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転生したら狼になってた  作者: 白黒
第三章
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第五十六話

 俺がそんな悪寒を感じ少し震えているとミカエルが答えた。


「承知しました。今のは聞かなかったことに……いえ、聞こえなかったことにしましょう。恐らく、貴女の声は≪恐怖の魔女≫には筒抜けになっているでしょうから」

「うん。そうしてくれると助かるよ。私の軽率な発言で君達を巻き込みたくないからね」


 そう何でもない言いながらもフレディアナの肩が恐怖で小刻みに震えているのを俺は見逃さなかった。

 ≪恐怖の魔女≫……怒らせたら取り返しのつかないことになりそうだからスルーしたい。


「……気を取り直して、彼女だけど、基本的には優しいよ。下手な発言をしなければ……だけどね」


 うん、それはつい今しがた思い知ったよ……。


「私達の行動は彼女には筒抜け……という認識で大丈夫でしょうか?」

「そうだね。そういう認識で構わないよ。……文字通り彼女には筒抜けだよ。私達の行動も、他の魔女の行動も……ね」


 文字通りって……何かしらの手段で俺達の行動を認知している……ということなのだろうか?


「シロ君。その通りだよ。彼女は何かしらのスキルか能力をを使用、もしくは併用して私達の事を認知しているんだよ。残念ながら、私でもどんな能力かは一切分からないよ。その代わり向こうも私の能力やスキルの詳細な情報は知らないと思うよ。私の他人の……主に人間のだけど思考が読み取れる能力は他の≪魔女≫達にはバレちゃってるのが私としては微妙な所かな」


 ……フレディアナの読心術が他の≪魔女≫達にはバレているのか……。ちょっと不利な状況かもな。


「それと、注意するのは≪恐怖の魔女≫のメティリシアだけなじゃいよ? 帝国には、まだまだかなりの実力者が居るからね。その中で最も警戒するべきなのは……≪破軍の戦姫≫と呼ばれている人物。噂程度の情報だけど、たった一人で連合軍を壊滅させただとか、単騎で赤竜レッドドラゴン青竜ブルードラゴン黄竜イエロードラゴンの三体を討伐したとか……結構な話が私の所にも届いていたよ。間違いなく、世界序列には入っていると思うよ。予測だけど、二十位以内には入っているんじゃないかな?」

「私も聞いたことがあります。フレディアナ様がお聞きになられた噂はおそらく二つとも事実かと思われます。実際その者には皇帝から直々に≪竜殺し≫の称号を与えられたそうです」


 ≪竜殺し≫って……何故か嫌な予感がする。


「≪竜殺し≫……ねぇ。人の王が勝手に与えた称号だから効力はほとんどないんだろうけど、何となく嫌な予感がするよ。一応私達も竜は倒しているわけだけどさ」


 赤竜レッドドラゴンは凍らせて動きを止めて仮死状態になっているだけであって討伐したわけでは無いのだが黙っておこう。


「いえ、違いますよ? フレディア」

「ん? どういう意味?」

「私達は討伐したのではありません。シロさんが凍らせて足止めしているに過ぎないのです」


 あ……エリスにバラされた。というかエリスの指示で凍らせることにしたんだから問題はエリスに丸投げしとけば良いか。


「え!? それってかなり不味くない? 万が一溶けるようなことがあれば……」

「そこは問題ありません。シロさんが解除しない限りは≪神獣≫クラスの化け物でなければ、溶かすことはおろか不用意に近づけば即刻氷漬けになるかと。一応ですが私の魔法で状態を維持できるようにしています。気休め程度にはなるでしょう」


 いつの間にそんな魔法を……?


「一体いつそんな魔法を……あぁ、私がマルセと話している時に感じた魔力は君だったのか。何者かの攻撃魔法かと思って警戒したけど無意味だったみたいだね」

「シロさんは気付いていない様でしたので黙っていました。でも、フレディアナ、貴女は気付いていたみたいだったので、てっきりどの程度の魔法か認識していると思っていました」

「普段だったら集まる魔力の質で見当がついたけどあの時はマルセに集中し過ぎてそこまでの余裕はなかったんだよ。君からすぐに説明されるだろうと思ってたんだけど全く説明されなかったのもあるし、直ぐ私の冒険者への登録に転移に……一気に色々あり過ぎて聞くタイミングが無かったんだよ」

「た、確かに色々あり過ぎました。今回のは仕方なしと言う事にしましょう……。しばらくはこの話題は

私の居ないところでお願いします。……それにしても遅いですねミカエル様の冒険者カード」


エリスが少し心配気に言うとフレディアナはため息を吐きながら答える。


「……仕方がないんじゃない? 何せ天使が冒険者の登録何て前代未聞らしいし、しかも初の登録がその天使達の長なんじゃぁね?」

「言いたいことは理解できますが、あれから一時間以上は経っているのですよ?」


 え!? そんなに時間が経ってたのか? 話を聞くのに夢中になってて全然気づかなかった……。


「あれ、そんなに時間が経ってたっけ? 体感的にはせいぜい三十分くらいかと思ってたんだけど」


 お、どうやらフレディアナも俺と同じ感覚だったらしい。


「事実、経っているのです。その証拠に先程までちらほらと居た冒険者達が今は私達だけになっています」


 エリスに言われて辺りを見回すと確かに俺達しかいなくなっていた。


「これは……困りましたね。そろそろ宿屋の受付終了時間になってしまいます……。最悪の場合は馬車の中で一夜を過ごすことになりそうです」


 侯爵家の人に迎えに来てもらえばいいんじゃ?


