第四十八話フレディアナの冒険者登録開始と神の介入
「さて、ではフレディアナさんの冒険者登録の方を始めて行きましょうか。魔力を前にまずはこの紙に名前、職業、魔力の有無などの必要事項を書き込んでください。あ、言っておきますが虚偽が見つかった場合貴女はその時点で冒険者の資格は剥脱されますのでそのつもりで居てください?」
「………」
渡された紙を見てフレディアナは不満そうな顔をする。
「不満があるのは十分理解しています。しかし、了承してください。これは保険でもありますので……」
「……分かったよ。でも、年齢のところは書かなくて良いよね?」
「えぇ、年齢は強制ではなく任意ですので心配はいりませんよ」
「助かるよ。私も女だからね。まぁ、悪意を持って私に年齢を聞いて来た馬鹿者にはしっかりと制裁をするからね」
顔は笑っているが目の方は全く笑っていない。気のせいか制裁の部分だけ強調された気が……。
あっと言う間にフレディアナは渡された紙を埋めマルセへと渡した。
「……。はい、大丈夫です。不備は見当たりません。では、魔力の測定に入りましょう。ここに置いてある測定器では貴女の魔力は測れませんので、こちらの測定器でお願いします」
言い終わると同時にそっとテーブルの上に白い水晶を置いた。
あれ、この水晶って教会で見たのと同じ物の様な気が……。
『総括、この水晶、俺とエリスが行った境界にあったモノと同じな気がするんだが……』
「えぇ、これは私が教会から借りパ……コホン。お借りしてモノです。決して借りていてそのまま返すのを忘れたとかそう言ったものではないのでご安心下さい!!」
安心できるか!!借りパクって言いかけてただろ!?
「ではフレディアナさん。この水晶に手をのせてください」
流しやがった……。
「……本当に大丈夫なんだよね?私の流した魔力で壊れたとしても弁償しないからね?」
「ご安心ください。私が測定した時には問題なく行けましたので。……壊れたとしても証拠隠滅すれば問題ありませんし(ボソッ)」
うわぁ……腹黒いなぁ。エリスと言い総括と言い…ギルドの重役ってみんな腹黒いのか??って言うかエリスには聞こえてないっぽいけど俺の耳にはばっちり聞こえてるんだけど……。
「では、魔力の測定を開始します。水晶に触れたまま魔力を流してください」
フレディアナは言われた通り魔力を流し始めた様で、白色だった水晶の色が段々と透明になり始めた。物の終秒で水晶が半分くらいまで透明になった。その時、ピシッ!!と言う不吉な音が水晶から鳴ったかと思うとヒビがあっという間に水晶全体に広がり、パンッ!という乾いた音共に粉々に砕け散った。
「……マルセ、君大丈夫って言ったよね?」
そんな言葉と共にフレディアナの冷めた視線がマルセへと向けられる。
「えぇ、確かに言いました。まぁ砕けてしまったものは仕方ありません。暫定的ではありますが測れましたのでお伝えします。フレディアナさんの前提的な魔力量ですが…約15000程でした。途中で道具が壊れてしまったので正確な数値ではありませんが、目安としては良いでしょう?」
「……はぁ、先に言っておけば良かったんだけど私、自分の保有魔力くらい自分で調べてあるよ?」
その瞬間、マルセの表情が固まった。
「…あの、フレディアナさん?何故そんな重要なことを先に教えてくれなかったのですか?」
「いや、だって君が自信満々にその砕け散った測定器を出してくるものだから……ねぇ?」
何故俺の方を見るんだ?フレディアナ……。
「まぁ、ギルドカードには私の魔力量は25000にしておいてね?まぁ、この数値になったのはつい先刻の事なんだけどね。それまでは24999だったんだよ。赤竜を倒したお陰かな?ん?何か不思議そうな顔をしてるね……あぁ、どして赤竜を倒したのに魔力最大量が1しか増えてないのか?かな」
『………。何でわかった?』
「んー。なんて言えばいいか。強いて言えば勘…かな?で、その疑問の理由は単純だよ。私、魔女なんて呼ばれてるけど元は魔法は得意じゃなかったんだよ。まぁ、結構無茶して魔力の最大量を増やしたんだけど、24999が限界だった。今回何で急に増えたのかは謎。でも、これだけははっきりしてるよ。今後一切、私の最大魔力量が増える事は無いってことだね。」
