第五十四話王都の冒険者ギルド
一人でそんな事を願っていると順番が回ってきた。
「お待たせ致しました。身分証の提示をお願いします」
「はい。こちらに」
門兵に身分証の提示を求められ、すぐさまミシェルさんが応じた。
身分証を受け取った門兵はさっと目を通すと直ぐに返した。
「はい。確認できました。では、次に馬車の中に居られるお三方、お願いします」
続いて門兵エリスとフレディアナ、ミカエルへと提示を求めた。
フレディアナとエリスは良いとして、ミカエルの場合はどうするんだ?さっき契約したばっかりだから身分証なんてものは無いし……。
「ねぇ、エリス。冒険者の場合はさっきギルドで貰った冒険者カードで良いんだよね?」
「えぇ、そうです」
フレディアナとエリスは冒険者カードを門兵に渡すと一瞬門兵の目が見開かれたが直ぐに問題なしと判断され返却された。
「お二方は問題ありません。では、其方の方、身分証の提示をお願いします」
「どうやらこのお方、王都で冒険者の登録をするおつもりだったらしく、生憎と身分を証明する物を持っておりません」
「そうですか。では、大変申し訳ありませんが、王都への立ち入りは不可とさせて頂きます」
「お待ちください。このお方は身分は私が保証致します! なので、どうか王都の立ち入りを許可して頂きたいのです!」
「し、しかし……」
「何を騒いでいる?」
ミシェルさんと門兵が話していると門兵の後ろから体格の良い男が出て来た。
「へ、兵長!! 何故、このような場所に?」
「いや、何やら話し声が聞こえたのでな、気になって様子を見に来たのだ」
どうやらこの体格の良い男は兵長の様だ。と言うか……なんで俺の方を見てるんだ?
「……ん? この家紋は!! し、失礼しました!どうぞ、お通りください。馬車の中に居られる方も通って頂いて構いません」
「へ?」
急に現れた兵長のお陰で無事、王都に入ることが出来た。
門兵の方は突然の兵長の登場で間の抜けた声を上げた。
馬車が門を離れて少ししたら兵長とさっきの門兵の話し声が俺の耳に入って来た。
「へ、兵長!? 宜しいのですか? 通してしまって……」
「馬鹿者!! お前、家紋を確認しなかったのか!?」
「い、いえ。確認はしましたが、それに、何問題はなかったのでお通ししようと思いましたが、馬車の中に居られる内の御一人が身分を証明出来る物持っていなかったので止めたのですが……」
「……そうか、であるならばこの際にあの家紋を覚えて置くと良い」
「は、はぁ」
「あの家紋は英雄と言われているアーデンハイム侯爵の紋章だ。お前もアーデンハイム侯爵の武勲は聞いたことがあるだろ?」
「は、はい!!単騎で王都に襲来したワイバーンの群れを殲滅したとか、アーデンハイム侯爵家だけで悪魔の軍勢の半分を殲滅したとか……」
「あぁ、その話はすべて事実だ。まぁ、そのせいで他の貴族から殲滅卿とか言う異名が付けられた程だ。それと同時に愛妻家としても有名だ。……本当に、此処にアーデンハイム卿本人が居なくて良かった」
などと言う話が聞こえてきたがミシェルさん達には言わない様にしようと決めた。にしても殲滅卿……物騒過ぎないか!?
「無事、門を通過できたのでまずは冒険者ギルドに行きましょう。天使長様の身分証明のために冒険者カードを発行して貰いましょう」
「気になっていたのですが、私の事はどうぞ、ミカエルとお呼びください」
「そ、そのような失礼なことは……」
「お願いします。私だけ二つ名で呼ばれますと仲間外れ感がありますので、そうかミカエルとお呼びください」
「し、承知いたしました。ミカエル様!」
「私に様などと……」
「申し訳ありませんが、これだけは譲れません!」
「私も同じくミカエル様と……」
「私はミカエルさんとお呼びさせて頂きます」
「わ、分かりました」
ミカエルが圧され、渋々と言った感じに了承した。
「あ、私は普通にミカエルって呼ばせてもらうね」
「えぇ、よろしくお願い致します」
ミカエル達の話を聞いていると突然馬車が止まった。
「おっと、どうやら冒険者ギルドに到着した様ですね。私達もついて行きますので、そのつもりで居てくださいね?」
「し、しかし、危険ではありませんか? 万が一と言う事もありますし……」
ミカエルが心配そうに声を掛けるがミシェルさんは何ともない様に答える。
「これでも殲滅卿など呼ばれる男の妻です。Aランク冒険者が何人居ようと問題はありません」
「そ、それは 物凄く頼もしいよ」
「では、何時までも扉の前に居るわけには行かないので、入りましょう」
「入るのは構いませんが、レイラさんは如何致しましょう」
「そうですね。では、レイラも一緒に……は行きたくないようなので馬車の中で待っていて貰いましょう」
チラリとレイラの方を見ると物凄い勢いで首を左右に振っている。
そんなに行きたくないのだろうか?
