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転生したら狼になってた  作者: 白黒
第二章
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第四十二話

全身に力を込め、戦闘の体制を整える。

態勢を整え終わって数秒後、【スタンピード】の先頭が門から五十メートル手前まで来た。

俺はそれと同時に遠吠えをひとつ。それと一緒に魔力を一気に放出した。

冷気が俺から【スタンピード】に向かって素早く広がり、先頭であるゴブリンの足首辺りにまで白い冷気に覆われた。ゴブリンの集団は少しピクッと反応したが、足を止めることなくどんどんと俺とエリスの居る門に近づいてくる。


「シロさん!!大丈夫なんですか?!」


エリスの焦った声が聞こえてくるが無視する。 


『≪氷の平原≫』


静かにそう呟くと、覆っていた冷気が一気に氷へと姿を変え、同様に地面の土や草木が一瞬にして凍り付いた。その冷気の中に居たゴブリンの集団の足首も凍り付きもがいていたかと思うと一瞬にして全体が凍り付き氷像と化した。


「す…凄い。これが…神獣の本気ですか!!」

『……これで済んでればいい方だけど…あ、深緑の森の一部と川の一部が完全に凍った。今が夜で満月だったらもっと範囲は広くなってたと思うけど』

「…はい? 今、何て言いました?」

『ざっと確認できただけでも深緑の森の一部と平原の途中にある川の一部が完全に凍り付いたって言った。もしかするともっと広い範囲が凍ってるかもしれないけど』

「いえ、そこではなくてですね?」

『ん? あぁ、本気じゃなかったのかって事?』

「えぇ。私は、本気で…と言いましたが?」

『いや…もし全力何て出したら、この街や【スタンピード】どころか下手をすれば国事凍らせてたかもしれなかったんだけど、良いのか?』

「……はっきり言えば、私はその方が良いと思っています」

『……何故?』

「今この場にマルセさんが居ないので話しますが…シロさん、貴方は間違いなく狙われます」


急にエリスから俺が狙われると言われ、思考が停止する。


『言っている意味が全く分からないんだけど? まず何から狙われるのかを教えて貰いたいんだけど?』

「…そうですね。何故狙われるか…ですが、それは貴方も心当りがあるのではないですか?」


狙われるあろう理由を少しの間考え、一つの結論が出た。


『…神獣だから、か?』

「はい。その通りです。神獣様は国一つを簡単に消し去れる程の力を有しています。シロさんもそれは理解ていると思いますが…それだけでも十分な理由です。しかしそれ以外にも国や教会にとって利益に成り得るのです。それがいったい何なのか…それは私にもわかりません」

「教会や一つの国、貴族などであればシロさんでも対処可能でしょう。ですが、組織となれば話は全く変わってきます。私個人で調べた限りですが…≪生命の木≫と呼ばれる裏ギルドが存在及び行動していることを確認しました」

『生命の木? 初めて聞く名前なんだけど? って言うかまず、裏ギルドって言うのが何なのか分からないんだけど?』

「…そうですね。端的に言えば、犯罪組織ですね≪生命の木≫は。それに、今回のこの【スタンピード】の黒幕、とも言えますね」

『ん?この【スタンピード】って魔女が関係してるって言ってなかったっけ?』

「はい。確かに言いました。しかし、魔女はあくまで関係しているだけで、引き起こしたのは別に存在すると思われます」


うわぁ…話が訳わかんなくなってきた…。

え~っと…【スタンピード】を起こしたのが魔女ってのの仕業だと思われていたのが実は別の奴が引き起こした可能性があって、んで? その≪生命の木?≫とか言うのが一番怪しいと、さらには俺まで狙っているかもしれないと……うん、理解できん!!


「っと、その話は【スタンピード】を終わらせてからゆっくりと説明させて頂きます。一つだけ忠告するのであれば、マルセさんを含め、ラーズの街の冒険者や教会関係者には気を付けた方が良いという事くらいです。さぁ、第二波目が見えてきましたよ。幸い第一波目はシロさんのお陰で殆ど全滅、第二は目の構成は…上位種の塊ですね。幸いキング級やロード級が居ないだけまだましな方ですが…半分くらいまでは私一人でも問題ありません。しかし、この剣が耐えられるかどうかですね」

「……シロさん。援護をお願いします。私一人では中心部まで一気には到達できません。軽く威圧する程度で構いませんので」

『……分かった』


本当に軽く威圧をし、少し魔物の動きが鈍くなったのが確認できた。

不意に、ドン!!と凄まじい音が聞こえ、隣を見ると地面が陥没しており、周囲には脳天を貫かれ絶命した魔物の死骸があった。

……これ、俺が居る必要あるのか?エリスの攻撃の方が初速が俺よりも圧倒的に早いし、攻撃箇所は急所を的確に狙った刺突のみ。魔法を使った形跡もない。

ふとエリスの方に視線を向けるとエリスは丁度魔物と魔獣に囲まれた所で援護しようとしたが、「はあぁ!!!」とエリスの声が聞こえたかと思うとエリスを囲っていた魔獣達がエリスを中心とし、円状に吹き飛んだ。

