俺を追放して本当に良いのか?
息抜きに書きました。
数話くらいで終わると思います。
「…それで、話って何だ。」
パーティーハウスの一室。
そこで俺は目の前で嘲るような笑みを浮かべるランスを睨んでいた。
最近のこいつの言動やこの勝ち誇った笑みから、これから話される内容は大体予想がついている。
俺が睨むのは、精一杯の強がりでもあった。
「てめぇの辛気臭ぇ顔を見ててもつまんねぇから単刀直入にいくぜ。パーティーを抜けろ、アルト。」
ランスの追放宣言を聞いても、俺は特に驚かなかった。
やはりか……と思っただけだ。
「一応聞いておくが、理由は?」
「てめぇが役立たずだからだよ。戦闘力のない無能は、S級冒険者パーティーには必要ねぇんだよ。」
「しかし、今までは色々と役に立っていただろう。」
「役に立ってた、ねぇ……」
ランスはニヤニヤと人を苛立たせる笑みで俺を見下している。
「例えば、てめぇの仕事は何があった?」
「まずは荷物持ちだな。俺のスキル『空間収納』でパーティーの荷物を全て保管及び運搬していた。」
「数日前のオークションで収納袋の魔道具を競り落とした。これでお前の『空間収納』は必要なくなったわけだ。」
「その魔道具の収納容量や機能は俺以上なのか?」
「はっ、当たり前ぇだろ。他国の没落した元大貴族が売り出した家宝らしいが、オークションの運営も一級品だって言ってたしよ。」
曖昧な情報を鵜呑みにするのはお前の悪い癖だ。
そう言ってやりたいが、こいつは間違いなく激昂するだろう。
喧嘩をしても勝ち目はない。
「俺はこのパーティーで魔力タンクとしても機能していた。戦闘中に魔力が枯渇したらどうなる?今日だって、俺は何度も『魔力譲渡』のスキルを使用したぞ。」
食い下がるように問うが、ランスは鼻で笑った。
「以前から引き抜こうとしていた他パーティーの冒険者が、今日ようやくうちに来るのを承諾した。そいつが『魔力譲渡』のスキルを持っている。おまけに戦えないてめぇと違って弓の扱いに長け、そして何より……女だ。」
生理的な嫌悪感を催す嫌らしいランスの笑みを見るに、その女はさぞや美人なのだろう。
女好きのランスからすれば、さっさと俺を追い出してハーレムを作りたいという事だろうな。
「エレン達はこの事を知っているのか?」
他のパーティーメンバーの意思は。
「おう、もちろん知ってるぜ。3人とも喜んで賛成してくれたさ。」
「……そうか。」
「だから早くここを出て行け。てめぇはもう用済みだ。」
「今からか?もう夜だぞ。」
「てめぇは今ここで俺のパーティーを抜けたんだ。これ以上てめぇみてぇな穀潰しを置いとくわけねぇだろうがよ。」
「そうかよ……本当に良いんだな?」
俺の『空間収納』と『魔力譲渡』が無くなって、お前らは本当に良いんだな?
