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転生したら狼になってた  作者: 白黒
第三章
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第六十話 侯爵家

 空が白み始めた頃、宿屋の前にフレディアナの気配を感知した。

 どうやら、大森林とやらから戻って来たらしい。にしても宿屋を伝えていなかったのに良く分かったな。


「おや、どうやら戻って来たみたいですね」


 うお!? びっくりした!! ミカエル、一体何時から起きてたんだ? 少なくともさっきまでは完全に眠っていたはず……ミシェルさんとレイラはまだ眠っているし、エリスはもうすぐ目を覚ましそうな気配を感じる。


「窓を開けましょう。空気の入れ替えをします。っと、シロ様、少し窓から離れてください。どうやら窓から入るみたいです」

『は? 扉があるのに何故わざわざ窓から入ってくるんだ?』

「何故かは分かりませんが、相当急いでいるようです」


 ミカエルが窓を開いて直ぐフレディアナが入って来た。しかもボロボロの姿で。

 フレディアナがボロボロな姿は初めて見る。彼女も≪世界序列≫に数えられるほどの強さを持っている。一体大森林で何があったのだろうか。


「いや~、ごめんね? こんなボロボロな姿で……」


 今まで通りな感じで話してはいるが、かなり殺気が漏れ出ている。


「成程、それ程までに≪再生と衰退の魔女≫が力を付けていたという事ですか。……となると、少し不味いことになりそうですね。まぁ、それは今は置いておいて、治療をしてしまいましょう」


 いや、不味いことって何? 物凄い気になるんだけど?


「見た目ほどのダメージはないよ。多少の切り傷と火傷。それと二、三か所程骨が折れているだけで内臓は無事だよ」

「それは何よりです。それならば、≪治癒ヒール≫だけで事足ります。直ぐに終わりますのでそのままでお願いします」

「≪神の御力にてこの者の傷を癒し給え。神聖魔法 治癒ヒール≫」


 ミカエルの手から緑色の優しい光が放たれると、一瞬にしてフレディアナの傷が癒された。


「これで、骨折も治っているはずです。服の方は……廃棄した方がよさそうですね」

「し、≪神聖魔法≫!? 治癒ヒールは≪治癒魔法≫に分類されているはず……何故、≪神聖魔法≫で発動しているの!?」

「おや、ご存じありませんでしたか? ≪治癒魔法≫の大本は≪神聖魔法≫ですよ?」

「え!?」


 フレディアナが完全に言葉を失っている。

 ただし、とそのあとにミカエルが付け加えた。


「≪治癒魔法≫として発動する治癒ヒールと、≪神聖魔法≫として発動する治癒ヒールでは、回復量や消費魔力が圧倒的に違いますし、並の術師では≪神聖魔法≫の方は発動すら不可能です。ですが、今の貴女であれば発動することが出来るはずですよ。信仰心は戻っていないでしょうがね」

「……何を根拠にそんな事を?」

「私が、何も知らないとでも思っているのですか? ≪再生と衰退の魔女≫との戦闘で貴女が≪神聖魔法≫を発動させたことを。最も、貴女がその手に持っている≪神聖属性≫を纏っている大幣を媒体にして……ですが」

「やはり、神の眷属である天使の君に誤魔化しは通用しないよね」

「えぇ、我々天使は、神聖な気配や悪意などには敏感ですので誤魔化しは無意味です。……ですので、貴女がどれだけ敬虔な信徒で在ったか……良く分かるのです」

「……でも、それは過去の話、今の私は≪魔女≫だから、もう関係の無いことだよ。元の話から大分ずれてしまったね。でも、大本が≪神聖魔法≫だったのは素直に驚いたよ。驚き過ぎて言葉を失うくらいにはね。さぁ、そろそろ彼女達が起き始めるころだよ。私は今の内に着替えてしまうよ。何時までもこんな穴だらけの服を着ている訳にもいかないし……と言う訳で、シロ君とミカエルは少しの間部屋の外に出ていてくれるかな? 私が言える事ではないのだけどね。ついでにエリス達を起こしておくからさ」


 と言う訳で部屋の外に出された。結果、三十分程待たされることになった。


「お待たせ~。さぁ、下に行こうか」


 そう言って部屋から出て来たのはフレディアナだけだった。あれ? ミシェルさん達は?