「いや、侯爵夫人である君や使用人達は帰れるんじゃないかな? というか侯爵本人に迎えに来てもらえば済むんじゃないの?」

「えぇ、本来でしたらそうするのですが、今回はそういう訳にもいかないのです。先程魔道具で夫に確認を取った所、私が責任を持って貴女方を侯爵家まで案内するよう言われました。それに、此処は王都です。馬車を使っても端から端まで行くのに最低でも四日はかかってしまいます。王城に行くのにも二日と半日かかります。我が侯爵家は、馬車で王城から半日程の場所にあります。今から出たとしても一日以上かかります。なので本来であれば宿を利用するのですが……今回は時間が掛かっているのと王都に到着した時間が予定よりも大分遅くなりました。なので、宿の方は諦めようかと思っております」

「フレディアナ、貴女の魔法で侯爵家の方達だけでもどうにかできませんか?」


 急な振りにフレディアナは一瞬戸惑ったが、直ぐに答えた。


「……場所さえ教えて貰えれば、転送魔法で送ることは出来るよ。でも、残念ながら今の私の魔力残量では転送魔法はおろか数メートルの転移も出来ないよ。本来なら転送魔法や転移魔法は膨大な魔力を使って一度だけでも成功させることが出来れば奇跡と言われてるんだ。それを一日に二度もやらせようだなんて、エリス……君は私を過労死させるつもり?」

「いえ、消してその様なことは……世界序列二十位でも連続使用は不可能ですか……。因みにミカエル様は如何ですか?」

「そうですね、転送魔法であれば、日に何度かは発動可能ですが、あれだけの方々を転送させるとなると、日に一度が限界ですね。つまり先程の転送で今日は打ち止めです。転移魔法の方は私は申し訳ありませんが習得しておりません。そもそも、転移魔法と転送魔法は全くの別物です」

「……あれ、そうなの? てっきり同じものだと思ってたよ。でも、この際だから転移魔法も習得しといた方が良いんじゃない? 万が一のためにも」


 フレディアナからの提案にミカエルは渋い顔をしていたが、しばらく考えてから頷いた。

 ……何か問題でもあるのだろうか?


「…………確かに、それは一理ありますね。分かりました。転移魔法を習得しましょう。数分ほど待っていてください。一度天界へ戻って創世神様から許可を貰ってきますので。理由はシロさんの万が一に備えて……と言う事で説得してみます」

「うん。それでいいと思うよ。ついでにどうしたら私がもう一度祝詞や神聖魔法を扱えるようになるか聞いて来てくれない?」

「……私は貴女の小間使いではないのが……まぁ、良いでしょう。ついでに聞いて来ましょう」

「助かるよ」

「あくまでもついでだという事を忘れないでください。それと、私が居ない数分間の間神獣殿……シロ様をお願いします」

「大丈夫だと思うよ? たった数分で何か起こるなんてことは……ごめん。出来るだけ早く戻って来てくれると助かるよ」

「私からもお願いします! 下手をすればほんの少し目を離した間に大惨事……なんてことも」

「……承知しました。なるべく早く創世神様にお伝えしてきます」


 ん? 今物凄く不快な感覚がフレディアナとエリスの方からした気が……。しれっとミカエルにまで煽られた気がする。……気のせいであって欲しい。


「では、数分間の間、お願い致します。エリスさんとミシェルさんは問題はありません。が、何故かフレデイアナさんから不穏な気配を感じるので更に早められるように頑張ってきます。それと、後で転移魔法と転送魔法の違いと出来る事と出来ない事しっかりとお教えしますので……」


 そう言うとミカエルの周りに神々しく光る魔法陣があっという間に形成され、魔法陣が受付内を光で埋め尽くした次の瞬間にはミカエルは目の前からいなくなっていた。


「……流石は天使長、やってることがぶっ飛んでるね。まぁ、ミシェルからしたら私やエリスも十分ぶっ飛んでると思うけど」

「そ、そうですね。転移魔法や転送魔法などは本来宮廷魔術師などの魔力値の高い方達が数十人がかりでようやく発動できるかどうかというもの……決して一人で発動し更に成功させるなど、私からしたら驚きを通り越してもう呆れます。それをやった方が今目の前にいらっしゃるのですが……どう致しましょうか」

「ん? それについてはどうもなにもないよ? その程度の情報なら国王に報告しちゃって大丈夫だよ。でも、私が魔女って言う事は私が直接伝えるよ。国王と話す機会があれば……だけど」

「……先程も申し上げましたが、ほぼ間違いなく呼び出されます。フレディアナ様やエリス様のことまで聞かれるかは分かりませんが、神獣様は絶対に聞かれますのでそこは覚悟しておいた方が宜しいかと」


 ……あ、王城に行くのは確定なのね? でも明日フレディアナが帝国方面に居る魔女に連絡を取るって言ってたんだけど……?


