第四十話
総括とそんな話をしているとエリスが武器を買って戻ってきた。
『随分早かったな』
「えぇ、たまたま入った店に丁度良い物を見つけることが出来ましたので。まぁ、最悪の場合はシロさんに作って貰った細剣を使うことになりますがね。…本当、使わない事を願いますよ」
「そこまでの代物ですか?!」
エリスが話していると総括が割って入ってきた。それも物凄く興味深そうに…。
「えぇ、魔力調整を間違えば魔獣の氷の山ができ上りますよ。実際、私は渡された当初は魔力を込め過ぎてえらいことになりましたから」
「是非私も欲しいで「いやダメですよ? ただでさえアルメ神聖国で保管されている氷塊から切り出したと言われている刃の折れた剣でさえ国宝…いえ、伝説級とされているんですよ? 次その様な事を言ったら貴方愛用の戦斧を炉にぶち込みますよ?」…」
「ひ…酷い!! 貴女に人の心は無いんですか?!」
「は? 何を言ってるんです? それでも生ぬるいくらいですよ。シロさんが神獣と言うだけでも目を付けられるのにそんな武器を制作できるなんて知れたら…考えるだけでも恐ろしいです」
「それに、そんなことが教会関係者、もしくは強欲な貴族に知られたら良くて見せ物、最悪の場合は戦争の道具にされかねません。少なくとも教会やアルメ神聖国はそんなことは出来ないと思いますがね」
『ん?神聖国?それって…』
「はい。深緑の森で偶然会った彼女がいる国です。シロさんとしてはなるべく関わりたくないのでは?」
『まぁ…そうだな。絶対面倒な事になる俺はノールを見つけて、ノールの復讐?をさっさと終わらせてのんびりしたいだけだしね』
「今更言うのはあれなんですが…」
ん?なんだ?
「このフロアに居る冒険者全員にシロさんが喋れるって事がばれてしまってるんですがそれは?」
あ…そうだった!!ってか総括だってさらっと俺が神獣だってこと暴露してたじゃん!! …ふぅ、なんか吹っ切れたわ。
『…本当に今更だな。まぁ最初に俺を神獣だって此処の冒険者やギルド関係者にばらしたの総括だけどな』
「………」
おい?!なんで急に黙るんだ?
「仕方ありませんよシロさん。ばれてしまっているのは仕方がありません。取り合えず今日は宿を探して休むことにしましょう。今回の【スタンピード】は私でも経験が無いほど大規模なものです。万全な状態で挑みたいので…お願いします」
『…分かった。って言うか俺もそろそろ寝たいって言うか今何時なんだ?』
「先ほど教会にある鐘が低い音で一回と高い音で九回鳴り響きましたので、十九時です。もうすっかり夜ですよ」
時間の数え方は大体地球の時と同じ…ってことでいいのか?
「エリスさん、シロさん。可能でしたら私の部屋に泊まって行ってください。むしろお願いします!!初動が遅れたらほぼ間違いなく【スタンピード】に呑み込まれて終わりです」
『そういえば睡眠だけで飲み物とか飯殆ど食べてなかったな…』
「「は?」」
あ…エリスと総括の声ががぶった。
「シロさん?!食べてないって言いました? 私の聞き間違いじゃないですよね?」
「エリスさん何も食べ物とかあげてなかったんですか?とんでもないブラックですね!!って今はそんなことどうでも良いんです!!いや、良くはないですが…。何時から食べてないんです?」
うわぁ…エリスの方はちょっと慣れて来つつあるけど、総括もエリス並に真顔が怖い…。
『ノールが消えてからだから…約二日くらいだと思う』
「…シロさん。何故言って下さらなかったんですか?食事はまぁ何となく予想はしてましたが水すら飲んでいないのは知らなかったです!!てっきり私は水くらいは飲んでいたとばかり…」
『ん?まぁそれだけ俺も焦ってたってだけだし、別にエリスが悪いわけじゃないと思うんだけど』
「とにかく何でも良いので食べて下さい!! あ、食べられない物とか嫌いな物は無いですか?」
『ゲテモノとかじゃなければ食べれると思う』
