第五十八話
フレディアナの視点になります。
シロ達が宿に付いた頃、フレディアナ森に居た。
私は王都の冒険者ギルドにシロ君たちを残し、王都から二十キロほど離れた≪ルブナの大森林≫と呼ばれる場所に来ている。シロ君たちにはストレス発散と言う事にして来たが本来の目的は彼女をシロ君達から引き離す事。彼女の性格からすれば不確定な≪神獣≫よりも私の方に来る。
「あらあら、まさかこんな森の中に入るなんて……お陰で私の着物が汚れてしまったじゃない。どうしてくれるのかしら?」
木々の影から薄紫を基調とした着物を着た私より少し背の高いオレンジ色の髪をした女性が微笑みを浮かべながら姿を現した。
「そんな事を私に言われても知らないよ。勝手に私を追いかけてきたのは君でしょ? ねぇ、≪再生と衰退の魔女≫クロニカ」
「仕方がないじゃない? 三体目の≪神獣≫があそこに居るという確証は無かったのだし……だったら、知っている貴女を追えば良い。そう思うでしょう?」
「言っていることは分かるよ? でも、私がその≪神獣≫の情報を持っているとは限らないよね?」
「いいえ、貴女は知っているわ」
「ハハハ、何を根拠にそんな事を言っているのかな?」
「そうね。貴女が≪読心≫と言う特別なスキルを持っているように私も持っているのよ。心は読めないけれど、動物達の声や草木などの植物の声と言うモノを聞くことが出来るスキルを持っているの。まぁ、植物も操ることが出来るのだけど」
「成程ね。でも、私が知っていたとしても、話すとでも思っているのかな?」
「いいえ、思っていないわ。だから、少し乱暴なことをしてでも聞き出するもりよ。それに、何故私がこうも長々と貴女と無駄な話をして、スキルのことまでご丁寧に説明しているか分からないのかしら?」
彼女、クロニカが私の目の前に現れてから魔力がひっきりなしに動いていると思ったけど、成程。植物を操って私の退路を塞ぎ、更に拘束するつもりだね。
「まさか、君が私の目の前に現れた時点で魔力が動きまわっているから流石に気付くよ。私がただ何の準備もせずに君の長話に付き合っていたとでも?」
「……フフ、ウフフ。やはり貴女の勘は鈍っては……いえ、より洗練されたような気がするわ。それ程までに三体目の≪神獣≫は面白い存在なのかしら?」
クロニカの魔力が霧散していく気配を感じる。どうやらもう植物を操るのをやめた様だ。
……それにしても、相変わらず恐ろしい程高い魔力操作だね。しかも半径四メートルの草木一本一本全てに自分の魔力を込めて操るなんて……前回あった時よりも魔力も魔力操作の質も格段に上がってるね。
「……また、魔力量も魔力操作の質も上がったみたいだね」
「そうね。でも、その代わりに集中力と魔力の消費速度、量共に前とは比較にならないくらいに上がったわ」
「だろうね。君の今の魔力の残りが三分の一になっているからね」
少し挑発してみたけど……果たしてどう来るかな。
「……分かりやすい挑発ね。にしても貴女、前に神への信仰は捨てた、何て言っていたのに≪神の加護≫を持っているなんて……心変わりでもしたのかしら?」
「ハハハ、まさか? 今でも神は嫌いだよ。でも、すべての神が私を見捨てた訳では無いと知れただけだよ」
「……物好きな神もいたものね? 魔女に加護を与えるだなんて。一体何の神かしら? 解析しようとしても弾かれてしまうの。良かったら教えてくれないかしら、物好きな神の名前を」
「いやいや……教えるわけないでしょ? と言うか、そんな態度で良く教えてもらえると思ったね。びっくりだよ!?」
「あらぁ、残念ねぇ……。だったら、少し手荒なことをさせてもらうわね?」
先程から会話をしながら少しずづ魔力を周りの草木に送っているのを気付いていないとでも思っているのかな?
「……君は、相変わらず抜け目が無いんだね」
「あら、何のことか分からないわ?」
「白々しい。さっきから少しずつ魔力を周囲の草木に流してるよね?」
「フフフ。魔力感知、ほんの少しだけ、精度が上がったのね。今までだったら気付けなかったのに……」
「それはどうも、でも、あまり他人を舐めてるとその内痛い目に合うかもしれないよ?」
「大丈夫よ。私がふざけた態度をとるのは貴女だけだから」
……それはそれで腹が立つね。それに、草木だけじゃなく更に別種の魔法の構築まで始めてる。流石に今の段階では何の魔法なのかまでの判断は難しいね。
「じゃぁ、おしゃべりもこれくらいにして、そろそろ三体目の≪神獣≫の情報を聞かせて貰うわ。抵抗してくれても構わないけれど、軽い火傷や怪我で済むとは思わない事ね」
クロニカが言い終わると同時に十数個の魔法陣が周囲に浮かび上がり、即座に私に向かって魔法が発動された。
発動された魔法は一種類だけではなく、火や水、土に風など様々。中には風、水、火の複合魔法である霧魔法も混じっていて視界は最悪。
霧魔法だけでも厄介だけど、水と氷を無理矢理繋ぎ合わせたであろう私でも見たことの無い魔法も発動されている。これをいちいち解析している暇はないし……反魔法を使用するには少し時間が掛かる。その隙をクロニカは確実に狙っているだろうから反魔法を使う訳にもいかない……それに、魔法陣から発動される魔法に気を取られてると足元の植物に不意打ちをくらいかねないし、無詠唱で飛んでくる魔法にも対応しないといけないし……面倒だね。
こんな事ならもっと早く冒険者ギルドを離れて反魔法の魔法陣を設置して結界の準備をしておくべきだったね。今更そんなことを後悔しても遅いけど……。さて、どうやって彼女の魔法に対応しようか。にしても魔法の密度が頭おかしいの? ってくらいに濃いし……私を殺す気なの?