さらっと言い放たれた爆弾発言にエリスとマルセは固まった。
俺はいまいち良く分かっていない為。?が脳内を埋め尽くす。
「……すみません。理解したくないのでスルーさせて貰います」
あ、マルセがついに現実逃避を始めた。
エリスは何かを悟ったような顔になりブツブツと訳の分からない事を呟いている。
……フレディアナで二万越えなら俺のそう魔力量はどの位なんだ?教会で測った時は測定不能だったし。
「……これでは、契約で縛っても意味がありませんねぇ。こんな規格外の保有魔力者など契約で縛ったとしても我々ギルドでは手に余ります!!」
「じゃぁ、シロ君の場合はどうなるの?世界序列二十位の私で二万越えな訳だし?」
「……想像したくはないですね。因みに参考までにお聞きしますが、この街にある教会で測った時の結果を教えていただけますか?」
『……測定不能だった』
またしてもマルセが固まった。エリスとフレディアナは何故か納得した様に頷いている。
「そ、測定不能…ですか。教会にある魔道具であれば私の保有魔力量をしっかり測れたのですが、そうですか。測定不能ですか。まぁ、神獣なので納得しようと思えばできますね。したくは無いですが」
「さて、どうしましょうか。冒険者登録は出来ますが万が一の場合はエリスさんでは止めれませんね。シロさんもずっとフレディアナさんと一緒に居ると言う訳ではないでしょうし」
≪では、私の加護をその者に与え、魔力出力を調整いたしましょう≫
突然、部屋の中に女性の様な声が響いた。
「「誰ですか!?」」
エリスとマルセは突然響いた声に警戒し周囲を見渡し、フレディアナは硬直し冷や汗を流している。
俺は声が聞こえ、瞬きをした瞬間にいつの間にか白い空間に浮かんでいた。
◇◇◇
『此処は?と言うかさっきまでギルドにいたはずなんだけど……』
咄嗟にそんな言葉が出たが何か違和感がある。一度来たことがある気がする。
それに、目の前には金髪金目でめっちゃキラキラしてるこの美女は誰だ??もしかして先刻聞こえた声の主か?しかも背後で炎の龍がグルグルと回りながら自分の尻尾を追いかけながら俺をチラチラと見てくる。
……なんかシュールだな。
≪はい。貴方は一度、此処と似た来たことがあるはずです。そして貴方の思っている通り、先ほどの声はワタクシです。あら?フフフ、ワタクシの後ろに居る龍が気になりますか?≫
あれ?声は出してないはずなんだけど……。それにしてもめっちゃいい笑顔!!
≪はい。声は出していませんが心の声は聞こえております。これでも神の端くれ、対象の内心は聞こえてきます。不快に思われたのであればお詫びいたします≫
≪そして此度は急に貴方を呼び出してしまい申し訳ありません。あ、意識だけ呼び寄せましたので体の方は元の場所にありますので心配は無用です。さて、では本題に入りましょうか≫
≪まずは自己紹介とご挨拶を…お初に御目に掛かります。シロさん、ワタクシはこの世界を創り上げた二柱の神の一柱、地上の方では≪創世神≫と呼ばれております。名をアルメリナスと申します。貴方にはワタクシの加護があったと思いますが、今は良しとしましょう≫
≪単刀直入に言います。貴方の体をほんの少しの間、このワタクシに御貸しては頂けないでしょうか?≫
『へ?』
思わずそんな声が漏れた。
≪戸惑うのは分かります。ですが、お願い致します。彼女、フレディアナと申しましたか。彼女はこのままではその内自身の魔力を制御できずに暴発させてしまいます。あと一度でも≪極大魔法≫を放てば自身の魔力に呑み込まれ消えてしまいます。ワタクシは、それを防ぎたい。どうか、お願いです≫
『何故≪創世神≫と言われるほどの神がそこまでする?』
≪ワタクシは、ワタクシの加護があれば救える命があれば救いたいと思っております。しかし、手を出したくてもワタクシは神、直接干渉することは禁止されている故、手は出せませんでした。しかし、今は違います。貴方の体を一時的にお借りすることが出来れば彼女の命は寿命までは全うさせられます。貴方の体を介していますので直接干渉には当たりません。それに、彼女は……≫
ん?彼女は何なんだ?そんなところで区切られるとスッゴイ気になる。