「魔物の肉とかは大丈夫ですか?と言うかどの店にも魔物の肉を主として売っていますが…」
『…食べたことないから分からんけど…大丈夫だと思う』
「じゃぁ此処で食べちゃいましょう。酒類があるなら当然食べ物もあるはずです。ありますよね?」
「えぇ、ありますよ。このフロアで食べるのも目立つと思いますので私の部屋にでも行きますか? その方が緊急でない限り人は入って来ないので」
「って事みたいですが、どうしますか?シロさん」
『じゃぁ…総括の部屋で』
「エリスさんとシロさんは先に私の部屋に行っていてください。私は料理を持っていきますので。あ、エリスさんは何を召し上がりますか?」
そう言いながら総括はいつの間にか持っていたメニューをエリスに渡した。
「そうですねぇ…ではオーク肉の香草焼きを一つ、いえ二つにしてください」
『エリス…一人でそんなに食うのか?』
「え?!ち、違いますよ!!一つはシロさんの分ですよ?!流石に私一人で二人分は食べきれませんよ!!シロさんも私と同じもので良いですね!!」
物凄い勢いで否定された。目力凄いな…。
『ア…ハイ。ソレデイイデス』
「では総括、オーク肉の香草焼き定食を二つお願いしますね」
「はい。分かりました。それから殺気から言おうと思っていたんですが、その総括って呼ぶのをやめて貰っ「ハイハイ、では総括先に貴方の部屋に行っていますね」……アッハイ」
エリスが総括の言葉を遮ると俺を持ち上げると、階段を上がり総括の部屋に向かい始めた。…総括、ガンバレ…。
「さて、一応説明して頂けますか?教会で見たとんでもない数の称号と、神々の加護について…」
『…称号の殆どは心当たりはない。何となくこれだろって言うのはあるにはあるけど。加護については一切分からない、何時加護を与えられたのかとかな』
「成程…教会で初めて知ったと言った感じですか…。では、神獣と言うのを自覚したのは何時くらいですか?」
『それは本当に最近だな。俺が最初に立ち寄った…と言うか引っ張り込まれたというか。まぁそれはどうでも良いか。神獣って分かったのは俺とノールが契約したときだったと思う。その時に神の声が聞こえたからな』
「そうですか。ありがとうございます」
と丁度どのタイミングで部屋のドアがノックされた。
『ってかエリス…勝手に入って良かったのか?此処総括の部屋だよな?』
「そうですが問題ないと思いますよ?」
すると再びドアがノックされ、総括の声が聞こえてきた。
「あの…エリスさん?居るのは分かってるので取り合えずドアを開けて貰って良いですか?私、今両手が塞がってますので」
え?じゃぁどうやってノックしたんだ?
「ノックが出来るのなら自分で開けれますよね?開けて入って来てください」
『エリス…鬼畜って言われない?』
「え?!何故私が影で言われている異名を知っているんです?!」
『…気付いてるのになんで直さない? まぁそれは良いとして、早く開けてあげろよ…』
そう言うとエリスは渋々といった感じでドアを開けた。それと同時に総括が入り、すぐさまドアを閉めた。
え?何今の速さ…全く見えなかったんだけど?人間やめてない?総括…。
「取り合えず召し上がって下さい。食べながらでも話は出来ますよね?」
早ッ!!今入ってきたばっかりなのに…。
「相変わらず物凄い速さですね。それでいて埃一つ…いえ、空気の乱れ一つ感じさせないとは…」
「神速の二つ名は伊達ではありませんね」
空気の乱れって何?俺それすら分からないんだけど?
「せっかく持って来て頂いたので温かい内に食べましょう」
「あぁ…うん」
目の前の皿の上には、スライスされた香草を纏った肉が四枚乗せられいる。微かだが生姜のような匂いもする。
「…やはり、魔物なので抵抗がありますか?」
『いや、そういう訳じゃない』
そう言うと口の中にオーク肉の香草焼きを放り込んだ。
あ…これ豚の生姜焼きに似てる…ってか殆ど味が同じだ!!
