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転生したら狼になってた  作者: 白黒
第三章
64/81

第五十話森の中、オークの集団と貴族のご令嬢

『……結構深い森の中みたいだけど、此処が王都近郊の森で良いのか?』

「うん、そのつもりで転移したら、間違いは無いはずだよ?まぁ、私よりもエリスの方が詳しいと思うけどね」

「…えぇ、間違いなくここは王都近郊にある森です。別名≪暗がりの森≫と呼ばれています。その名の通り、日中でもこのように薄暗いのです。そのせいで冒険者かどうしてもこの森を通らなければならない場合意外は滅多に近付きません」

「あ、それと王都へと続く道はこっちです」


そう言うとエリスはずんずんと森の中を進んで行く。

こんなに薄暗いのに良く迷わずに進めるな……。

などと考え事をしながら歩いているとエリスが突然足を止め、フレディアナは何処からか大幣を取り出した。


「……この気配、狼?いや、違う。ゴブリンかな?」


突然のことに俺は反応が遅れ、フレディアナの背中にぶつかった。


「えぇ、多分そうだと思います。それとシロさん、大丈夫ですか?」

『大丈夫だ。ちょっとぶつかっただけだ』

「そのことは置いておいて、エリス、君が先行して状況確認してきてくれない?」

「はい!?何故私なんですか?嫌ですよ?フレディアナ、貴女が行って来てください!!」

「え?何で?と言うか君の方が魔物達に変に警戒されないでしょ?」

「どういう意味ですかそれは?」


エリスとフレディアナが言い合いをしている間に俺の耳は金属同士がぶつかり合う音を拾った。さらに、香水の様な花の様な匂いと甘ったるく不快な匂いを嗅ぎ取った。

……この音は、この先で戦闘になってるのか?しかも何だ?この不快なまでの甘ったるい匂いは?


『エリス、フレディアナ。気付いてるとは思うだろうけどこの先で誰か戦ってるかもしれない』

「そうなの?私には何も聞こえないけど……」

「……!!確かに、戦っていますね。僅かですが、金属がぶつかる音がします。何と何が戦っているかまでは分かりませんが、行った方が良いでしょう。と、言う訳でフレディアナ…お願いします」

「は?だから私は嫌だって言ってるよね?君が行ってよ」

『……じゃぁ俺が行ってく「「ダメ(です)!!」」』


即却下された…なんかショック。


「と言いますか。貴方が行ってもし戦闘相手が冒険者だった場合、間違いなく貴方が攻撃されますよ?」


う……言い返せない。


「はぁ、仕方ありません。私が先行しますので、フレディアナとシロさんは直ぐ後を付いて来てください」

「わかったよ」

『……了解』

「っちょ、何でそんな不快そうなんですか?」

『ん?あぁ、不快なくらい甘ったるい匂いがするもんでつい』

「……不快なくらい甘ったるい匂い……ですか?」

「きゃあぁぁぁぁ!!!!!」


突然森の中に一つの悲鳴が響き渡った。


「!!エリス、急いだ方が良いかもしれないよ!!おそらくその匂いは魔物寄せの匂い袋の匂いだよ!!しかも、今の悲鳴からするとかなり不味い状況かもしれないよ!!」


魔物寄せと言う単語と悲鳴を聞いたエリスは直ぐに走り出した。


「ほら、シロ君、呆けてないで私達も行くよ!!下手をすればエリスでも厳しいかもしれないから」

『分かった』


俺とフレディアナは直ぐさまエリスの後を追いかける。

数十メートル程走ると馬車と戦っているエリスと兵士、オークが見えた。エリスも俺とフレディアナを視認すると目線を馬車に向けた。


「了解。シロ君、私と一緒にあの止まってる馬車に近づくよ。恐らく、あれは貴族の馬車…面倒事は嫌だろうけど、今回は諦めて。それに、どうやら囲まれてる見たいだから私達で潰しながら行くよ!あと背に乗せてくると物凄く助かるんだけど…ダメかな?」

『……あの馬車に着くまでの間だったら』

「ありがと」


と言うか、フレディアナって魔法メインじゃなかったっけ?近接戦は大丈夫なのか?