≪いえ、これはワタクシから言うことではありませんね。彼女から直接聞いた方が良い内容です。ですが、お願いです!!≫
うへぇ…面倒臭い。
『一応聞いておくけどそれで俺に何らかの不利益……面倒事が寄って来る事は無いんだよな?』
≪なるべく面倒事が寄ってこない様に善処はしますし、彼女らにもワタクシの加護を与え口止めをさせますので……何卒!!≫
まぁ、しっかり口止めしてくれるし、良いか。フレディアナとは会ったばっかりだけどそんな悪い奴じゃなさそうだし。
≪ありがとうございます!!≫
うお!?びっくりしたぁ。
≪では体の方をお借りします。では一緒に行きましょう。無論貴方の意識はある状態ですので、心配は無用です!!≫
その声と共に意識がギルドの方へと戻っていく感覚を感じる。
◇◇◇
「ロ……ん……シロさん!!大丈夫ですか!?」
ハッッとすると目の前にドアップのエリスの顔があった。
『だ、大丈夫だ』
「ならよかったです。それにしても何だったんでしょうね?先刻の声は……」
『あぁ、それについては……≪ワタクシが直接説明致します≫頼んだ』
「何です?今の声!!」
「あの……シロさん?」
「ッ!!」
三者三様の反応が返ってくる。俺自身変な感じがする。
『≪お騒がせして大変申し訳ありません。ワタクシ、≪創世神≫と呼ばれている神のアルメリナスと申します。以後、お見知り置きを……では時間も無いのでちゃっちゃと終わらせてしまいます。フレディアナさん?少し、シロさんの方に近づいて頂けませんか?≫』
アルメリナスに突然名前を呼ばれたフレディアナはピクリと反応はしたが下を向いて冷や汗を流している。エリスとマルセは突然の神の介入や創世神と言う単語を聞いて動けずにいる。
『≪お願いします。ワタクシに貴女を救わせてください!≫』
「悪いけど、私は神に話すことなんてないよ……ましてや創世の神なんて……」
『≪話だけでも…聞いては頂けませんか?とても重要な……貴女の生命に関わる事なのです!≫』
「……それは、どう言う事?私はしっかり自分の魔力の調節は出来ているし、己の限界も良く分かってる」
『≪いいえ、貴女は分かっておりません。ご自身の体がそれほどの悲鳴を上げているかを……この際ですのではっきりと申し上げます。貴女、あと一度でも≪極大魔法≫を放てば、間違いなく死にますよ?それ程までに貴女の精神と体は消耗しているのです!≫』
「ッ!!」
『≪今、選んでください。ワタクシの加護と祝福を受け入れれば貴方は寿命までは生きていられます。受け入れなければ後たった一度の魔法を放っただけで死んでしまいます。貴女はまだ、やりたい事があるのではありませんか?よし宜しければワタクシが手助けを致しましょう≫』
「…………分かったよ。君のいや、貴女様と言う神をもう一度だけ信じてみるよ。全く、こんな必至な神の声なんて聞いたことが無いよ」
長い沈黙の後、フレディアナは了承した。
「でも、私は一度神と人に見捨てられたんだ……そう簡単には信じれそうにないよ」
『≪えぇ。分かっています。少しずつで構いません。貴女にまた、昔の様な信仰心が戻ることを心から祈っております≫』
『≪それでは、貴女にワタクシの加護と祝福を与えます。フレディアナさん?失礼ですがシロさんの体の何処でも構いませんので触れて頂けませんか?≫』
するとフレディアナは迷わず尻尾に手を伸ばし、触れるのではなく思いっきり掴んだ。
何で尻尾なんだよ……せめて頭とかにして欲しかった。しかも触れるんじゃなくて思いっきり掴まれてるんだけど!?文句を言いたいが今はアルメリナスに体を貸している為何も言えない。
『≪それでは…ワタクシ、アルメリナスの名において、≪絶望の魔女≫フレディアナに加護と祝福を与える!!≫』
その言葉と共にフレディアナを光が包み込んだかと思うと直ぐに消えた。
『≪これでワタクシの加護と祝福が貴女に与えられました。そのついでにエリスさんとマルセさんにもワタクシの加護を与えました。それでは、ワタクシはこれで失礼します≫』
スゥっとアルメリナスの気配が消え去った。
≪シロさん。今回は助かりました。お礼にワタクシから細やかな贈り物を……後程鑑定して貰って確認してください!≫
その言葉は俺だけ聞こえるように反響した。それと同時に体を自由に動かせるようになった。