが楽しくてな。報酬も高いし。」


「普通はパーティーで討伐するような魔物ばかりですからね。」


受付嬢の笑みが苦笑に変わった。

S級冒険者となって一ヶ月、俺はほぼ毎日ギルドで依頼を受けては厄介な魔物を討伐し続けていた。

理由としては、一刻も早く名実共にS級冒険者として認められる為である。


この一ヶ月頑張ったお陰で、面倒な輩も寄り付かなくなった。

決闘や闇討ちをして名を上げようとする奴もいたが、ことごとくカレトヴルッフで斬り捨てた。


魔物を討伐しまくって大金を稼いでいる俺だが、未だに皇宮に住まわせてもらっている。

俺としてはいつでも宿暮らしになって構わないのだが、皇女殿下に是非にと言われ皇帝陛下や公爵も賛成している為、厚意に甘えている現状だ。


そんな日々を過ごしていたある時、俺は皇帝陛下に呼ばれ、とある話を耳にする事になる。







「武闘祭……ですか?」


「うむ。」


皇帝陛下の私的な応接間。

そこに通された俺に、対面に座る皇帝陛下が武闘祭の話をした。


「聞いた事はあります。数年に一度、大陸各地の猛者を集めて武力を競い合う大会があると。」


「大雑把な認識だが間違ってはいない。正確に言えば、競うのは武力ではなく戦力だがな。」


「……どういう事でしょう?」


「武闘祭に出場する者は、剣や槍だけではなく弓などの遠距離武器や、魔道具や魔法さえも使って良いのだ。」


おいおい、何だその何でもありの破茶滅茶ルールは。



「それは武闘祭と呼んでも良いものなんですか?」


「ふっ、貴様の言いたい事もわからんではないがな。武闘祭には長い歴史があり、昔は武術のみを競うものだったらしい。しかし時が流れ魔道具や魔法が発達し、それらを使わないものは戦力としては劣るという風潮が出た。それから徐々に今の形となったそうだ。」


「実際に優勝するような者は魔法使いが多いのでしょうか?」


「優勝者が純粋な魔法使いという事は珍しいな。大会には経験も実力も兼ね備えた一流の人間が多く集う。そういう人間は魔法使いへの対策を怠る事はないからな。上位に上がるのは、武術にも魔法にも長けた者か、よほど強力なスキルを持つ者かの二択である事が多い。」


「なるほど……」




「ともかく、その武闘祭が三ヶ月後に開催される。そして武闘祭の舞台は大陸各国が持ち回りで担当するのだが、今年は我が帝国、帝都にて武闘祭を開くのだ。」


「そうなんですね。」


何故その話を俺に……というのは、なんとなく予想がついている。


「そして我が国で開催する以上、他国の者に優勝されるのは寝覚めが悪い。正直な言い方をすれば、他国の戦士に我が国内で偉そうな面をされるのは我慢ならんのだ。」


自尊心の強い皇帝陛下らしい考えだ。


「そこで、貴様には是非とも武闘祭に参加してもらい、優勝してもらいたいと思っている。」


やはりそうきたか。


「貴様にとっても悪い話ではないと思うぞ。大陸各地の強者が集い、各国の首脳陣が注目する舞台で圧倒的な力を見せつければ、成り上がるという貴様の欲を満たす事もできるのではないか?」


「ふむ…確かにそうですね。」


S級冒険者が優勝したとなれば、ギルドの職員などは間違いなく情報を耳にする事になるだろう。

俺を見下した奴らを見返す良い機会になるかもしれない。

皇帝陛下の言う通り悪い話ではないが、気になる事もあった。



「しかし、何故俺なんですか?帝国には俺以外にもS級冒険者は数人いますし、騎士等の中にもそれと同程度の実力者はいるでしょう。」


「うむ、貴様の言う事はもっともだ。事実、貴様が現れるまでは騎士団長に優勝を託そうと思っておった。」


謁見の間にいたあの男だな。

確かにめちゃくちゃ強そうだった。


「だが貴様が現れてくれた為、騎士団長には余の警護に専念してもらう事にしたのだ。」


「それは……騎士団長は何も言わなかったのですか?」


要するに"アイツがいるからお前はいらない"と言われたようなものだろう。

騎士にはプライドの高い者が多い為、騎士団長も怒りに震えたのではないかと懸念した。

だが、その心配は無用だったようだ。


「騎士団長は貴様の力を目の当たりにしておる。武闘祭に貴様を登用する事に、異議を申し立てるはずもあるまい。それに、騎士団長は元々武闘祭への出場に反対しておったからな。余の警護が甘くなると心配しておったのだ。」