「あ、そう言えば言ってなかったけど、私、これでも元巫女だからね。近接戦闘の心得はあるから心配しなくて大丈夫だよ。オーク程度の魔物なら何匹いたところで遅れは取らないよ。たった数十メートル。君なら一秒も掛からないでしょ?さぁ、行こう」


フレディアナの言葉と共に走り出したが、直ぐに違和感を覚える。

何と言うか…【スタンピード】の時よりも速く走れてる気がする……。

などと考えている間にもう馬車の目の前まで到達していた。


「は、早ッ!!反応できない速さで移動したんだろうけど全く風の抵抗を受けなかったよ!まるで転移したのかと錯覚するほどの速さだよ」


うん。俺もびっくりしてる。少し早く走ろうと思って力を入れたら一瞬の内に馬車の所まで来たんだから。そんなことは今は置いておいて……エリスの方を見ると、ものすごい勢いでオークの集団に向かって突っ込んで行っている。

しかも、早すぎて良く見えないが、エリスが突っ込んだ後を見ると、すべてのオークの眉間に細剣と同じ大きさの穴が一つ空いている。


「うは~恐ろしいね。あの細腕の何処からあんなパワーを生み出しているのか分からないよ。しかも一撃全てが寸分たがわず眉間に入ってる。恐らく私が魔法抜きでエリスと勝負したら勝てる自信が無いよ……」


うん。俺も全く剣先が見えない……と言かエリスの攻撃が早過ぎて剣が何本もあるみたいに錯覚するんだけど……。


「っと、エリスの剣技に見とれてる場合じゃないね。シロ君、私達にもお相手が来たよ。数は視認十、まだ潜んでいるかもしれないから注意してね!!」

『……分かった』

「この馬車の護衛達はみんなエリスに釘付けだから多分大丈夫だよ。仮に馬車の中の人に見られてもシロ君は私の従魔だと思われるだろうからそこまで面倒な事にはならないと思うよ?確証はないけど」


……何か気が抜けるな。というかフレディアナの魔法でオークの集団位なら簡単に消し飛ばせると思うんだけど?


「あ、今私の魔法でオークの集団を消し飛ばそうとか考えなかった?出来るけど周りにも被害が出るからやらないよ?その代わり、君がやって見せてよ。もちろん、周りへの被害は最小限にしてね?」


と、さらっと要求してくる。

あれ?何で俺が戦うことになってるんだ?面倒だから嫌なんだけど?


「嫌、何て言わせないよ?それに、君はどうやら威力の加減が上手くできてない見たいだからね。いい機会だから練習すると良いよ。じゃぁ、初めに先頭のオークの数体の足を止めさせてみようか」


……なんだろう。フレディアナから物凄い圧を感じる。やらなきゃダメっぽい……諦めるか。

足が軽く凍るであろう力を込めて、オークの集団に向けて放つ。


―パキッ


……あれ?足元を凍らせるつもりが氷漬けになってる??フレディアナの顔を見なくても気配で分かる。めっちゃ呆れてる!!


「……シロ君?私、足を止める程度って言ったんだよ?」

「誰も氷像を造れなんて言ってないよ?君の総魔力量は不明。君が足止め程度と思って込めている力は足止め程度じゃなく上級魔法に分類される魔法を行使するときに使われる魔力と同等なくらい込められてるんだよ。足止め程度の力を君の感覚で言えば……そうだね。足先にほんのちょっと力を入れるくらいの感覚で良いと思うよ。さぁ、それを踏まえてもう一度、今度は最後列のオーク五体の足を止めてみようか!」


うへぇ……メンドクサイ。しかも結構無茶な要求だし……。

えっと…足先にほんのちょっと力を込める。と、こんな感じか?後は、狙いを付けて……そい!!

フレディアナのアドバイス通りに力を籠めオークの最後列に狙いを定める。


『≪アイスバインド≫』


―ピキ……。パキパキパキッ!!

