第六十一話 面会
「大変お待たせ致しました。面会の準備が整いましたので、面会室へご案内致します」
部屋の前まで来るとノックをし、ドアを開いた。
案内された部屋は一見すると、先程の部屋よりも質素な感じがするが、よく見ると所々に細やかな装飾が施されていて目を引く。
「どうぞ、こちらにお入りください。間もなく当主が参ります。では、失礼致します」
メイドは一礼すると部屋を出て行った。するとすぐにドアがノックされ、見た目二十代くらいの男性が部屋に入って来た。
「あぁ、座ったままで構わない。私は、アレス・フォン・アーデンハイムと言う。アレスとでも呼んでくれ、巷では≪殲滅卿≫などと噂されているこの家の当主だ。以後、よろしく頼む。堅苦しいのは嫌いでな、私に敬語は不要だ。娘と妻、家臣達を助けてくれた事。心より感謝する」
「偶々その場に居合わせただけですので、気になさらないでください」
「いや、そういう訳にもいかない。それに、偶然であろうと助けられたのは紛れもない事実。……して、エリス殿はこちらでも存じているが、残りのお二人は申し訳ないが私は知らない。申し訳ないが、名を教えて頂けないだろうか」
視線をフレディアナとミカエルに向けながら当主が言う。
「そうですね。では私から、ミカエルと申します」
「……成程。ミカエル殿か、承知した」
侯爵は、納得のいってないような顔をしているが、大丈夫か?
「ミカエル様。この方は信頼できます」
「何を根拠にそう言っているのかは分かりませんが、信じましょう。……失礼致しました。改めまして、自己紹介させて頂きます。神々より≪正義と信仰≫の二つ名を与えられております。天使族族長、ミカエルと申します。以後、よろしくお願い致します。アレス様」
「こ、こちらこそよろしく頼むッ!!」
侯爵の顔がさっきよりもいっそう緊張した顔つきに変わった。
うん。普通はそうなるはず、フレディアナが少し……いや、かなりズレているだけだ。
「じゃぁ、次は私だね。私はフレディアナ」
フレディアナの名を聞いた侯爵は横に置いていた剣に手を掛けていた。
「ハハハ。流石は侯爵家当主だね。名を聞いただけで私の正体に気付いたみたいだね。でも、私には戦闘に意思はおろか害意すらないから、その手に持った剣から手を離してくれないかな?」
「……失礼した。恩人に向けて剣を抜くところだった」
侯爵は、ハッとして直ぐにフレディアナに頭を下げた。
「私は気にしてないから大丈夫だよ。それに、侯爵ともあろう人が≪魔女≫である私に頭を下げるのはそうかと思うよ? それに、本来であれば侯爵、君のその判断は正しいのだから」
「そう言って頂けると助かる」
「それじゃぁ、改めて。世界序列第二十位。≪絶望の魔女≫なんて呼ばれているフレディアナだよ。よろしくね」
「こちらこそよろしく頼む。で、先程だかこの屋敷に張られていた結界が突如大きな力によって消失したのだが、何か心当りはないか?」
バレてるし……まぁ、やったのはフレディアナだから仕方がない。
「その反応……やったのはフレディアナ殿か。まぁ、最初にやらかしたのは私だし、結界ならまた張り直せば良いだけだ。気にしないでくれ」
「うん。まぁ、結界に関しては完全に私の加減不足だったよ。部屋の結界だけを壊そうとしたら力加減を間違えて屋敷の結界事壊しちゃったのは紛れもない事実だしね。そこで提案なのだけど、この屋敷の結界、私が張り直しても良いかな?」
「それはどういう? と言うか≪魔女≫であるフレディアナ殿に守護の結界を張れるのか?」
「それに関しては問題ないよ。これでも私は元巫女でね。結界や神事には結構詳しいつもりだよ。屋敷に張られていた結界も王宮魔術師が張ったものだろうし、その程度なら問題ないよ。まぁ、お詫びにそれよりも強力なものを張らせて貰うつもりだけど。大丈夫かな?」
「……お願いしよう。ただし、私も見させて貰うが、良いだろうか?」
「それはもちろんだよ。なんなら結界の効果も君の言う通りのモノを付与するよ」
「それは助かる。宮廷魔術師に頼むと報告とかいろいろ面倒な事が多くてな……さて、結界の事はこれで良しとしよう。で、急に話は変わるのだが、昨日、大森林方面から膨大な魔力反応が二つあったのだが、フレディアナ殿、何か心当りはないか?」
