第四十四話極大魔法
竜が俺達の目の前に着地すると、砂埃で見えなくなるが直ぐにその砂埃は消え目の前に真っ赤な巨大な足が見えた。
「うわぁ…これはまた私と相性最悪な種類だよ」
フレディアナがグチグチと言葉を零す。
「貴女と相性最悪なのは分かりましたので分類は?」
「……赤竜。人間達や冒険者ギルド、教会の関係者にはレッドドラゴンって言った方が分るかな? しかもかなり長く生きてる。エリス、もちろんキミよりも長い。古竜ほどではないだろうけど…相当強いよ。下手すれば私の魔法、魔眼、言霊すらも効かないかも……まぁでも、幸い弱点であるシロ君が居るから何とかなるかもね」
「赤竜…ですか。これはまた私でも知っている種類の竜でしたか。確か攻撃すべてに炎系統の魔法が付与されているとか」
「うん。まさにその通りだよ。しかも、人なんて簡単に消し炭に出来るほどの火力があるみたいだねこのドラゴンには」
胴体までしか見えないがその見た目は西洋竜とほとんど変わらない。
そんなことを考えていると竜がイラついた様に咆哮を上げた。
「―ガアァァァ!!」
突然の咆哮にエリスとフレディアナは驚いたようだが咄嗟に耳を塞いだらしく大したダメージは無いようだが俺はもろにその咆哮を聞いてしまったためキーンと数秒ではあったが耳鳴りがした。
「ッ!!うるさいですね。耳を塞いでも耳鳴りがしましたよ!」
「私も同じだね。鼓膜が破れるかと思ったよ。そう言えばシロ君は大丈夫?もろで咆哮聞いたよね?」
『あぁそれなら多分大丈夫。耳鳴りはしたけど耳に異常はない』
「流石神獣、竜程度の咆哮じゃ怯みもしないね。私達もだけど……さて、どうしようか。私はこのまま討伐しちゃってもいいけど?」
フレディアナがフッと竜の方へ視線を向ける。
「そうですねぇ。私としても討伐できるのであれば討伐した方が良いと思います。放置しておくと街に被害が出そうですし」
エリスも同様に竜の方へ視線を向ける。
竜が二人の視線に気づきピクッと反応すると口を大きく開いた。
また咆哮かと思ったが何かが違う。
魔力感知を獲得していたお陰で竜の口に魔力が集まっていくのがわかった。
『エリスッ!フレディアナッ!』
俺が二人の名前を呼ぶと二人はこくりと頷きその場を離れた。
二人が離れた瞬間、竜が二人の居た場所に火を吐いた。
竜が吐いた火は直ぐに消えたが火が当たった場所は地面が溶けマグマのようになっていた。
……これ、街の外壁とかにやられたら一瞬で壁が溶けそうなくらいの威力なんだけど……大丈夫か?
「流石竜ですね。今のブレスを外壁になんかやられたら一瞬で溶けてしまいますね」
「じゃぁ、なるべくドラゴンの顔が外壁の方に向かない様に私が魔法で遠距離から牽制と攻撃をするよ。エリス、キミはその剣でレッドドラゴンの急所を狙って!!」
「待ってください!私、先刻も言いましたがドラゴンとの戦闘経験なんてありません!ですから急所なんて言われてもわかりませんよ!」
「あぁ…そうだったね。急所は目だよ。でも、その剣なら竜の脳天も貫けると思うよ?」
「無理です。私の技量ではこの剣の本質を引き出すことはできません」
エリスとフレディアナは話しながらレッドドラゴンの攻撃を躱すか受け流しながらどんどんレッドドラゴンへと近づいてく。
「ふぅ。ようやく私の剣術の有効圏内へと近づけました。シロさんは…」
「エリス、シロ君なら外壁から動いてないよ。彼ならあそこからでも十分に赤竜へ攻撃を当てれるし…あれ?居ない?」
「はい?居ない?どういうことですか?」
「私が聞きたいくらいだよ。私がチラッと見た時には確かに居たのに……一体何処に?」
「―ガァァァ!!!!!」
急にエリスとフレディアナの前で赤竜が苦しみだした。
「これは一体……」
「ハハハ、私にも感知させないなんてやっぱり神獣ってのは規格外だね。一体どうやってあの一瞬でレッドドラゴンに近づいて攻撃したの?」
俺がレッドドラゴンの股下から顔を出すとフレディアナが聞いて来た。
『答えても良いけどまずこの竜の駆除が先だろ?足と尻尾は凍らせといたからしばらくはこの場所から動けないだろうし後気を付けるのは先刻のブレスの方だろ?』
「……あぁ、うん。ソウダネ」
あれ?なんかフレディアナに呆れられてる?
なんてことを考えているとフレディアナが一冊の本を取り出した。
おい!その本今どっから取り出した?!
