第六十七話 庭園のテラスにて2
「その反応からしますと、少し不味い状況と言う訳でしょうか?」
「……どうして君がアレを知っているのかが気になるけど、まぁ、今は君の質問に答えるのが先だね。君の言う通り、少し不味い状況でがあるけれど、例えアレが活性化したとしても封印には何の影響もないよ。でも、周囲には甚大な被害が出るだろうけど……残念ながら私にはそれを防ぐ手立ては無い」
残念そうにフレディアナが言うがミカエルは何とも言えないような顔をしている。
フレディアナでも防げない程の甚大な被害って……具体的にはどの位なんだ? 都市一つが丸々消えるとかか? と言うか封印されていても尚甚大な被害が出るって、どんな化物だよ。
「甚大な被害とは、具体的にはどのような程度なのでしょうか? 私は実際に見たわけではありませんし、部下からもそのような報告は上がっておりませんので教えて下さると大変有難いのですが?」
「……君に報告が上がらないのは仕方がないんじゃないかな? アレについては神でもほとんど情報を持っていないからね。私も、それほど情報を持っているわけでが無いからね」
……情報を持っていないと言っている割には被害が甚大だとも言っている。どういうことだ?
「……シロ君、私をそんな哀れみの目で見ないでくれるかな? っと話がそれたね。アレの被害は、余波だけで国が一つ、跡形も無く消し飛ぶ程だよ。アレが魔法を放ったとしたら、周辺の国は良くて半壊。最悪の場合は消し飛ぶだろうね」
「ッ!!」
は? え? 余波だけで……国一つが消える? 冗談でも笑えない。
「では、私が記憶している突如として消えた国々は……」
「……恐らく、アレが放った魔法の影響で消滅したんじゃないかな? 君が記憶している国は知らないけど。でも、アレが活性化するのは百から五百年単位だよ。まぁ、今回は前回の活性化から五十年位しか経ってないからすでに異常ではあるのだけど……」
「封印されていてもそれほどの被害が……アレを封印事異空間やダンジョンなどに移動させることは出来ないのでしょうか?」
「無理だね」
俺もミカエルと同じ事考えてたけど無理なのか。しかも即答とは……。
「悔しいけど、私達四人の≪魔女≫と教会の連中が協力してあの場所に縛り付ける事しか出来なかったんだ。動かすなんてことは不可能。もし仮に動かすことが出来て、動かした瞬間に封印が一部でも綻びが出来てしまえば封印はアレによって一気に破壊されるよ。封印されていても国を簡単に消せるんだ……万が一封印が破られなんてしたら……想像もしたくないよ」
「封印とは……一体何のことでしょうか?」
「エリス……。聞いていたのが君で良かったよ。それより、謁見の段取りは決まったの?」
「えぇ、大体は決まりましたので伝えに来たのですが、穏やかではない単語が聞こえましたので失礼だとは思いましたが盗み聞きをさせて頂きました。それで、封印とは一体何のことなのでしょうか? 答えて貰えるでしょうか?」
「そうだね、君も知っているだろうけど、約五百年前に起こった大国と周辺諸国が一瞬にして消滅した災害……」
「……えぇ、私がギルド長に就任した年の出来事でしたので話だけは知っています。それと封印と何の関係があるのでしょうか?」
「話していた封印なんだけど、アレを抑え込む為に施したんだ。まぁ、結果から言うと成功して、一定年数で国が消える程度の被害で済んでるんだけどね」
「国が消えるほどの被害が程度……ですか?」
「言いたいことは分かるよ? でもね、アレを封印しなければ国が消える程度被害では済まなかったんだよ。最悪の場合この大陸が跡形も無く消えていた」
「……余波だけで国々を消し飛ばすのですからもしかしたらとは思っていましたが、大陸一つを消し飛ばすというのは……。それに、アレというのはどういう意味なのでしょうか? 意志ある者ではないという事でしょうか?」
「意思はあるよ。それどころか会話も出来る」
「では、話し合いなどでは……」
「無理だよッ!! アレに話し合いなんて無意味だよ! それどころか近づくことも難しい。……アレの異名は≪厄災≫正真正銘の災害だよ。しかもこの異名を与えたのは神々だ。人類がどうこう出来る相手じゃない。」
厄災って……何やったらそんな異名が付くんだよ。怖っ!!