なら、俺も行かなくても良いのではないだろうか。行ったら面倒事が起こるのは程間違いない訳だし。
「あ、当然ですがシロさんは一緒に行きますよ? ミカエルさんと契約していますので、行かない。などと言う選択肢は最初から存在しませんよ」
と満面の笑みで俺に伝えてきた。
逃げようと考えるも、いつの間にかエリスに抱きかかえられていた。
……その俊敏さ、戦闘で使ってもらいものだ。
と言う訳で強制的に連れて行かれることになった。
ギルドの扉を開くと案の定一斉にこちらに視線が集まった。が、それは一瞬で、直ぐに視線は散った。
と言うか、避けられている様な気がする。いや、間違いなく避けられてる。数秒だけだが目が合った冒険者があからさまに目線を逸らした。
それにしても人が少ない。王都の冒険者ギルドだというのにエリスの居たギルドよりも人が居ない。依頼にでも行っているのだろうか?
そうこうしている内に受付カウンターに来た。
「失礼。冒険者の登録をしたいのですが、こちらで宜しいでしょうか?」
「侯爵夫人ご本人がで御座いますか!? ……し、失礼しました。では、こちらの水晶に手を乗せて下さい。数秒で発行が完了致します」
「説明、感謝いたします。しかし、登録するのは私ではなく、こちらのミカエル様です。紛らわしくてごめんなさい」
「い、いえ!!滅相も御座いません!私の早とちりですのでお気になさらないで下さい」
ミシェルさんが謝罪を口にすると受付嬢がびくりと肩を震わせながら答えた。
「で、では、ミカエル様。こちらの水晶に手を乗せてください」
「はい」
ミカエルは言われた通り水晶に手を乗せた。すると、水晶が金色の光を放ち粉々に砕け散った。
……あ、物凄い既視感がある。
水晶が砕け散ったことによりミカエルのステータスが測定不能であることが確定した。
が、受付嬢は慣れた様子で対応を始めた。
「少々お待ちください。只今ギルド長を呼んで参ります。それと、万が一冒険者に絡まれた場合は直ぐに近くの職員か受付嬢にご報告をお願いします。直ちに対処いたします。最も、殲滅卿の二つ名を持つ侯爵様の奥方様に手を出す者はこのギルドには居ないとは思いますが、一応お気を付けください」
「お心遣い感謝いたします。万が一から絡まれた場合は返り討ちに致しますし、早急に職員に報告します」
「……なるべく被害は最小限でお願いします。私も急ぎますので」
そう言うと、受付嬢は一礼して、小走りで階段を駆け上げって行った。
……ミシェルさん、結構武闘派なのか?
「ギルドマスターが来るまで他の方の更新及び照会を致しますので、冒険者カードの提出をお願い致します」
今度は別の受付嬢が話しかけてきた。
「いや、私は更新の方は大丈夫。登録したばかりだし、王都に来る途中に襲ってきた魔物を倒した程度だし、照会だけお願いするよ」
正確には馬車を襲ってたオークを倒したんだけど……。
「畏まりました。では……こちらの水晶にカードをかざして下さい。そうしますと後は自動で照会が完了致します」
と、机の下から新たに水晶を取り出しフレディアナの前に置いた。
……色々とハイテク過ぎない?
「照会完了致しました。Eランク冒険者のフレディアナ様で間違い御座いませんね?」
「うん。間違いないよ」
「では、次の方、お願い致します」
「……私の場合は照会の必要はないと思うのですが……」
エリスが不満そうに告げる。
「一応、お願いします」
「分かりました」
エリスは何処からか冒険者カードを取り出し、水晶にかざした。
というかエリスの冒険者カードだけ色々と違うんだけど? 淡い紫色だし、妙にキラキラしてるんだけど……。
「ご提示、有難うございます。世界序列第九十位で、ラガーの街の冒険者ギルド。現ギルドマスターのエリス様ですね。照会完了です。ラガーの街と言えば、お酒が有名でしたね? 特に発泡酒が……私も一度で良いので行ってみたいです……。と、失礼しました。今のは忘れて下さい。で、エリス様が抱いていらっしゃるそちらは従魔でしょうか?」
「いえ、従魔ではなく契約獣です。仮契約ですが……」
「仮契約……ですか?」
「はい。仮契約です。私程度の魔力では仮契約が限界でした。それに、既に契約済みですし、ミカエルさんと守護契約を交わしています。仮契約だけでも出来ただけ奇跡ですよ」
「エリス様でも仮契約が限界……ですか」
受付嬢が俺をじっと見つめてきた。僅かに魔力の流れを感じた。
……嫌な予感がして、フレディアナに助けを求めるように視線を向けると、視線に気付いたフレディアナが直ぐにエリスと受付嬢の間に入ってくれた。
「ねぇ、君。仮とは言え、契約者の許可も無しに契約獣を鑑定するのはどう言う了見なのかな?」
