第五十七話
「……結局彼女たちを侯爵家に送るっていうのは無しになったってことで良いのかな? というか、宿の方を手配したのなら、どうして直ぐに教えなかったのかな? いくら、ミカエルの登録手続き異例で混乱してたとしても、連絡するくらいは出来たはずだよね?」
お……おう、フレディアナさん何故かご立腹、言いたいことは分かるけど、そこまで怒らなくても良いんじゃ?
「ごめん。私今からちょっと≪ルブナの大森林≫に行ってくる。朝までには戻る予定だから心配はしなくて良いよ」
「……フレディアナさん。森への多少の被害は構いませんが、大森林の半分を消し飛ばしたり、生態系に大打撃を与えるような攻撃はやめてくださいね? それと、戻ってきたら、転移魔法と転送魔法の違いをきっちりご説明いたしますので、そのつもりでおねがいしますね?」
フレディアナはミカエルの言葉をスルーしてギルドから出て行った。
……逃げたのか?
「……では、宿の方にご案内いたします」
「その宿の方ですが、シロ様も部屋の方には入れるのでしょうか?」
「はい、問題ありません。契約獣や従魔などもご一緒に宿泊できる宿を手配しています」
良かった。一人寂しく野宿なんてことにならなくて……。そう言えばフレディアナに宿のこと言ってないけど大丈夫か?
「あ、そう言えば……フレディアナさんにや宿屋の事をお伝えしていませんが大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ではないでしょう……今から私が追いかけて、フレディアナ様に伝えてきますので!!」
「いえ、その必要はありません。それ以前に天使長であるミカエル様や侯爵夫人であるミシェル様がこんな夜に護衛なしに出歩くなど……」
「侯爵夫人であるミシェル様は問題でしょうが、私は問題はないと思うのですが?」
「そういう訳にはいきませんミカエル様。もし教会の者に見つかりその羽根や貴方様が天使……しかも、天使長だという事がバレてしまっては面倒な事が起こるのは必然。そうなるとシロさんの目的であるノール君の捜索に影響が出てしまいます」
「……そうですね。シロ様の目的はあくまでも少年の捜索でしたね」
「あの、それ以上の話は、宿屋に着いてからでも宜しいのではありませんか?」
タイミングを見計らってミシェルさんが宿屋に行くように促してくれた。
「そうですね。これ以上侯爵家の方々を待たせるわけには行きませんね」
ようやく話がまとまり、宿に向かうことになった。馬車に戻ると、レイラが満面の笑みで俺達を出迎えた。
「時間はかかるだろうと思ってはいましたが、まさかこれ程とは……」
「えぇ、私もこんなにかかるとは思っていませんでした。ですが、レイラ? 宿の方は冒険者ギルドが手配してくださいましたし、宿泊料まで出して下さるのです。感謝しなくては」
「そ、そうですね。ですが……「それ以上は宿に着いてからですよ。レイラ」はい。それと、シロさん? 何故そんなに毛を逆立てているのでしょう? 何か怖いことでも?」
いや、誰だって怖がると思うぞ? 馬車に入った瞬間、笑顔を張り付けた般若がいたら……。
「お待たせいたしました。手配した宿に到着いたしました。使用人の方々の部屋も用意していますので、もしよろしかったら……」
◇◇◇
……と言う事で、チェックインして部屋に来たわけだが……何故侯爵夫人と令嬢と一緒の部屋に居るのだろうか? 他にも、エリスやミカエルも居るが……二人共自分の部屋があるのに、何故ここに来た?
「ふぅ、ようやく少し落ち着けますね。念のため、防音結界を発動させましたので、シロ様。しゃべって頂いても大丈夫ですよ?」
『あ……うん。ありがとう』
「それで、シロ様? 私に聞きたい事があるのではありませんか? 先程……基、私と会った時からどうも落ち着かない様子でしたので」
もしかしてミカエルも思考が読めるのか? いや、この際だから聞いておいた方が良いだろう。
『実は……ちょいちょい出てくる≪世界序列≫っていうのが気になってて……何となくは理解しているつもりだけど、良く分かってないのが現状なわけで、詳しく教えて貰いたい』
「はい。そもそも≪世界序列≫と言うのは、簡単に言ってしまえば、ただの総合値の高い順ってだけなのです。とある神の一柱が、ある一部の者達を除外して、生命力や攻撃力、防御力などの総合的な強さを計算し、その強い順番で100まで示したのが≪世界序列≫というものなのです」
「成程、様はただの指標の様な物、と言う認識で大丈夫でしょうか?」
「はい。その認識で構いません。ですが、当然その戦闘力は一般の方々から見れば常識離れしていますし、実際、ヴァルディエルも世界序列第五位ですが、苦手分野では他の三大天使には劣っています。あくまで順位は総合的なものだという事です。ですので状況次第では、世界序列二位の龍神に、第四位の神虎でも勝てる可能性があると言う訳です。まぁ、十位以下の者では何が起きたのか理解する間もなく殺されてしまいますが……」
『じゃぁ、何で俺が三位になったんだ? 特に何か大きなことをしたわけでもないのに……』
「それは私にも分かりかねます。しかし、大多数の神々が貴方様が三位と言う位置付けに賛成されたのです」
『ん~……色々疑問は残るけど今はとりあえずそれで納得しておく』
「えぇ。それが宜しいかと……神々が考える事は我々が理解できる範疇を超えていますので」
……神だからってことで納得しろと……了解です。
『因みに、そのある神って言うのは……』
「申し訳ありません。私でもどの神なのかまでは……神々の中でも知っているのは創世神様くらいかと思われます」
『そうなのか……創世神に聞けば教えてくれるか?』
「いえ、答えては下さらないと思います。……実は今までにシロ様と同じように疑問に思われ、創世神様に直接聞きに行かれた神も居ましたが、全て断られてしまわれたそうなのです」
『それはまた……』
「おそらく、創世神様にも言えない事情があるのだと思われます。聞きに行かれた神も顔を青ざめさせて戻って来られました」
『……これ以上聞くのはやめておく』
「えぇ、それが宜しいかと思います」
『で、話は変わるけどフレディアナは何しに行ったんだ?』
「ストレスの解消ではないでしょうか。それかもしかしたら他の≪魔女≫の対応では? フレディアナも≪魔女≫の気配を感じ取っていたようですし、どの≪魔女≫かは知りませんが」
え!? ≪恐怖の魔女≫っての以外もここら辺にいるのか?
「えぇ、確かにフレディアナさん以外の≪魔女≫の気配を感じます。……この気配からしますと、おそらく≪再生と衰退の魔女≫ではないでしょうか? 確か名前は……「クロニカではありませんか?」あぁ、確かそう言った名前だったはずです。しかし、良く知っておられましたね」
「えぇ、一応≪破滅の魔女≫以外の≪魔女≫の名前は憶えておりますので」
す、凄いな!! 前ギルドで聞いた時は、≪魔女≫の二つ名以外は殆ど知られていないって言われたのに……。何でミシェルさんは知ってるんだ? って、レイラも知ってるみたいで頷いてるし。
「覚えてる……いうよりもお父様から教えられたのです。知っていて損はないからと、無理やり覚えさせられました。そのお陰で答えられたのですがね」
「す、凄いですね!! お恥ずかしいですが、私も≪二つ名≫しか知りませんでした。ですが、これで≪破滅の魔女≫以外の≪魔女≫の名は判明しました。しかし、また厄介な≪魔女≫が近くに居たものですね……いえ、来たといった方が良いでしょうか。目的はおそらく……」
と、此処で全員視線が俺に向けられた。
え……俺!?