「シロ君……そんな目で見られても私じゃどうしようも出来ないから諦めて? 私がめてぃしあと連絡を取るのが明日だけどその日の内に来れるか分からないよ? まぁ、私も王城に行くのは抵抗があるけど」

「いえ、来れると思いますよ? と言いますか、向かって来てるのではないでしょうか?」

「? それはどういう……いや、やっぱり言わなくて良いよ。間違いなく向かって来てる。さっきの悪寒と言い、現在進行形で強大な魔力の塊がゆっくりとだけどこっちに向かって来てるのを感じるよ」


 ……えっと、急にそんなことを言われても……というか全くその魔力の塊?を感じないんだけど? 俺の感知能力が貧弱だから何も感じないのか?


「シロ君は何も感じてないみたいだね。と言う事は、メティリシア……相当気を使ってるみたいだね。彼女にしては珍しい」


 ん? 珍しいって……どういう意味でだ?


「そうなのですか? 私はもちろん、ミシェル様もそのメティリシアと言う≪魔女≫については全く情報を持っていないので……」

「私もそこまで詳しいわけでは無いけど……一つだけ、はっきりしていることがあるよ。君達もついさっき感じたであろうあの威圧。帝国付近に居るであろう彼女が正確に私達に向けて放ったんだ。つまり、彼女の感知可能範囲が異常なまでに広いと言えるんだよ。おまけに私よりも世界序列の順位が上なんだ……何位かは知らないけど」

「……膨大な感知可能範囲に、フレディアナよりも世界序列の順位が上……ですか」

「あ、因みに彼女はモフモフな動物に目が無いらしいよ? これは彼女本人が言ってたから間違いないよ」


 いや……最後の捕捉はどうでも良い気が…………。


「それは、神獣様が標的になる可能性がある……と言う事でしょうか?」

「可能性と言うか……一直線にシロ君に飛びつくと思うよ? まぁ、今すぐにどうこうなる訳では無いから、そこまで心配する必要はないよ。早くても明日の昼頃だね」


 いや……それってそんなに時間無いんだけど? 帝国からこの王都までどれくらいの距離かは分からないけど、一日かからないってやばいな……。


「…………ミカエルがそろそろ戻って来るみたいだよ」

「はい? 何を根拠にそのようなことを?」

「僅かだけどこの空間の空気が浄化されたからだよ。彼女は無意識だろうけど、天使が地上に現れる時は必ずと言って良い程空気が浄化されるんだよ。天使の位が低い程、無駄に空気を浄化してしまうらしいよ」

「やはり、どれだけ抑えても浄化されてしまいますか」


 突如ミカエルの声が目の前から聞こえたかと思ったらいつの前にか本人が目の前に居た。


「お待たせいたしました。無事、創世神様を始めとした他の神々から許可を得てきました。……まだ呼ばれてはいないようですね」

「そうですね。本来であればこのようなことはあり得ない事なのですが……一体何をしているのかわかりませんね」

「エリスにそこまで言わせるとは……相当悩んでいるみたいだね」


 それから四十分ほどして、ギルドマスターが降りてきた。


「大変、長らくお待たせいたしました。こちらが、ミカエル様の冒険者カードになります。紛失されますと再発行に金貨一枚お支払い頂くことになりますので子承知おきください。さらに、本日このように時間が掛かってしまい、このようなお時間になってしまった事を心よりお詫び申し上げます」

「構いません。私も一度私用でこの場を離れましたので」


 入って来た時や話していた時には抱きかかえられていて気付かなかったが、どうやらこのホールには、時計が存在しているらしい。俺以外の全員は入った瞬間に気付いたらしいが……仮に抱きかかえられていなくても、視線が低くて見えなかったと思う。

 ゆっくりと周囲を見渡すと、確かに時計があった、しかも時間は十二時を回っていた。

 

「本日は当ギルドで手配いたしました宿屋でご宿泊いただければと思います。もちろん費用の方は当ギルドが負担いたします」


 お、それは有難い。……あれ? その宿って契約獣とか大丈夫なのか?

 それと、気になったんだが、ミカエルの冒険者ランクは何になったんだ?


「それでは、宿の方に案内いたします。それと、表の侯爵家の馬車の中にいらっしゃる方々の分も当然こちらで負担いたします。それと、侯爵家ご当主には既に許可を貰っておりますので、心配はご無用です」

「あら、それは助かります。それにしても意外ですね。主人が許可を出すとは……」


 全く驚いているようには見えない。というか、ミシェルさんが僅かに微笑んでいて怖い。まるで、計画通りと言う感じがする。

 ……気のせいだろうか?

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