詠唱完了と同時に冷気が発生し、一瞬にしてオークの集団の最後列に到達すると、漂っていた冷気が太い紐のような形を成し、オークの足首に絡みつき一瞬にして凍らせ動きを止めた。


「お見事。君は呑み込みが早くて良いね!今回はこの位で良いよ。次はもう少し精密な力の制御を出来るようにしようか」


……これ以上精密な力の制御って……あれ?もしかしてフレディアナって結構スパルタ?

と言うか色々急展開過ぎて忘れてたけど、あの悪魔のせいで折角のオークの肉を回収できなかったんだ!!でも幸いなことに目の前にはオークの集団……つまりは今ならオークを狩り放題なのでは!?


「……まさかとは思うけどシロ君。目の前に居るオークの集団を狩り尽くす気でいる訳じゃないよね?」


不意にフレディアナからそんな言葉を掛けられ、冷ややかな視線を向けられた。

ば、馬鹿な!!フレディアナが心基、思考を読めるのは人間だけのはず……何故バレた!?


「……君、随分と残念な考えをしてるみたいだけど、あえて言っておくよ。私、一応ほとんどの生物の思考は何となくだけど分るんだよ。まぁ、君の場合は尻尾を見ればどんなことを考えているか容易に想像できるんだけどね」


……マジですか。


「まぁ、このオークの集団は一匹残らず殲滅しちゃって良いよ。ただし、威力は抑えてね?氷像とか後ろの馬車も一緒に凍らせるとかは無しでお願いね?」


あれ?おかしいぞ?言葉は随分優し気なのにフレディアナから妙な威圧感を感じる!!なんなら馬車の反対側、エリスの居る方向からも同じような威圧感が……。うん。気にしない方向でいこう。

先刻よりももう少しだけ力を込めて……。


『≪アイスバレット≫』


≪アイスバインド≫と同様。詠唱完了と同時に冷気が一気に広がる。しかし先程とは違い。一度広がった冷気が俺の元にまで戻って来ると、頭上でゆっくりと滞留を始め、ものの数秒で数百の小石程度の大きさの氷が形成された。

流石にこれは不味いと思い慌ててフレディアナの方に振り返るとフレディアはさっと目線を逸らした。


「………」


あれ?スルー!?……取り合えずいつまであっても邪魔だから発射ッ!!

―ドドドドドッ!!!

頭上に形成されていた数百もの氷の礫が高速で雨の様にオークの集団へと降り注ぐ。

土煙が晴れると倒れ伏すオークの集団が……しかし、体の方には全く傷一つ無い。あるものと言えば、

先程生成した氷の礫と同じ程の穴が額に一つだけ。


『……ナニコレ??』

「それは私が聞きたいよ。一体どう言う事?あの大量の氷の塊を一気に打ち出したって言うのにあるのは額の穴だけ、本来あれだけの数の氷の塊を……しかも一気に打ち出したのなら、いくらオークの体だとしても穴だらけになるはずだよ……?」

『……それは俺にも良く分からない。けど、どうせ狙うんなら一撃で仕留めたいと思って発射したらこうなった』

「……私、別にそこまでの精密さは求めてなかったし、何なら私は穴だらけでもしょうがないと思ったんだけど……君、無意識でやったのかな?それとも、君の創り出した氷には意思があるとでも言うのかな?私はそんな話は聞いた事は無いよ……。でも、確かに意思を持った武器や防具があるというのは小耳に挟んだことはあるけど。でもそれは職人が何十年……もしくは何百年と同じ物作り続けてようやく一つ出来るかどうか。仮に出来たとしても意思疎通や指示通りに動くなんて物は存在してないよ」

『いや、それを俺に言われても困る』

「……いやいや、君が創り出した氷なんだし……。まぁ、今のは見なかったことにさせて貰うよ。何か変な頭痛がするし」

「で?君はどうやってこのオークの集団を処理するつもりなの?言っておくけど私は空間属性の魔法なんて会得してないよ?一応、マジックバックは持ってるけど、入っても精々オークが丸々一匹入るかどうかの容量しかないよ。まぁこれでも金貨数百枚はしたけど」


……マジか。どうしようこれじゃ折角倒したオークも無駄に……。


「では、このオークの死体数十体。私が責任を持って王都までお運びしましょうか?」


突然、背後から女性の声が聞こえた。

うおっ!!びっくりした!!いつの間に?と言うかどちら様で?


