0.物語の序章
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『全ての魂には2つのスキルが与えられる』
これは、ここロンダルシア大陸では幼児でさえも知っている常識である。スキルこそが将来の運命を左右するからだ。
しかしながら、スキルは何も特別なものではない。
そのほとんどが、日常生活に即した料理や計算、剣術・武術や自然属性魔法などのように、日々の修練によって習得できる能力である。しかし、ごく稀に、生まれながらにして与えられているものもあるという。
特に後者のそれは、かつて魔王と戦うために召喚された異世界人たちの能力であるとされ、畏敬の念を込めて〝勇者スキル〟と呼ばれている。
誰もが憧れる勇者スキルだが、その実、ほぼ全ての情報がヴェールに包まれており、詳細を知る者、知ろうとする者は皆無である。強すぎる力は多くの富・名声・権力をもたらす反面、命を危険に晒すのが世の常であるからだ。
『西の真実』という、百年以上も前に書かれた本がある。
そこに記された、絶大な力を誇った勇者たちに関する数字――勇者たちの死因――が全てを如実に語ってくれるだろう。
・自殺、餓死……1467名
・処刑、殺害……4863名
・魔物討伐失敗(原因不明を含む)……375名
その本は、最後にこう結んでいる。
『勇者の敵は魔物にあらず、真の敵は人間であり己自身である』と。
然るに、人より優れた力を持つ者の中には、それをひたすら隠して生きていく者も決して珍しくはない。
この少年もまた、そのうちの1人だった。ある日の夜までは――。