第四十九話フレディアナの冒険者登録完了と王都へ転移
「……急展開過ぎて頭がついて行っていませんが、フレディアナさんの登録の続きをしましょう」
マルセは頭を抱えながらなんとか言葉を紡ぐ。その言葉と共にエリスとフレディアナ、俺はゆっくりと頷いき、突然の神の介入で中断されてしまったフレディアナの登録を再開した。
……と言うか何時まで俺の尻尾を掴んでるつもりだ?フレディアナは。
「……あ、ごめんね?ずっと掴みっぱなしだったよ」
「……魔力量の方は良しとしましょう。多少不安は残りますが……」
「後残っているのはフレディアナさんへの鑑定だけです。本来であればここまではしないのですが…何分つい今しがた神に介入されましたので詳細を記録させていただきますが、構いませんか?」
「構わないよ。年齢とヤバそうな称号とスキルとかは記録しないでくれると助かるよ」
「承りました。では、鑑定させていただきます。≪鑑定≫!」
「一応全て書き写しますので少々お待ちください。結果を見た後で何を記録しないかを決めましょう」
~フレディアナの鑑定結果~
【名前】 フレディアナ
【性別】 女性
【種族】 魔女 (元巫女)
【年齢】 ???
【スキル】 言霊、読心(人間に対し発動)解呪、お祓い、祈祷
【魔法】 風、火、水、土、神聖(半減)、闇(半減)、光(半減)影、飛翔、神卸(現在使用不可)、転移、召喚、詳細鑑定(隠蔽中)
【極大魔法】、エクスプロージョン、光の檻
【特有能力】 結界術(自身、対象に対し結界を張る。強度は術師の力量によって左右する。様々な効果を付与可能)
読心術(人間に対し発動。相手の思考を読み取れる)
夜の帳(周りの気候や時間、気温関係なく強制的に夜にする。効果範囲は術者に依存。天気は変更不可)
【加護】 創世神の加護 神獣、神狼の加護
【称号】 神と人に裏切られし者 神獣と初めて契約した魔女 光を見つけし者 創世神に守られし者 極大魔法を操る規格外の存在 歩く厄災
【二つ名】 絶望の魔女
【世界序列】第二十位
◇◇◇
「成程。ほとんど変わってないね。変わった所と言えば……私に加護が付いたのと、称号に在ったすべてに絶望せし者が消えてるところだね」
「おや?貴女、魔女ですよね?何故神々への敵対者の称号が付いていないのでしょうか?」
エリスがそんな疑問をフレディアナに投げかける。
「あぁ、それね。別に私は神を恨んで訳じゃなくて神と言う存在に絶望しただけだからだよ。……私の知り合いに神に真っ向から喧嘩売った大バカ者も居るけどね」
「それじゃ、記録して欲しくないモノを言うよ?」
「お願いします」
「まず称号からね。神獣と初めて契約した魔女と創世神に守られし者以外の称号全て」
「承知しました。あの、歩く厄災と言うのもですか?」
「?そうだけど、なんで?」
「いえ、創世神に守られし者の称号を公開してしまうと面倒な輩が貴女を探し始めると思うのですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。称号の前に私魔女だし、いくら教会関係者だとしても魔女にまで声を掛けるとは思えないからね」
「私よりシロ君の方が危ないんじゃないの?下手したら神聖国や教会に利用され兼ねないんじゃない?それに、今シロ君の弱点となり得るのは、シロ君の契約者であるノールくんじゃないかな」
「……フレディアナ。貴女、どこでその情報を?私は貴女には教えたつもりはありませんよ?」
「アハハ、甘いよ。私は人間の思考や心が読めるんだよ?考えていなくたって記憶にさえ残っていれば読み取ることくらい簡単だよ」
「ま、そのことは置いてくとして、称号に関してはこんなところかな。スキルや特有能力に関しては時に隠す意味も無いしそのままで良いよ」
「わ…分かりました。そのように記録しておきます。同時進行で行っていた冒険者カードがもう間もなく完成しますが、最終チェックはご本人に確認して頂く使用になっていますのでそこのところはお願いします」
そう言うとマルセはフレディアナに紙を渡した。
フレディアナは渡された紙をさらっと一読すると直ぐにマルセへと返した。
「うん。これで大丈夫だよ。性別も打ち間違いも無いよ」
「有難うございます。では直ぐにカードにしてお渡しします。数秒程お待ちください」
「うん。え?数秒!?」
「はい。こちらが冒険者カードになります。紛失した場合は再発行に金貨二枚掛かりますのでその点はご承知おき下さい」
フレディアナの手にしている緑色のカードにはでかでかとGと表示されている。
「わかったよ。……ところでマルセ、その、今更なんだけど私に貨幣に付いて教えてくれない?昔と今じゃ大分種類も変わったかもだし」
「…………」
何年生きてるんだ?と思ったが口には出さなかった。