「くどいっつーの。元仲間の誼でいまてめぇが持ってる金くらいは餞別としてくれてやるよ。それ以外はパーティーのもんだ。収納してるもんはてめぇの部屋に置いていけ。異論はねぇな?」
確認という名の脅しであった。
反論すれば、俺は殴り出され無様に這いつくばる事になるのだろう。
「……わかったよ。それじゃな。」
「おう、二度と顔見せんじゃねぇぞヘタレ野郎。」
俺は、爪が食い込んで血が滲み出るほど強く拳を握りながらも、表情を変えずに部屋を出ていった。
扉の向こうから聞こえてくる耳障りな笑い声に背を向け、荷造りをする為に自分の部屋に戻った。
部屋に収納していた物を片っ端から放出していく。
後でいちゃもんを付けられても面倒なので、壊れないように持ち主ごとに分けて置いていった。
部屋が道具で溢れ返るほどに放出していると、扉が何者かに開かれた。
「うわ、何この部屋。狭っ苦しいなぁ。」
「……フェイか。」
「あぁ、魔盲のアルトじゃんか。まだいたの?」
青色ショートカットの小柄な少女。
成人している割に幼い顔立ちの彼女はパーティーメンバーのフェイ。
多彩な魔法を使いこなす一流の魔法使いだ。
フェイは魔法至上主義という思想の持ち主であり、魔法の才能が欠片もない俺を魔盲と呼び蔑んでいる。
「ちょうど荷物を出し終わったところだ。」
「あっそ、なら早く出ていってよ。」
フェイはそう言いながら彼女の荷物を纏めて出したところへ行き、物色している。
何か探し物があるようだ。
「……なぁ、フェイ。」
「は、なに?魔盲ごときが僕に何の用?」
こちらを見ることもなく、いつものように罵倒する。
「……これからは、あまり『並列魔法』を使いすぎるな。もっとよく考えて魔法を使うんだ。」
俺はもうこのパーティーに未練はない。
先程のランスとの会話で決別の覚悟はできた。
だが、これまで仮にも仲間であった彼女達に、アドバイスの一つでもしておこうと思ったのだ。
「は?」
フェイは感情が消えたような真顔になった。
「なにそれ。誰に言ってんの?魔盲ごときが"よく考えて"だって。僕が誰だかわかってんの?」
もちろんわかってる。
滅殺の魔導師フェイと言ったら、大陸でもトップクラスの魔法使いだ。
少なくとも、その魔法の威力だけを見れば、な。
「別に忘れてくれても良い。ただ、これから先は魔力の使い方についても勉強した方が良いと思っただけだ。決して馬鹿にしてるわけじゃない。」
「今すぐ出ていけ。さもないと、僕の魔法で塵も残さず消し飛ばしてやる。」
濃密な殺気を感じ、俺は無言で部屋を出た。
フェイ相手にこれは言いすぎたかもしれない。
早く出て行こう。
パーティーハウスを出た俺は、まず今晩を過ごす宿を探す為に通りに出ようとした。
その時、ちょうどこちらに向かってきた女と顔を合わせた。
「あらあら…アルトくん、今から出るのかしらぁ?」
おっとりした声の大人っぽい女性。
緑色の長髪を三つ編みにして肩から流している。
ほっそりした長身で出るとこはしっかり出ている彼女は、回復魔法使いのルースだ。
「あぁ、そうだ。今まで世話になったな。」
「いえいえこちらこそぉ。アルトくんは弱っちくて役立たずなのにいつも無駄に頑張ってたものねぇ……寂しくなるわぁ。」
頬に手を当てておっとり微笑むルースから、耳を疑うような毒舌が飛び出す。
これはルースが意図的に俺を貶しているというのではなく、スキルの効果によって彼女は嘘をつく事ができず、基本的に思った事がそのまま口から出るようになっているのだ。
「ルースも本当に大変だな。」
俺は苦笑しつつポリポリと頭を掻いた。
彼女の持つ『祈誓』のスキル。
それは、神に誓いを立てる事で、その誓いが守られている間は強力な加護を得られるという史上でも珍しいスキルだ。
ルースは昔、そのスキルで"嘘をつかず、己の本心に素直に生きる"という誓いを立てて強力な回復魔法を使えるようになったのだ。
性格が良いとは言わないが、それでも俺はランスやフェイに比べると、ルースの事が嫌いではなかった。
「うふふ…パーティーを追い出されたアルトくんに心配されるほど困ってはいませんよぉ。」
「そうか…そうだな。」
ルースは嘘をつけない。
つまり、彼女が俺を役立たずだと思っているというのは、偽らざる本音なのだ。
結局、俺の力は比較的理解力のあるルースにさえもわかってはもらえなかったか。
それが少し悲しかった。
「……ルース。」
「なぁに?」