「し、失礼致しました。無意識とはいえ、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」
「……君、今嘘を吐いたね?」
「はい? あの、失礼ですが一体何を根拠にその様なことをおっしゃられているのでしょうか」
受付嬢は平然と答えるが、フレディアナは無視して続ける。
「……まぁでも、君が上の命令で仕方なくやったのは分かってるからそこまで怒りはしないけど…君の上司、ギルドマスターには私からしっかり言っておくよ。対象が私達だったのは運が良かったって。もし、その契約獣が魔女の契約獣だったら、この王都は一瞬にして消え去ってるよ」
フレディアナが不敵な笑みを受けべて受付嬢に告げた。
……背筋がゾワッとしたが黙っておこう。というか受付嬢さんが真っ青な顔してガタガタ震えて可哀そうなんだけど。
「これに懲りたら上からの命令は無理な時はしっかり断った方が良いよ」
と満面の笑みで言っていた。
表情は笑っているのに目が全く笑って……というか怒っている様に感じた。
っと、今はそれよりもミカエルにノールの捜索を手伝ってもらわないと……。
そう思い、ミカエルに念話を飛ばそうとしたらそれよりも先にミカエルが小声で話しかけてきた。
「神獣殿、先程からソワソワと落ち着きが無いようなのですが、何かございましたでしょうか? それとも、契約者様の事でしょうか?」
『実は契約者の事でミカエルに頼みが「承知しました。現在行方不明の契約者様であるノール様の捜索と場所の特定。万が一の場合は保護致します。三日程時間を頂ければ必ず見つけ出しましょう!!」……ヨロシク頼む』
三日って……早過ぎないか!?
「心配なさらなくてもある程度の予想は出来ております。後は向かうだけです。神獣殿も一緒に行きますか?」
『行きたいのは山々なんだけど、速攻でバレる予感がするし、第一に何処に居るか全く分からないから見つかったら教えてくれると助かる』
「承知いたしました。見つけ次第即座に報告いたします。っと、私はこの後登録があるのでした。ですので、私の部下にある程度調べさせることにします」
そう言うとミカエルは、魔力を集中させ一匹の小さな青い鳥を生み出した。
『えっと……この鳥は?』
「私の魔力で作成した部下です。索敵能力に長けておりますので、例え何処かに監禁されていたとしても見つけ出せるかと思います」
……え!?今、ミカエル何て言った!?魔力で造った?
あ……フレディアナが頭抱えてる。
「さて、取り合えずはこれでノール様を探せますね」
凄い嬉しそうに言ってるけど、こっちからしたらそれどころじゃないんだけど? 幸いなことに、フレディアナとエリスを除いた人には気付かれなかったようで安心した。
なんて思っていると急にミカエルが光り出した。
急な光に何事かと周囲に居た冒険者達が事らに集まってきた。
エリスが咄嗟に光魔法をを使ってミカエルの周りを照らしたという事にして場を治め、何とか混乱は防いだ。
「驚きましたか? 周囲にある魔素をを取り込んで部下を造った時に使用した魔力を回復したのです。神獣殿も魔素と言うものがどんなものか理解すれば出来るようになりますよ?」
うん。それはやってみたいけど、何してんの!?やるにしても場所を考えて貰いたい……。ってあれ?さっきミカエルが生み出した小鳥は何処に行ったんだ?
俺が小鳥を探しているとミカエルが微笑みながらこっそりと話しかけてきた。
「私の部下なら先程のちょっとした騒ぎの時に放っておきました。魔素を吸収する際や吸収した魔素を魔力に変換する際は発光などは致しません。先ほどの発光はただの光魔法です。そうでもしなければ魔力感知が可能な冒険者にはバレてしまいますので咄嗟に使用致しました。驚かせてしまい申し訳ありません」
『あ、そういう事だったんなら全然大丈夫と言うか寧ろ有難い。でも、次からは事前に俺とフレディアナとエリスには伝えて欲しい』
「承知いたしました。次からは念話を用いてお伝えいたします」
『あ、後神獣殿って言い難そうだからシロって呼んでくれ』
「!!承知いたしました。これからはシロ様と呼ばせていただきます」
『様もいらないんだけど……』
「いえ、そういう訳にはいきません!!私とシロ様は守護の契約を交わしました。上下関係で言えば、シロ様の方が上なのです。ですから、これは譲れません!!」
などとコソコソと話していると先程ギルド長を呼びに行った受付嬢が戻ってきた。どうやら俺達をギルド長の部屋案内するとの事。
他の冒険者には聞かれたくない話がある……そういう事なのだろうか?
と言う訳でギルド長の部屋に行く事になった。
俺は早くノール探しを再開したいのだが……まだ時間が掛りそうだ。