今ので第二波の半分くらいを魔法を使わず剣一本だけで斬り伏せた。するとエリスの持つ細剣からピシ!と、ひびが入る様な音が聞こえ、エリスが目の前の魔獣に細剣を脳天に突き立てたところで剣がパキン!!と音を立て根元の辺りから折れた。


「ック!酷使し過ぎてしまいました。ですが、ここまで保ってくれたのは鍛冶師の腕が良かったからでしょう。店主の方に感謝を…第二波も四分の三は剣だけで行けましたが…残りは魔法で何とかするしかなさそうですね」

「成るべくシロさんに作って頂いた剣の使用は避けなければなりませんし、あれだけの数を相手にしたので掠り傷とは言え体中が傷だらけです。…シロさんは回復魔法は使えますか? もし使えるのでしたら少しだけで結構ですので回復をお願いします」

『回復魔法だと思われるものはあるけど…使ったことないし、使えたとしてもおそらく特殊な条件があると思う。≪神獣の涙≫ってスキルがあるんだけど何か知ってる?』

「≪神獣の涙≫…ですか?初めて聞くスキルですね。しかし、何故特殊な条件があると思うのです?」

『……エリスが攻撃を受けた瞬間に使おうとしたけど発動しなかった』

「何時の間に……そうですか。だから何かしらの条件があると思ったわけですか」

『≪神獣の涙≫』

「っちょ!!」


エリスは急なことで声を上げるがエリスの傷が一向に塞がる気配はない。


「……成程、何となくですが≪神獣の涙≫の発動条件が判りました」

『発動条件は?』

「確定ではないですが…瀕死の怪我しか治せないのではないでしょうか?」

「まぁ、瀕死になるようなことは今のところは起きていませんがね。最も、魔女が出てきたら私では手も足も出ませんが」


……フラグ? フラグだよな?いまの!!

っていうかさっきからエリスが魔法の詠唱してないのに魔法が発動してるのはなんでだ?


『エリス…「言いたいことは分かっています。何故呪文を詠唱していないのに魔法が発動しているのかですよね?」はい』

「それはですね。私が獲得しているスキルのせいです。≪完全無詠唱≫と言うスキルなのですが、魔法の種類と効果、範囲を正確に思い描くことで詠唱無しで発動できるのです。まぁ、私の場合は上級魔法までですが」


え?何それ?そんなことできるの?初耳なんだけど?!


「因みにですが、先ほどシロさんがやってましたよ?無意識だったでしょうが」

『何時?』

「私が攻撃を受けた瞬間に使おうとしたと言ってましたね? っと、そろそろ第二波も殲滅出来そうです。ですが、問題は最後の三波目ですね。ロード級とキング級はまとめてそこに居ます。雑魚~中級で私達の体力と戦力を削ぎ、一気に強襲するつもりの様だったのでしょうが、シロさんが第一波、私が二波目を担当したのでシロさんは全くと言って良いほど体力も力も温存できています。私はちょっと疲れが溜まって来ていますが…いけます!」

『…了解。そう言えば総括は?』

「まだ来ていません。とっくに各ギルドには通達し終わっているはずですが…何をしているのか」

「ですが、来ない方が良いかもしれませんね。マルセさんが居ても…今からここに来る悪魔には勝てませんよ」


エリスがそう言うと、迫っていたキング級の魔獣が一瞬にして押し潰され、羽を生やした一人の男が俺とエリスの前に降り立った。


「……来てしまいましたね。恐らく、目の前の悪魔は上位悪魔よりもさらに上、爵位が与えられているかもしれません」


すると、目の前の男が恭しく一礼し、口を開いた。


「お初に御目に掛かる。世界序列第九十位、エリス殿。そして、その従魔殿」


その言葉にエリスは目を見開いた。


「ッ!驚きました。まさか、人の言葉を完全に理解し、発することが出来る悪魔が居るとは!!」

「ですが、確信しました。貴方、爵位を持っている悪魔ですね?」


それだけ言うとエリスは左腰に差していた剣を鞘から抜き悪魔に向け構えた。

悪魔は僅かに口角を上げ微笑んだ。

その瞬間俺の背中にゾワッと悪寒が走った。


『ッ!!エリス、この悪魔、かなりヤバイかも』

「えぇ、流石爵位を持っているだけのことはあります。あの悪魔が微笑んでから震えが止まりません」


そう言われエリスの方を見るとカタカタと震えていた。しかし、目の前の悪魔からは一切目を離してはいない。


「シロさん。貴方から貰ったこの細剣、壊してしまったら済みません」

『それなら壊しても構わない。でも…死ぬってのだけは勘弁してくれ』

「………それは…困りますね。私では対処しきれませんね。ですが、やれる限りの事はやりますよ」

「ふぅ、随分と長い間その従魔殿と話していたみたいだが…」


フッと悪魔が目の前から姿を消した。

すると急に耳元で声がした。


「何を話してたか俺に教えてくれよ?」


俺は反射的にその場から飛び退いたがエリスは動けずに膝を突いた。

!!この悪魔、一瞬の内に俺とエリスの真後ろに!