「……物騒な異名を与えられる程とは、一体何をしでかしたのです? そのアレというのは……。因みにその異名で呼ばれる前は何と呼ばれていたのですか?」
「…………アレがやった事は私からは言いたくない。アレが≪厄災≫と呼ばれる前は≪始まりの魔女≫って呼ばれていたよ。今でもごく一部ではそう呼ばれているよ。しかも、アレも世界序列に名を連ねていたよ。今は空白になってるけどね」
うわー……関わりたくない。下手に関わったら呪われそうな気がする。
「アレの順位は第一位だったよ。当時、封印云々の前に捕縛するのが大変だったよ。封印したらしたで私や、他の≪魔女≫達魔力を全て持っていった。そのせいで、回復にはかなり時間が掛かったよ……。封印完了から二十年くらいは一切魔法が使えなかったし、今も封印と結界維持にかなり魔力使わされているせいで魔力の回復速度が物凄く遅いし、参ったよ。まあ、今考えれば≪魔女≫の戦力を削ぎたかったっていう教会の思惑があったんだろうけどね」
「元第一位……ですか。良く五体満足で生き延びれましたね。他の魔女達もですが」
第一位が空席の理由って、もしかしてこれが原因なんじゃ? しかも封印されているだけで消滅や消えたわけじゃない。封印が何らかの形で解かれたりなんかしたら対処出来ないんじゃ?
「シロ君、その通りだよ。私だけじゃなく、ミカエルもずっとこの地上に着いてから気を張っているんだよ。君やエリスは気付いてなかったみたいだけど……まぁ、とりあえずは封印の方は心配しなくて大丈夫だよ。いくらアレでも強固な封印を一人では解除できないから。さて、このくらいで良いかな?」
「はい、封印されているということが確認されているだけでも十分です。が、余波の被害の方をもう少し抑えることは出来ないのでしょうか?」
「……不可能だね。下手に結界を増やせば、封印と幾重にも張った結界の均衡が崩れかねない。封印に影響は無いとしても、間違いなく結界の方は崩壊するよ? 本来決して組み合うことの無いモノ同士を魔法で無理矢理引っ付けてるんだから。それに、これでも被害は減ってきているんだよ。封印してから初めてアレが活性化したときなんかこの大陸の端にまで小さいとはいえ被害があったんだから」
「そうだったのですか。それは失礼しました。フレディアナ、私の配慮が足りていませんでした。申し訳ありません」
「大丈夫だよ、そこまで気にしていないし、そんな事で怒っていたら疲れるしね。さて、この後はどうしようか。謁見まで最低でも二日は掛かるだろうし……」
確かに、結界は張り終わったし、フレディアナの知り合いが来るまでの間暇になるな。
「あ、そうだ。さっきミシェルにこの庭園内であれば植物に被害が無ければ、自由に良いって言われたからちょっと魔法とかの訓練をしようか。シロ君」
『は!? 嫌だけど? なんでそんな疲れそうなことやらないといけないんだ?』
「それはもちろん君の技術力の向上と実戦経験を積ませる為だよ。君は力の加減にムラがあるし、制御できない力は格上や同格相手には隙になるんだよ。最悪の場合、君と契約しているノール君にも被害が出るかもしれないよ?」
それを言われると、なんとも。
「じゃあ、早速始めようか。万が一の場合は私がどうにかするから安心して良いよ。ミカエル、この庭園全体に結界を……」
「承知いたしました。直ぐに準備します」
えぇ……ミカエルも同じ考えなのか!? エリスは……ダメだ同じだわ。
「エリスも何も言わないから問題無いみたいだね。私からの課題は……そうだね、私が呼び出す魔獣の討伐で、制限は君の持っている能力、及びスキルの使用の禁止。身体能力だけで倒して貰おうか」
うっわ、凄いスパルタ。ってちょっと笑ってるし……。
「じゃあ、早速魔獣を呼び出すから少し離れていてね」