「……君は?」

「あっ、私としたことが名乗るのを忘れておりました。私はレイラ・フォン・アーデンハイム。アーデンハイム侯爵家の三女です」


振り返ると目の前には豪華なドレスに身を包んだ十七歳くらいの女性が立っていた。


「……侯爵家のお嬢様がなんでこんな森の中に?」

「オークの集団に襲われていた馬車。その馬車に私も乗っていたのです。危ないところを助けて頂き感謝致します」

「?何で私達に?言うのなら馬車の反対側に居るエリスになんじゃないかな?と言うかいつの間に終わったの?」

「向こうの方には私の母が直接お礼を言いに行っておりますので大丈夫です。ですから、私はこちらに来たのです。まさか囲まれているとは思いませんでした。改めて、貴女方に感謝致します」

「…………」

「?どうしたのです?私の顔に何か付いていますか?」

「いや、何でもないよ。私の気のせいっぽいし」

「そうですか。ところで、貴女の横に居る魔獣は貴女の従魔ですか?」

「……そうだね。魔獣とは少し違うけど、私と契約してはいるよ。……まぁ、私だけじゃないけど(ボソッ)」

「まぁ!そうなのですね!あの、失礼でなければ少し、撫でさせて頂いても!?」

「それはどうでも良いけど、何で侯爵家の令嬢である君がこんな森の中に居るのか。答えて貰ってないんだけど?」


……フレディアナにとってはどうでも良いかもしれないんだろうけど、俺からしたら全然良くないんだけど!?


「そうですね。ですが長くなりますよ?」

「構わないよ。どうやら、エリスも気になるみたいだからね」

「フレディアナ。貴女 何をしているのです」


いつの間にか俺の背後に来ていたエリスが声を掛ける。

エリスの後ろには物凄い美人さんが!!


「何って、何で侯爵家の人間がこんな森の中に居るのかを聞いていただけだけど?」

「そうですか。ですが、聞き方というものがあるでしょう?相手はこの国の上級貴族のご令嬢だって分かってます?」

「知ってるよ。でも、位的に言えば私や君の方が上のはずだよ?」

「位的に見ればそうかもしれませんが、今の貴女や私は冒険者に過ぎません。しかも貴女はつい先程冒険者登録をした新人。まずは冒険者としての自覚をもってください!!」

「……分かったよ。……お初に御目に掛かります。私の名はフレディアナと申します。数々のご無礼な態度、どうかご容赦を」

「まぁまぁ、私は気にしておりませんので。先程と同じようにお願いします」

「し、しかし!!……畏まりました」


エリスがまだ何か言おうとしたが目の前の女性から有無を言わせぬ圧が放たれ、エリスは口を閉じた。


「では、あちらの馬車でお話しましょう。無論、そちらの従魔さんも一緒で構いませんよ?お母様もそれで構いませんね?」


え!?この美人さんこの人のお母さんなの??普通に姉妹かと思ったんだけど……と言う事は年齢は……と思ったが直ぐに考えるのをやめた。


「えぇ、構いませんよ。しかし、そちらの従魔、馬車には入れそうにはないのだけど……どうしましょうか」

「あぁ、それなら問題ないよ。あ、いや、問題ありません」

「フフフ。素の話し方で構いませんよ。言葉遣いなど些細な事です」

「助かるよ。私、どうも敬語が得意じゃなくてね。っと、シロ君の事だったね。シロ君、もう少し小さくなってくれるかな?あの馬車に入れるくらいの大きさにね」

「そ、そんな事が出来るのですか!?」

「出来るよ?と言うか元の大きさは大体五メートル位だったと思うよ」

「そ、そんなに大きいのですか??」

「うん。赤竜レッドドラゴンと戦った時はそのくらいの大きさだったから」

赤竜レッドドラゴン!!!???な、何故そんな化け物と戦うことになったのですか?……し、失礼しました。私としたことがつい興奮し過ぎました。馬車に案内しますので付いて来てください」


と、言う訳で何故か貴族の馬車へ向かうことになった。

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