「シロ君、エリス。いい機会だから魔女の本気って言うのを見せてあげる。ってことで私は魔法の構築に入るから、陽動と援護よろしくね」
ちょっと待った!なんて言う暇もなく、フレディアナは一気に上昇し、赤竜の眼前にまで急上昇していった。
それと同時にエリスは不満ながらもこくりと頷くと赤竜に向かって魔法を放ち始めた。
俺が困惑しているがお構いなしだ。
◇◇◇
フレディアナは赤竜の眼前まで来ると手に持っていた一冊の本を開いた。
「さて、赤竜相手に私の魔法が果たして通用するか…」
「陽動はあの子達に任せちゃって良いよね。久々にこの本出したし、私の魔力の半分を消費するから物凄い燃費が悪い。撃てても一日二回が限界でも、威力は申し分ない」
「……はぁ、グチグチ言ってても仕方がない。やりますか!」
フレディアナは一通り愚痴を零すと詠唱を始める。
「------、----。-------。≪極大魔法、エクスプロージョン!!≫」
フレディアナが魔法の詠唱を完了すると同時に地面と赤竜の頭上に巨大で真っ赤な魔法陣が展開した。
展開して数秒後、魔法が発動し、周辺が爆音が響き渡り地面が揺れ、遅れて熱風が私に到達した。黒煙で周囲は何も見えないが幸い私は予め結界で自分自身を覆っていた為無傷で居られた。
「私は無傷だけどシロ君とエリスは大丈夫かな?」
素早く魔力感知を発動させると、シロ君とエリスの反応があった。
「どうやら無事っぽいね。ん?」
私がほっとしていると、魔力感知にもう一つの反応が現れた。それは私が発動した極大魔法の丁度ど真ん中からだった。
「……嘘でしょ?私の魔力の半分を消費して発動させた極大魔法でも倒せないなんて…あれ?でも反応が随分と微弱だね。と言う事はかなりの重症のはず」
しばらくすると黒煙が晴れ、薄っすらとだがシロ君やエリスを視認出来るようになったので私はふたりの元に降りて行った。
◇◇◇
フレディアナが赤竜の眼前に行くと先程取り出した本を開きブツブツと詠唱を始めた。
その間、赤竜が大人しく詠唱完了まで待ってくれる訳もなく、ブレスを吐き掛け様と口に魔力を集め出す。
エリスはフレディアナが詠唱を始めると赤竜の注意を自身に引き付けようと細剣で攻撃しながら俺の側に来て今から発動されるであろう魔法を説明し始めた。
「此処からではどんな呪文かは定かではありませんが恐らく極大魔法と呼ばれる魔法を発動させる為の呪文だと思われます。シロさんなら問題ないと思いますが私では一瞬にして灰すら残らず焼き切れる程の威力があると思います。ですので、前回使用した結界をお願いします」
『結界はいいけど極大魔法ってのは何なんだ?』
「それを説明している暇はありませんので後回しにさせて頂きますがこれだけは覚えて置いて下さい。シロさんが半分の力でも極大魔法なんてものを発動させたらこの大陸の半分が凍り付いてすべての都市機能や魔道具が麻痺します。あ、それと極大魔法が発動したら直ぐに赤竜を氷漬けにして貰えますか?」
『極大魔法の使い方わからないから使わないけどなんで折角倒せそうな赤竜を凍らせるんだ?』
「証拠を残す為と言うのもありますが、マルセさんへの嫌がらせと言いますか……まぁ取り合えずお願いしますね」
『……スッゴイ邪な考えが聞こえたが……まぁ了解した』
「助かりま―」
エリスが、助かります。と言いかけた所に赤竜が尻尾で横薙ぎをしてきた。
不意を突かれた一撃をエリスは細剣で何とかいなそうをとするが、当然のことながら力負けしてしまい吹っ飛ばされてしまった。
それと同時にフレディアナが魔法の詠唱を完了させた。
「≪極大魔法、エクスプロージョン!!≫」
フレディアナが詠唱を完了させると同時に赤竜を中心に地面と空中に巨大な赤色の魔法陣が展開され眩い光が一瞬、辺りを蔽い尽くしたかと思うとすぐさま凄まじい爆音と熱風が襲い、上がった土煙と黒煙で視界が覆われた。
エリスは吹っ飛ばされたことで熱風と土煙の範囲からは逃れられたらしい。俺の方はと言うとほぼ直撃と言って良いほどの爆風と熱風に曝されたが、咄嗟に氷の壁を三枚造り軽い火傷をした程度で済んだ。そして、直ぐに魔力を放出し赤竜を氷漬けにした。すると上から声が聞こえた。
「大丈夫だった?」
声が聞こえた方を見上げると、フレディアナがゆっくりと俺の前に降りてきた。
「軽く火傷はしてるみたいだけど無事で良かったよ。と言うか極大魔法のほぼ直撃を受けて、軽い火傷で済んでる時点で規格外なんだけどね? さて、赤竜はどうなったかな?」
フレディアナが赤竜の方に視線を向けると目を見開いた。
「ちょっと、これはどう言う事かな?なんで≪極大魔法≫の≪エクスプロージョン≫を放ったはずなのに凍り付いてるのかな?」
フレディアナは目を見開いたままギロッと俺の方に視線を向けた。怖ッ!!