『この香草って…』
「香草がどうかしましたか?もしかして香りが強かったですか?」
と、総括が心配そうな眼をして言ってくる。
『いや、大丈夫。香草の種類は分かるか?』
「はい。ジンジャーと言う香草…いえ、香辛料でしょうか。本来は根の部分を使うのですが、此処では葉の部分を使う場合が多いのです。オーク肉は匂いが少々独特なものもありまして、ジンジャーは臭み消しや食べやすくするために使っています」
「寒い日なんかはすりおろしたジンジャーを暖かい飲み物に入れて飲むと体が温まりますよ」
うん…完全に生姜だ。ってか普通にうまい。
『【スタンピード】の中にオークっている?』
「詳細はまだはっきりしていませんが…おそらくいると思いますが、それがどうかしましたか?」
あれ、エリスが何か察っしたみたいな面持ち俺の方を見ている。
「シロさん…まさかとは思いますが、【スタンピード】の最中にオークを狩りつくすつもりですか?」
『え?なんでわかったんだ?』
「あんなに分かりやすかったら、契約していない私察しが付きますよ」
『え?顔に出てた?』
「顔には出ていませんでしたが、オーク肉の香草焼きを食べてすぐだったので…察せました」
「まぁ、それは私達からしたら有難い限りです。ですので、明日は思いっきりやって頂いて構いません。と言うか、【スタンピード】の先頭が街の半径一キロ手前まで来たら先制攻撃として神獣である貴方にやって貰おうと思っていましたので」
「なんなら一キロよりもっと前でやって頂いても構いません。しかし、今回の【スタンピード】は間違いなく序列五十位くらいの化け物が混じっていますのでその討伐も貴方にお願いします。私達も世界序列には入っていますが下位ですので全くと言って良いほど相手にならないのでお願いします」
なんか適当じゃないか?総括…。
「かなり適当ですね…マルセサン」
!!なんか、ゾワッってした…もしかしてエリス? 若干だけど、殺気が漏れてるし…。
「まぁ良いですが、この街が地図から消えても私とシロさんには関係ないですし、ですが、もし一般市民や非戦闘員をギルド関係者もしくは冒険者が盾にする様なことがあれば私は冷静でいられる自信はありませんよ? …当然、マルセさんもそうでしょうけど…そうですよね?」
「…えぇ、多少の被害は致し方ないとは思いますが、冒険者ギルド関係者が一般市民を盾にするなどと言う事案が発生した場合は私が責任をもってその者を斬り捨てます。そうならない様、指導してきてはいますがね」
『…今言う事じゃないのは十分分かってるんだけど、言わせてくれ…』
すると、総括とエリスの殺気を纏った視線が俺に向けられる。
「何でしょうか?」
『寝る時は何処で寝れば良いんだ?』
「…本当に今言う事じゃないですね…まぁ良いでしょう。すぐ隣にの部屋は客間になっています。そこで寝ていただきます」
『了解。悪いけど先に寝させてもらうわ。三時間くらい寝れば体力と魔力は全回復するっぽいし』
「そうですか。ではゆっくり休んでください。私はエリスさんとまだ細々とした作戦や戦略を話し合いますので」
「シロさん。三時間と言わず私かマルセさんが起こしに行くまで眠っていても良いと思うのですが…」
『あ、そうそう。エリスか総括が起こす時って既に【スタンピード】の先頭が半径一キロに到達しそうな時だよな?』
「えぇ、そのくらいになったら起こすつもりでした。そうすれば大体の【スタンピード】の対抗手段が確定しますので…それでは遅いですか?」
『多分、遅すぎる位だ。もちろん俺の目的はノールを見つけることだけど、今は【スタンピード】の方に集中することにする』
「ッ!!本気で言ってるんですか?!」
『大丈夫。ノールの匂いは完全に覚えてる。それに、何故か嫌な予感がする…いや、嫌な匂いだな。【スタンピード】を率いてるのは…おそらく悪魔の可能性がある』
するとエリスと総括の顔色が一瞬にして変わった。
「シロさん…それ、冗談では済まされませんよ!!」
『……。【スタンピード】直前に冗談なんて言う訳ないだろ』
「マルセさん、落ち着いてください。シロさんも」
「…しかし!!」
「シロさん、何故今回の【スタンピード】に悪魔が関係しているなんて分かるんです?」
『エリスも一緒に俺のステータスを確認してるから知ってると思ってたんだけど…まぁ良いか。俺が持ってる称号の中に【最上位悪魔の撃退者】って言うのがあるんだけど…実際に悪魔と戦闘になった。エリスには会ったくらいの時に話してるんはずなんだけど…」
「あ…すみません。完全に忘れてました」
『当然悪魔の匂いは覚えてる。それに似た匂いが僅かにだけどしてる。もう一回言うけど、【スタンピード】に悪魔が関わってる可能性がある』
『一応は伝えておいた…じゃ、お休み』
それだけ言うと俺はエリスにドアを開ける様に頼んだ。
するとエリスはすぐさまドアを開けた。
「あ、シロさん。自分で絞めてくださいね?と言うか…ドアの開閉位自分で出来ますよね?」
『ん?出来るけど』
「では次回からドアなどの開閉はご自分でお願いします」
『いや、自分で開けようとしてたけどエリスがどっこしてたせいで出来なかっただけなんだけど…』
「……」
え?なんで無視?なんか怒らせちゃった?!
「それでは、おやすみなさい」
それだけ言うとエリスは少し勢いをつけでドアを閉めた。
えっと…さっき低い音の鐘が二回鳴って高い鐘の音が三回鳴ったから二十三時か…どおりでさっきから少し眠いわけだ…さっさと部屋に入って寝るかな。
総括の部屋のすぐ隣の部屋のドアを氷で作った手で開け、中を見ると丁度目の前にソファーがあった。
ドアを閉め、ソファーの近くまで行くと急に強い眠気に襲われ視界が暗転した。
ようやく投稿できました。
物凄い間隔が空いてしまい申し訳ありませんでした。