「これからは仲間を回復するタイミングをもう少しシビアに考えた方が良い。ルースはなんでもかんでも回復しようとしすぎる。」
「……えぇ?」
ルースが目を丸くした。
珍しい表情だ。
最後に見られて良かった。
「これまでは俺が『魔力譲渡』で補ってきた。だが、次の仲間がどれほどそこを補えるかは未知数だ。だから……」
「ちょっと待ってぇ、アルト君。まさか……まさか、心配してるのぉ?アルト君が、私を?」
ルースは笑顔だ。
しかし、それは酷く冷たい笑顔だった。
「私は無能のアルト君に心配されるほど弱い子じゃないよぉ?だから、安心して遠くに行って良いからねぇ。」
「……あぁ、そうだな。」
ルースにもS級冒険者としての、そして一流の回復魔法使いとしてのプライドがあったって事だな。
彼女を傷つけてしまったか。
「じゃあな、ルース。今まで本当に、ありがとう。」
「うん。バイバイ、アルトくん。もう会わないと思うけど、元気でねぇ。」
彼女は一瞬でいつものほんわかした微笑みに戻った。
「アルトくんは無能で役立たずだけど、嫌いじゃなかったよぉ。」
そんな事を言いながらフリフリとゆっくり手を振る。
俺は苦笑しつつ手を振り返した。
「…俺も、嫌いじゃなかったさ。」
若干の名残惜しさを感じながら、俺は背を向けて歩き出した。
「ちょっと待ちなさいよ。」
通りを歩いていると、後ろから聞き慣れた声に呼び止められた。
少し緊張しながら振り返る。
そこには腰に手を当ててこちらを睨んでいる女がいた。
「エレン……」
同じ村出身の幼馴染でもあり、パーティーメンバーで最も付き合いの長い彼女の名はエレン。
桃色セミロングをハーフアップにしており、ぱっちりとした猫目に勝ち気な瞳。
フェイほど小柄ではないがルースほど長身でもない。
しかしスタイルは良く、ある意味では一番バランスの良い体型をしている。
エレンはパーティーのアタッカーであり、戦場を縦横無尽に動き回り敵を斬り倒していく超一流の剣士だ。
俺は昔から、彼女の勇猛さに憧れていた。
「なに勝手に出て行こうとしてるわけ?アタシに挨拶くらいしなさいよ。」
ニヤリと嘲るように笑う。
かつて優しかったエレンは、いつからか俺を見下すようになっていた。
「すまない、ランスからすぐに出て行くように言われたんだ。」
「ふーん、それでノコノコ追い出されちゃったんだ。アンタってほんとヘタレよねぇ。たまには言い返したらどうなの?」
「ランス相手に喧嘩を売れってのか?勘弁してくれ。」
「……ふん、つまんない奴。」
「…それで、何か用か?」
「はぁ?アタシがアンタなんかに用があるわけないでしょ?ただ、アンタがこんなに可愛い幼馴染の顔を見られる機会も二度と来ないでしょうし、最後に拝ませてやろうと思ったのよ。」
あるんじゃないか、用事が。
しかも俺がそれほど望んでいないものが。
「ねぇ、パーティーを追放されてどんな気持ち?アンタごときが入れるパーティーなんてどこにもないでしょうし、これから先は人生真っ暗ねぇ。」
「………そう、かもな。」
一刻も早く、この場を離れたかった。
そうでもしないと、怒りや悲しみが抑えられないかもしれないから。
「も、もしアンタが望むなら、アタシが…その」
「エレン、聞いてくれ。」
「……何よ。」
話を遮られて不愉快な様子。
「エレンは確かに強い。才能もあって、強力なスキルもある。的確なサポートがあれば、お前は全冒険者の中でもトップクラスの実力だろう。」
「え……な、何よ急に。」
「しかし、これからはもっと巧く戦うんだ。俺がいなくなる以上、これまで通りのやり方では戦えなくなる。」
「は、はぁ?」
「今はまだわからないかもしれない。でもいつかわかる日がくる……と思う。その時は諦めずに新たな戦い方を模索するんだ。お前なら、きっと大丈夫だ。」
「ちょ、なに意味わかんない事を……」
困惑した様子のエレンに背を向けた。
「じゃあな、エレン。元気で。」
それはかつて愛した幼馴染に対する決別。
俺にとって特別な別れ。
このままでは女々しい泣き顔を見せる事になるかもしれないと思い、俺は一方的に別れを告げて走り出した。
「え、ちょ…ま、待ちなさいよ!待って!!」
後ろからエレンの声が聞こえる。
まだ俺に追い討ちをかけようというのか。
俺は少しも振り返る事なく、全力でその場から逃げ去った。
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