幸い、私の方が魔法発動速度は速い、反魔法の発動に約4秒弱……一度会えて魔法をくらって反魔法を発動するしかないか……痛いのは勘弁してほしいんだけど。……確か、この辺に仕掛けていたはず。
クロニカが魔法陣を仕掛けたであろう場所に向かって足を踏み出した、すると予想通り、仕掛けられていた魔法陣が即座に起動し、私の踏み出した足を戒め、動きを止めた。
拘束系統の魔法陣……どうやら、運が良かったみたいだね。多少の負傷は止む無し……。反魔法の術式を高速構築……完了。詠唱開始。
「≪我が前に在る魔法を消し去り給え……。≫」
よし、詠唱完了。阿藤は、魔法名を詠唱して発動させるだけ。魔法の発動音や炸裂音で私の声はクロニカには聞こえていないはず……。これで、今発動されている全ての魔法を無効化させて貰うよ。
「≪反魔法≫発動!!」
私のたった一度の魔法で、こちらに向かっていた視界を蔽い尽くすほどの数の魔法、私自身が発動していた魔法、さらには構築中の魔法陣は消え去った。それと同時に生じていた轟音や地響きもなくなった。そして、静寂が訪れた。
これでクロニカは魔法の発動は不可能。まぁ、それは私も同じなのだけどね。クロニカからは反則だ何だと言われるだろうけど……彼女の総魔力量の方が反則だと思う。
「さて、これで君お得意の攻撃魔法や隠密魔法は使用不可能だ。隠れてないでさっさと出て来なよ……それとも、引きずり出されるのがお望みなのかな? 大体の君の居る場所は見当がついているんだ」
すると、私の影の中からクロニカが姿を現した。
……あれ、ちょっと予想外過ぎるところから出て来たんだけど!?
にしても……見渡した感じ、綺麗に草木一本残らず更地と化したね。あ、ヤバイ。私、終わったかも……。こんなの絶対にミカエルにバレるじゃないですかヤダー。
ま、まぁ。大森林の四分の一が更地になっただけだから大丈夫……大丈夫だよね? 大丈夫であって下さいお願いします!!
「……やはり、いつ見ても反則じゃないのかしら? 貴女のその魔法は……」
「いやいや。君には言われたくないからね!? あれだけ馬鹿みたいに魔法をぶっ放して未だにそう魔力量が半分を切ってないおかしいからね!! しかも消費魔力が多い複合魔法や連結魔法を使っておいてそれだからね」
思わず言い返してしまったが仕方がない。だって本当におかしいからね。
「全く。これでは身体強化の魔法しか残されていないじゃない。あんまり体術は得意じゃないのに……」
そんな事を言いつつクロニカは異空間収納から一つの武器を引っ張り出した。
彼女の身の丈を超えるほど全長。槍の様に長い柄があり、しかも先の部分は刀と言う武器の様な刃が付いた武器。
「……変わった武器だね。たしか、薙刀っていう武器だっけ?」
「あら、この武器を知っているなんて驚きね」
私の問いに言葉では驚きねなんて言っているがその表情は一切驚いた様子は無い。
にしても、この武器何か違和感が……。
「まさか、その薙刀って≪属性武器≫!?」
これにはクロニカも目を見開いて驚いている。どうやら当たりらしい。属性武器なんてとんでもなく希少な物一体どこで見つけてきたのやら。
「驚いたわ。まさか一目見ただけで当ててしまうだなんて!! その通りこの薙刀は≪属性武器≫よ。この世で現在六本しか確認されていない金属でありながら金属性以外にもう一つの属性を持つ武器の中の一つよ。」
「……よくそんなものを持っているね。一体どこで見つけてきたのやら」
「本当は使うつもりはなかったのだけど、得意な攻撃魔法を封じられた以上これを使うしかないわ。手加減は出来ないから死ぬ気で防御するか避けなさい。≪属性武器≫だと見抜いた褒美にこの武器の属性と性質を教えてあげるわ」
「ハハハ、それは有難いね。対処しやすくなるよ」
「……この薙刀の属性は≪地属性≫。その性質は≪不変≫、簡単に言ってしまえば、状態維持と言った所かしらね」
ありゃ、予想では植物……木属性かと思ったんだけど、地属性かぁ。さて、≪属性武器≫の対処はかなり厄介だった記憶がある。しかも死ぬ気で避けるか防御するしかない……か。さて、どうしたものかな。一番手っ取り早いのはこちらも≪属性武器≫を使うことだけど……そんな簡単に見つかる訳がないし。
まぁ、持ってはいるんだけどね? 私の使える≪属性武器≫は扱いが他の≪属性武器≫に比べて特段に難しい。一歩間違えればこの世界の三分の一が瞬時に消滅しかねないほど危険な物……全く、なんてものを押し付けてくれたんだか……。にしても、≪神獣≫の情報を聞くためだけに、わざわざ≪属性武器≫を持ち出されるとは思ってなかったよ。
さて、いい加減覚悟を決めようか!!
「……≪地表は時の流れにより様々な変化をする。しかし、大地は変わらず其処に在り続ける≫ッ!!」