マルセもそんな感じの顔をするが決して口には出さない。もし口に出したら何をされるか分からない。
「し、承知しました。大まかに言って貨幣は、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨、聖金貨の六種類です。これは全世界共通ですので大丈夫です。銅貨十枚で銀貨、銀貨十枚で金貨になります。大金貨からは特殊になります。金貨百枚で大金貨、大金貨千枚で白金貨に、白金貨一万枚で聖金貨となります。聖金貨に関しては私でもお目に掛かったことはありません。持っていたとしても白金貨を数枚。一般的によく使われるのは銅貨~大金貨まででしょう」
「ありがとう。助かったよ。昔より二つも種類が増えたんだね。はぁ、余計ややこしくなったよ」
「これで私が聞きたかったことは終わったよ。にしてもGランクねぇ。マルセ、君の権限でもう少しどうにかならない?流石にGランクだと逆に私に絡んできた人達の方が危なくなるんじゃない?」
フレディアナの苦情?に対しマルセは少し考えて返答した。
「はぁ、分かりました。本来は不可能ですが、特例としてEランクからにしましょう。書き換えますので冒険者カードの方を渡してください」
マルセはフレディアナから冒険者カードを受け取るとすぐ横に在った箱型の装置に乗せると直ぐにフレディアナにカードを返した。
「はい。これで完了です」
再び渡されたカードは銅色で同じくでかでかとEと表示されていた。
ん?ノールの冒険者カードはBなのに色が変わってないんだけど?
「因みにカード色を付けているのはこの街と王都の冒険者ギルド位なものですので、結構レアですよ?」
ほー、色がないのが一般的なのか。
「それじゃぁ、私達はこれで行かせて貰うよ。この街にシロ君の契約者の彼は居ないみたいだし」
「ま、待って下さい!それは貴女には関係の無いことなのではないですか?何故貴女がシロさんの契約者探しに協力するのです?貴女には何のメリットも無いはずですが」
「そうだね。私には何のメリットは無い。でも、私個人的にシロ君の契約者の彼に興味が湧いたから、理由なんてこんなもので充分。君にとやかく言われる謂れはないよね?これは私の意思な訳だし」
「それはそうですが、しかし……」
「君が言いたいことも良く分かるよ。でも、もし私がシロ君と同じ立場になったら、例え世界を半分壊したとしても見つけるまで探すと思うよ。それほどまでにシロ君がしたであろう契約は重い物だろうからね。それに、悪いけどマルセ、君は信用できないんだよ。だから≪創世神≫が君に与えた加護は(小)にしたんだと思うし……」
「ッ!!何故、貴女が私の詳細なステータスを?貴女を先ほど鑑定した際にはスキルには鑑定のスキルはありませんでしたよ?」
マルセは驚ろいた顔をするがフレディアナは何でもないように答える。
「……分からない?隠してたんだよ。君の持っている鑑定の魔道具よりも私の隠蔽の方が上だったってだけの事だよ。世界序列二十位を……君は少しばかり甘く見ていたんじゃないのかい?」
「それに、もしシロ君がその気になれば君の鑑定の魔道具程度じゃ何一つ鑑定できないと思うよ?まぁ、シロ君はかなりの面倒くさがり屋みたいだからそんなことはしないだろうけどね」
「流石に種族とか加護は全力で隠蔽するかもしれないけど」
「何故、そんな事が言えるのです?」
マルセは意味が分からないといった顔をする。
「本当に分からないの?シロ君は面倒事が嫌いなんだよ。それなのにわざわざ面倒事ホイホイなりかねない種族や加護を隠さないと思う?」
「……成程。良く分かりました。私からは決して公には話さないと誓いましょう。ただし、私の自我があったらの話です。もしシロさんが神獣であると裏ギルド、≪生命の木≫の連中に噂だろうと知られたらシロさんと関わりのある者を徹底的に調べ上げ接触を図ってきます。一度関係者であると認知されたら彼等≪生命の木≫は地の果てまで追いかけるはずです。そして、捕まったら知っている情報を全て持っていかれます。情報取集専門の部隊や他者の情報を盗み見る事が得意な者達も居たりする程強大な組織ですのでお気を付けを。貴方方が捕まらないことを影ながら祈っております」
「そんなことを祈られても困るけど……君が≪生命の木≫?とか言うのに捕まらなければ良いだけだと思うんだけど?」
すると急にマルセが項垂れた。
「あの、それがどれ程難しいか分かって言っていますか?」
「ん?いや、たかが一つの組織でしょ?そんなに難しいとは思は無いけど?」
「……これは一度、裏ギルド、≪生命の木≫がどういった集団かしっかりと説明した方が良いですね。エリスさんやシロさん含めて」
マルセがそう言った瞬間に空気の流れが一気に変わったのを感じた。と言うかなんで俺まで巻き込まれてんの?