なるほど、そういう人なんだな。

ひとまず恨まれてはいないようで安心した。



「それから貴様以外のS級冒険者だが、余が頼まずとも数人は出場するようだぞ。」


「その者達ではいけないのですか?」


「貴様の方が強い。」


皇帝陛下は至極簡潔に答えた。


「謁見の間で、余は生まれて初めて純粋な恐怖というものを覚えた。そして思ったのだ。帝国の威信を賭けるには、この者を置いて他にないと。」


「……ならば何故、今になって武闘祭の話を…?」


「誤解を恐れずに言えば、貴様が信頼に値すると判断した為だな。貴様の力は理解できても、人間性まではわかるはずもない。この一ヶ月間、貴様の働きを見させてもらっていた。」


「そう、だったのですか。」


「そして余の思いは確信へと変わった。貴様にならば、帝国の名を背負わせられると。」


「……重いですね。」


「うむ、その通りだ。」


誤魔化す事もなく頷いた。



「敗北は決して許さぬ。帝国を背負うからには、必ずや優勝してもらう。」


皇帝陛下は厳しい目つきで俺をギロリと睨んだ。

随分と勝手な言葉だが、それは俺への信頼の証ともいえるのだろう。

俺ならば負けないと思っているからこそ、こういう言い方をするのだ。


「……条件があります。」


「ほう、何だ?」


「武闘祭が始まるまでの三ヶ月間、騎士達の訓練に好きに参加できる権利をいただきたいのです。」


俺の言葉に、皇帝陛下は意外そうな顔をした。


「それは何故だ?」



「単純な話ですが…俺は魔物を討伐する冒険者です。つまり、騎士や傭兵等と比べると対人戦の経験が乏しいのですよ。」


「ふむ、なるほどな。それは盲点であった。だが貴様ほどの力があれば些細な事ではないか?」


「そうかもしれませんが、優勝を確約するからには万全を期したいのですよ。」


「そうか。殊勝な心掛けであるな。良かろう、騎士団には余から話を通しておく。明日からはいつでも訓練場に足を運ぶが良い。」


「ありがとうございます。」


俺は深々と頭を下げた。

翌日から、俺の地力を上げる為の訓練が始まった。








アルトが騎士の訓練に参加するようになって一週間が経過した頃。

皇帝ユーゼルと騎士団長の会話。


「騎士団長よ、アルトの様子はどうだ?」


「はっ。あの魔剣を手にした彼の力はやはり凄まじいものであり、騎士達にも良い刺激となっております。」


「ふむ、そうか。」


「しかし……」


「む、どうした?」


「彼自身の基礎体力や運動能力、身のこなしや剣の技量などは極めて凡庸であると言わざるを得ません。」


「ふむ……」


「膨大な魔力を活用し魔剣の力を最大限に引き出す。単純ですが、だからこそ脅威となりましょう。彼の力を端的に言い表すなら、"目にも止まらぬ速さと巨人の如き剛力、金剛の要塞にも劣らぬ頑強さ、そしてあらゆるものを断ち斬る刃"ですからな。」


「うむ、聞くだけで常識を疑うような力であるな。」


「その通りです。」


「仮にアルトの力を封じる手段があるとすれば…?」


「それは彼にとって天敵となり得るでしょうが……魔力そのものを封じるなど神の御業にございます。魔力を吸収する魔道具やスキルなどは聞き及んでおりますが、彼にはあまり意味がないでしょうな。」


「ふむ、ならばアルトが武闘祭で優勝できる可能性はあるかの?」


「可能性どころではありませぬ。ほぼ間違いなく彼は優勝するでしょう。」


「騎士団長にそう言われると余も安心できるというものよ。」


「三ヶ月後が楽しみですな。」


二人はニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませて頂いてます。 内容もしっかりと考えられていて、読む側からも読みやすいものになっていると思います。 [気になる点] 「......ならば何故、〜武闘祭の話を...?」のところが…
[気になる点] 皇帝の貴様呼びは一人だけ日本語の時代がズレてるのが違和感バリバリですね(「貴様」は昔は丁寧語、現代だとののしり言葉) それ以外にも皇帝の言葉遣いのおかしいところとして ・そして我が国…
[気になる点] 作者様の文章は何一つ間違ってはいないと思いますが、 私個人的に皇帝陛下が主人公に対して「貴様」と呼んでいるのが気になりました。 「貴殿」の方が印象が柔らかくなるかな?と思います。
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