「……ハハハ、心当りしかないね。一つの魔力反応は私のだね」
まぁ、だろうな。宿に居ても感知出来た程の魔力放出だったし……というか今考えると、此処に居ますよアピールだったような気がする。
「成程。では、もう一つの魔力反応は誰のモノか教えて貰えるだろうか? 私の予想だとフレディアナ殿と同じ≪魔女≫の誰かだと思うのだが……合っているだろうか?」
「凄いね。君は……その通りだよ。でも、どうやって≪魔女≫だなんて予想したのかな?」
「申し訳ないが、それは秘密だ。だが、ヒントなら教えよう」
「いや、要らないよ」
「そ、そうか」
即答……いや、もう興味を失くしてるのか? 良く分からないけど。
とそこで、ドアがノックされ、ミシェルさんが入って来た。
「面会中失礼します。そろそろ頃間と思い、誠に勝手ながら話に割り込ませて頂きます」
「ミシェル!? 何を言っているんだ?」
「……この感じですとまだの様ですね」
「うん。シロ君の事はまだ話してないよ。私がその話にならないように邪魔しているんだけどね」
「……フレディアナ様。それは流石に困りますので今後はやめて頂きたいです。それに、下らない話に時間を使っている余裕は無いのでしょう? と、いう事でフレディアナ様。シロ様についての説明をお願いします」
「あ……ハイ」
やはり、強いな……ミシェルさん。フレディアナを言葉だけで抑え込んだのか……。
「じゃぁ、シロ君についてだけど……≪神獣≫だよ。恐らくだけど、生み出されてそんなに時間は経ってないと思う。魔力の制御が甘かったし、≪神獣≫にしては幼そうだったしね。合ってる? シロ君」
『合ってる。魔力の制御が甘かったのはまだ魔力や魔素があんまりわかってなかったから。今も良く分かってないけど……』
「………………」
あれ? 侯爵が全くしゃべらないんだけど、大丈夫か? あのギルマスみたいに気絶してた入りして……。
「……ある程度の予想はしていたが、≪神獣≫だったのは流石に想定外過ぎて少し戸惑ったが何とか納得した」
「へぇ、予想はしてたんだ? 因みにどの程度の予想だったの?」
「気配や発する魔力から、かなり高位の≪聖獣≫か≪幻獣≫だと予想していたのだ。……まぁ、結果は全く違ったわけだが」
「いやいや、その考えに至っただけでも十分すぎるくらいだと私は思うよ? 私だって最初危うく攻撃するところだったし」
フレディアナ……それはフォローになってないんじゃ? それに、少し戸惑ったって……それで自身を納得させて侯爵も十分おかしいと思う。
「フレディアナ……貴女はフォローしたつもりなのでしょうけどフォローになっていませんよ。遠回しに侮辱しているように捕らえれても可笑しくない言い回しですよ?」
「ッ!! ごめんね。私はそういうつもりで言った訳では無いんだよ。気を悪くしたのなら謝るよ」
「いや、そんな事は無い。こちらこそ変な気を使わせてしまって申し訳ない。で、≪神獣≫殿は何用で此処……王都に来られたのだ?」
……あ、ここで話し振られるのか。運が良ければノールを探すのを手伝ってくれるかも……。
『ノール……俺と契約を交わした十歳の子供が居るんだけど、そのノールが急に居なくなったから探してる。』
「成程。居なくなってから何日ほど経ったのだ?」
「二日程だったかと思います」
「ん? エリス殿、貴女は知っているのか?」
「はい。依頼達成報告をシロさんに任せ、宿に向かったそうです」
「ふむ……。二日程度ではまだラガーの街付近に居るのでは? 齢十歳の子共なのであるならば、その足で行ける場所などかなり限られてくるはずだが?」
『……実は、ノールは依頼の途中で≪空間魔法≫を獲得して直ぐに≪空間収納≫を使用できる位に魔法の適性が高い。それがどれ程の事なのかは良く分かっていないが、おそらく凄いことだとは思う』
「≪空間魔法≫!? 魔法でも≪大魔法≫の類に分類されている魔法だよ!? 私でも使えるようになるまでにかなりの長い時間を要したくらいだからね?」
フレディアナでも時間が掛かったって……どれだけ難しい魔法なんだ?