街がどうとか言ってる場合じゃない…街が壊れてでもこの悪魔をここで倒さないと…絶対後々面倒になる。


悪魔は嬉しそうにさらに口角を吊り上げ笑った。


「いや~ビックリビックリ。まさか動けるとは…従魔殿? 一体何者だ?」

『答えるつもりはない!』

「ホウホウ。これは念話と言うやつか? 直接脳内に声が響いてるみたいで変な感じだな」


何とかしてエリスをあの悪魔から剥がさないとヤバイ気がする。


「ふ~む…俺をエリス殿からどうやって引き剥がすかを考えてるのか? と言う事はこのエリス殿には従魔殿の弱点に成り得るか」


すると悪魔は何かを思いついたのか、エリスを立ち上がらせたかと思うとエリスの胸を背中から貫いた。


『………』


突然のことで混乱し頭が真っ白になる。エリスの体を貫通した悪魔の腕、エリスは何が起きたのか分からない様子で呆然とし、「ケホッ」と小さく咳をし、口から血を吐き出した。


俺の目にはエリスから流れる血がスローモーションのようにゆっくりと流れ落ち、地面を赤く染めるのが見えた。そこでようやく頭が鮮明になった。

エリスとの仮契約をこちらから一方的破棄し、エリスから流れ出る血を止める為直ぐ様エリスの全身を悪魔の腕ごと凍り付けにした。

目の前の悪魔はいきなり自分の左腕が凍り付いたことにギョッとし、即座に自身の左腕を切り離しエリスから飛び退いた。


「ック!魔法や物理の攻撃に対して対策をしていたと言うのに感知すら出来ずにまともに攻撃を受けるとは…参ったな」

『その割には随分と冷静だったみたいだが?』

「八ッ!そう見えたのなら上々、だがどういうことだ?俺は魔法を含めすべての攻撃に対して最大限警戒をしていた。それを容易に突破する程の絶対的な差が俺と従魔殿にはある。……お前、一体何者だ?」

『答えるとでも?』

「思ってない。だが、こうすれば答えざるを得ないだろ? 世界序列、第八十八位男爵の位を貰っている悪魔。名は……無い」

『うわぁ…そう来たか。狡いのなお前』

「どういわれようと関係ない。さぁ、答えて貰うぞ。従魔殿?」

『はぁ…メンドクサ』

「そ…そこまで嫌か?!」


悪魔が困惑の表情を浮かべる。


『でもまぁ…それ言われたら答えないと逆に失礼らしいし?答えるけどさぁ……あ、でもエリスを貫いたことは許さないからな?』

「許されなくたって構わない。俺は強い奴と戦えればそれで満足だしその為にこの【スタンピード】に参加したようなもんだしな。さ、そろそろ言ってくれよ?」

『……はぁ、世界序列第三位種族と名前を教える気はない。エリスとは仮契約をしていた。これで満足か?』

「世界序列第三位だと?!それにエリス殿とは仮契約をしているはず。ん?だった?どういうことだ?まだ仮とは言え、契約は持続されてるんじゃないのか?」

『……お前がエリスを貫いた瞬間に俺の方から一方的に破棄しただけだ』

「うわぁ…使えなくなったら捨てるとか……俺よりお前の方がよっぽど悪魔じゃないか」

『は?お前は何を言ってるんだ?』

「だってそうだろ?エリス殿はもう助からない。誰が見たってそう答えるだろ?」

『……もう良い。…何も話すな!』


一気に自分を中心とした半径三メートルが凍り付いた。悪魔は声を上げる間もなく凍り付いた。

俺はその悪魔感情の無い瞳で一瞥し粉々に砕いた。

ふぅ、これで悪魔の方は片付いたけど…スキル≪神獣の涙≫の発動条件って言うの何なんだ?まぁ、やってみるか。

エリスの氷を解除し地面に寝かせスキルを発動させる。


『≪神獣の涙≫』


スキル名を唱えると目からツーっと一筋の涙が零れ、エリスの顔を濡らした。

しばらくすると、エリスの体が薄っすらと発光したかと思うと一気に光が強くなり視界を真っ白に埋め尽くした。

光が収まると無傷のエリスが寝息を立てて眠っていた。

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