「先程の話の中にもありましたが、裏ギルド≪生命の木≫と言う組織はかなり大きく力も大きいです。この組織より大きいギルドもあるにはありますが、私が知っている程度では二つ程です」
「ふ~ん。君、随分と≪生命の木≫とか言う組織について詳しいみたいだね」
フレディアナは確信を持ったようにマルセに問うがマルセはピクリと反応をしたが何事も無いかの様に受け流した。
「詳しいのは私が個人的に調べたからですよ。……一度捕まりそうになりましたが何とか逃げ切りましたよ。まぁ、二度と調べようとは思いませんが」
「そう…でも君が話す必要はないよ。私からシロ君とエリスには説明するしから…恐らく君情報より私の情報の方が信憑性は高いと思うよ?」
「……何を根拠にそのようなことを?」
一瞬、マルセの表情が固まった気がした。
「私の長年の勘…なんていう冗談は置いておいて、簡単に言えば私に今回の【スタンピード】の経過と結果の報告の依頼をしてきたのがその≪生命の木≫だったってだけだよ。まぁ、結果を報告する前に破棄させて貰ったけどね」
「…依頼主の情報をバラすのはどうかと思うますが?それに、何事にも信用が必要な訳ですし…」
「関係ないね。第一私は報酬を一切貰ってない訳だし……依頼を受けたのだって私の気まぐれ、しかも契約は契約書を使っていないただの口約束。そこには何の拘束力も無いよ。第一、【スタンピード】にかこつけて私を暗殺しようとしていた組織なんてどうなったって構わないよ」
「君に言っても仕方いかもしれないけど…もし、私の庇護下に居る人に手を出したら……どうなっても知らないよ?」
その言葉とフレディアナは、共に殺気をマルセへと向けるが、当のマルセは平然と受け流している。
「…本当に、私に言われても仕方の無い事ですね。ですが、もし≪生命の木≫の関係者に遭遇するようなことがありましたら伝えては置きますよ。相手がどう受け取るかは私の知る事ではありませんがね」
「さて、多少ずれてはしまいましたが、これでフレディアナさんの冒険者登録は完了です。お疲れ様でした。それと、事によっては冒険者資格が一発で取り消しになりますのでその点は覚えて置いて下さいね?」
「覚えて置くよ。じゃ、またどこかで会えると良いね。行くよシロ君、エリス」
フレディアナはそう言うと俺とエリスに声を掛け冒険者ギルドを後にするのだった。
◇◇◇
「うん、この辺りで良いかな。尾行や見張りも居ないみたいだし」
俺とエリスとフレディアナは冒険者ギルドを出て、ついでにラーズの街からも出た。そして今はラーズの街から少し離れた森の中に居る。
「さて、確認だけど、君達はこれから王都に行くってことで良いんだよね?」
エリスと俺は無言で首を縦に振る。
「わかったよ、それじゃあ、私の転移魔法で送るよ。此処から歩いて行くよりもよっぽど早いし…あ、でも私が転移出来るのは王都の近くに森。はっきり言うと私、王都に入ったことが無いんだよ。因みに転移魔法で転移出来る場所は発動者が一度訪れたことのある場所だけなんだよ。ごめんね?」
「いえ、王都近郊の森まで飛べるならそれだけでも有難いです。それに、王都の門前に行き成りシロさんが現れたりしたら大騒ぎになりそうですしね」
「ははは、それもそうだね。さて、そろそろ行こうか。≪転移≫!!」
フレディアナが転移と唱えると、足元に金色の魔法陣が描かれ、輝きだす。光は次第に強くなっていき、俺とエリスとフレディアナの三人を包み込む。視界が一瞬ブレるような感覚と急な浮遊感に襲われるが、それ以外は特には何も起こらなかった。そして光が収まると先程まで居た場所とは違い、薄暗い森の中に居た。