「万が一、≪空間魔法≫が暴発なんてしたら、下手をすればその土地事この世から消滅する。でも、シロ君の反応からして、その契約者君は生きている。恐らく座標の指定を間違えてこの世界のどこかに飛ばされてしまったと考えるのが一番自然だね。それも、≪神獣≫の嗅覚でも感知できない程の場所に。でも、それは私の知り合いの所に飛ばされた可能性も物凄く低いけどあるわけだ。しかも、現在進行形でこの王都に≪魔女≫達の中で一番感知能力のある≪魔女≫メティリシアが向かって来てる」
一番感知能力のある≪魔女≫って、あの悪寒を放った≪魔女≫がメティリシア……なのか? でも、それと何の関係が?
「それと、今言うことではないと分かっているけど、この後だと言う時間が無いだろうから言わせて貰っても良いかな?」
「あぁ、構わない。それと、その契約者を探すのを手伝っても構わない」
『本当に!?』
侯爵の手を借りれるのは本当にありがたい! でも、ただで手を貸すとも思えない……。
「本当だ。ただし、国王陛下に謁見して貰い、私の個人的な願いを聞き入れてくれるのなら……だが、どうだろうか?」
……国王との謁見はもう決定事項だから諦めるとして、侯爵の個人的な願い……一体どんな事をお願いされるのか。出来れば簡単なのだと有難い。
まぁ、願いはどうあれ、明らかにメリットが俺にとっては大きい、聞き入れるしかないな!
『分かった。ただし、面倒事は勘弁して貰いたい』
「それは安心してくれて構わない。面倒事は私も避けたいからな」
「……じゃぁ、そろそろ私、話しても良いかな?」
「あぁ、話を遮ってしまってすまない。是非話してくれ」
「……昨日、クロニカとの戦闘中の事なんだけどね? 急にメティリシアから≪通信魔法≫が入ってね。あ、≪通信魔法≫って言うのは、念話の魔法バージョンだとでも思ってくれて良いよ、シロ君」
説明してくれるのは助かるな。エリス達は知ってるみたいだし。……にしても、戦闘中にそんな事して、良く骨折と切り傷、火傷程度で済んだもんだな!? 服はボロボロだったけど。
「で、その内容がね? 目の前に突然子供が現れたって言う事だったんだ。そのこともの特徴がシロ君の契約者の特徴と一致してね? おそらく君の契約者であるノール君可能性がある。で、メティリシアがその子供と一緒に王都に向かっているみたいだけど、どうする? あくまでも可能性の話だけど」
どうするって、そんなの会うに決まってるッ!! 少しでもノールである可能性があるのなら……。
あれ? そう言えば俺、フレディアナにノールの詳細について教えたっけ?
「一応言っていたよ? まぁ、結局は勝手に心を読ませて貰ったんだけどさ」
……マジかよ。しかも今もさりげなく心読んでるし……。