俺は咄嗟に視線を外そうとするが、フレディアナは逃がす気はないらしい。「何故こんな事をしたのか説明しろ!!」と言いたげな目をしている。
『……エリスにやれって言われたから仕方なくやった』
渋々と言った感じで答えると、フレディアナは盛大にため息をついた。
「はぁ、君さぁ仮とは言えエリスと契約してるわけでしょ?と言うか、自重って言葉知ってる?まぁ、君の意思じゃないのは分かったから今回だけは見逃すよ。次からは事前に言って欲しいね。っと、そう言えば元凶であるエリスは何処に行ったのかな?」
フレディアナはようやくエリスが居ないことに気付いたらしい。
エリスが赤竜の不意打ちくらって吹っ飛ばされた事を伝えると、フレディアナは心底呆れた様な顔をした。
いや、俺にそんな顔されても困るんだが……。
「はぁ、まさかエリスが赤竜の不意打ちをくらうなんて、随分油断してたみたいだね」
『油断してたのは否定しないけど……』
「否定しないけど、何かな?」
『いや、何でもない。忘れてくれ』
するとフレディアナが悪戯っぽく笑った。
「そう言われると私は気になるな~。教えてよ」
『……』
「ちょっと、無視は酷くない?」
そんな事を話していると吹っ飛ばされたエリスが戻ってきた。
「参りましたね、まさか不意打ちをくらうとは思いませんでした」
「油断してた君のせいでしょ?」
「まぁ、その通りなんですが……ですがそのお陰であの爆風に巻き込まれずに済みましたよ」
『……吹っ飛ばされた割に結構ピンピンしてるな』
「えぇ、あの程度の威力なら問題はありませんよ。精々掠り傷程度です。しかし、服が少し痛んでしまいました」
……エリスの服の耐久力はどうなってんだ?!
「あ、私の要望通り氷漬けにしていただきありがとうございます!しかし、まさか本当に氷漬けにしてしまうとは……恐ろしいですね」
「まぁ、何にせよこれで脅威は去ったと言って良いでしょう。さぁ、戻りましょうか」
「あ、じゃぁ私も付いてくよ」
『は?』
「え?」
「……すみませんフレディアナさん。今なんて言いました?」
エリスが思わず聞き返した。
「ん?何かおかしいことでも言ったかな?私はただキミ達に付いて行くって言っただけだよ?」
「やはり聞き間違いではありませんでしたか……できれば聞き間違いであって欲しかったのですが……」
「まぁ良いでしょ?ただ≪絶望の魔女≫って二つ名の付いてるだけの女の子だよ?」
「何が女の子ですか。私よりも年上の癖に……(ボソッ)」
エリスがボソッと爆弾発言をしたかと思うとエリスの頭の上に金盥が降ってきた。
これは直撃コースだなと黙ってみているとエリスは素早くその場から離れ、金盥がエリスの頭に直撃することは無かった。
「ッチ!!」
どうやらエリスの声は聞こえていたらしくフレディアナが忌々し気に舌打ちをした。
「まぁエリスの返答は置いといて、何で私に説明してくれなかったのかな?」
「いえ、急に襲ってきた相手に説明しますか?普通」
ごもっとも……俺だって説明しない。
「う゛…それはそうだけどさ?せめて念話とかアイコンタクトとかあるでしょ?」
フレディアナの返しに、エリスは盛大にため息をつきながら答える。
「はぁ……アイコンタクトどころか、勝手に決めて終いには極大魔法を発動させた人に言われても説得力皆無なのですがどうお考えで?」
「…………ゴメンナサイ」
「謝罪は良いとして、極大魔法の影響でクレーターが出来てしまっているのですが?」
「あ、それなら大丈夫だよ。私の魔法で直ぐに治せるから!!」
え?何それ、詳しく知りたい!!
「……シロさんは色々バケモノなので良いとしてフレディアナ、貴女結構何でもありですね」
「キミには言われたくないよエリス。なんでドラゴンの攻撃を受けて吹っ飛ばされたのに何事もなかったかのように戻って来てるの?私でも竜の攻撃を受けたら無傷ではいられないのに」
「それは、この剣のお陰ですよ。普通の剣だったら間違いなく粉々に砕けてました。しかしこの剣は刃こぼれすらしていません。おそらくシロさんが何かしらのバフを掛けてくれたんだと思います」
『……いや、バフとか知らないし、俺はエリスの持ってた剣を参考にして造っただけで他に何もしてないぞ?』
「ふぅん……そうなんだ」
あれ?何かフレディアナに滅茶苦茶呆れられてる?
って言うかエリスにさらっとバケモノってディスられた……なんかショック…。
「まぁ、それは置いといて、この竜氷漬けにしちゃったけどどうするつもりなの?」
「そうですねぇ、兎に角マルセさんが来るまで待ちましょう。恐らくあと五分もしない間に来ると思いますよ?」」
どうやら、総括が来るまで待つらしい、エリスから黒いオーラの様な物が見えるが気付かない振りをしておこう。
誤字脱字などがありましたら教えて下さると助かります。