「あ、彼女たちは私が先に馬車の方に移動させておいたよ。多分エリス以外はまだ寝てるんじゃないかな? エリスは私が着替えている時に目を覚ましたから。まぁ、ボロボロになった服を着てる私を見てびっくりしてたけど」


 そりゃあびっくりすると思う。目を覚ましたら、ちょっと大森林に行ってくる言ってた奴がボロボロになった服を着て立っていたんじゃしょうがない。それと、宿代は半分出すことになったというか勝手にフレディアナが支払っていた。

 

「では、出発致します。」



 馬車に揺られること四時間。ついに侯爵家に到着したのだが、屋敷の大きさに言葉を失っていた。それはフレディアナも同じ様で、目を見開いて硬直している。


「相変わらず、圧巻の一言ですね。前回王都に来た時よりも大きくなっていませんか?」

「エリス様が何時王都に来られたのかは分かりませんが、そうですね。二年ほど前に増築しています」


 ……掃除、大変そうだな(思考放棄)

 そうこうしていると門が開き一人の初老の執事が出て来た。


「お帰りなさいませ。奥様、お嬢様。そして、ようこそおいで下さいました。侯爵家一同、貴女様方を心より歓迎いたします。早速ではございますが、当主が貴女様をお呼びで御座います。メイドが貴女様方を休憩部屋へとご案内致します。お手数で御座いますが何卒当主への面会をお願い致します」


 執事が門の方へ視線を送ると、門の裏から一人のメイドが出て来た。


「それでは、皆様をご案内致します。どうぞ、私の後に付いて来てください」

「えぇ。よろしくお願い致します。メイド長さん」


 エリスが満面の笑みを目の前のメイドへと向けている。

 メイドは少しだけ驚くような素振りを見せたがお辞儀をして歩き出した。

 扉がゆっくりと開かれ、屋敷に入った。エントランスを抜け、一番奥の部屋に案内された。

 

「こちらでお待ちください。面会の準備をして参ります」


 メイドが一礼して部屋を出て行った。

 メイドが扉を閉めた瞬間、ほんの少しだけ、違和感を感じたが、害意が一切無かった為気にしないようにした。そして、目の前には巨大な絵が一枚飾られている。


「……何? この馬鹿みたいに大きな絵は? 申し訳ないけど、私には何が描いてあるのか全く分からないんだけど」

「そうですね。私の好みでもありませんね。ですが、何か力を感じます。恐らく、この絵自体には何の意味はないのでしょう。ただのカモフラージュと見て良いと思います」

「フフ。侯爵は相変わらず悪戯がお好きな様ですね」


 批判的なフレディアナとミカエルとは対照的にエリスは面白そうに微笑む。


「うん? エリス、今のはどういう意味? 何か知っているのかな」

「えぇ、知っていますよ。ミカエル様が申していた通り、この絵には何の意味もありません。ただのカモフラージュです。そして、この部屋は今結界に覆われています。もちろん私達を害する類のモノではありませんので警戒はしなくて大丈夫です」

「……悪趣味だね。褒められたことじゃないよ。ねぇ、この結界壊して良いよね? 害意が無いのは分かったけど、悪意はあったって事だよね」


 あ……これ、かなり不味い。この屋敷、消し飛んだりしないよな!?


「そうですね。でも、侯爵様にとってはお遊びに過ぎないでしょうから。この部屋の結界も粉々に砕いてしまって大丈夫です。何か言われても私が何とかします。ですが、屋敷へ被害が出た場合はフレディアナ、貴女が何とかして下さい」

「分った」


 フレディアナはそう短く返事をすると、手に持っていた大幣に魔力を集め始め、その影響で部屋がミシミシと音を立てて揺れ始めた。

 ちょッ!! 部屋がやばい音して揺れてるんだけど!?


「フレディアナ……本当に分かっていますか? 部屋がミシミシいってるのですが?」

「大丈夫だよ。結界が思ったよりもかなり強力でね、ちょっと苦戦してるんだよ。周りへの被害を考えなければ直ぐなんだけどね? よし、いくよ!」


 フレディアナが魔力を込めた大幣でドアに触れた瞬間、ガラスが割れたような音が部屋の中に響き渡った。


「あっ……まぁ良いや」


 おい……今の「あ」っていうのはどういう意味だ!? ……何か嫌な予感。


「良くはないでしょう? 今のでこの屋敷に展開されていた結界まで砕け散ってしましたよ? ……仕方がないですね。私が結界を張り直しましょう。侯爵様から何か言われたら私が結界を張り直したと伝えてください」

「いや、それくらいは自分で伝えてよ。君、天使でしょ?」

「今、天使かどうかは関係ありません。貴女が屋敷の結界も一緒に破壊してしまったのが悪いのです」

「いやいや、元はと言えばこんな場所に招き入れた侯爵の責任なんじゃないの?」

「それは違いますよ。得体の知れない私達を警戒するのは当然の事です。それに、私達を刺激しないようにとかなり気を使ってくださっていたようですし」

「……分ったよ。伝えるよ。ついでに謝罪もしておくよ」

「お願いします。万が一の場合は私も一緒に謝罪致します」


 しばらくして、扉が開き、先程のメイドが入って来た。

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