第三十九話スタンピード到達まで・・・
明けましておめでとうございます
「さぁ、シロさん戻りましょう。それと少し急いだ方が良いかもしれません」
俺はまたエリスに抱っこされた。エリスは俺を抱き上げると少し足早に【信託の間】を出た。シスターがなんか言ってたけどエリスはスルーし【信託の間】出ると一気に教会の入口まで走り抜け、教会の外に飛び出した。
『エリス? そんなに急ぐ必要あったか?』
「えぇ、もしあのシスターの呼び止めに応じていたら間違いなくこの教会の司祭、もしくは最高司祭辺りの重役を呼ばれていたと思います。それに、貴方は面倒事は嫌いではなかったでしたっけ?」
そう話しつつもエリスは歩みを止めない。と言うか少しずつ早くなっていってる気がする。
『そうなんだけど、逆に後から余計面倒になりそうな気がして…』
「えぇ…間違いなく教会から何かしらは言われますよ? なんせシスターを基教会関係者を無視して教会を出たのですから。あ、因みに今頃シロさんのと私のことは最高司祭辺りに話が行ってる頃ですね」
『え?なにそれ…情報上がるの早すぎない?』
「えぇ、教会の情報網や情報の速さは冒険者ギルド以上とまで言われています。今頃ルガーの街では貴方の噂が広がっているはずですよ?」
『うわぁ…そこまで影響力あるの?この国の教会って』
「えぇ、現国王がかなり熱心な信徒らしくてですね。この国のほぼ全ての領地や冒険者ギルドのある場所には必ず教会が一つあります。此処、ラーズの様なかなりの広さのある領地では二つ以上教会がある場合もあります」
「正確な数は一切分かりませんが、おそらく冒険者ギルドよりも教会関係の建物の方が多いかもしれませんね」
「それと、【スタンピード】のおおよその数が判明しました」
『マジで? あ、その前に【スタンピード】って俺達と言うかこの街に何かメリットとかってあるのか?』
「一応はあります。魔物や魔獣は倒せば良質の素材や食料になりますがデメリットの方が大きいですね。怪我をする危険性が格段に跳ね上がりますし、怪我を直すためのポーションなども大量に消費します。それに、今回の【スタンピード】は今までに事例が無いほど巨大なものになっています」
『今までに事例が無いって…さっき聞こうとして辞めたけど、おおよそって言ってたけどその数は?』
「おそらく……万以上なのは確実です。いくらラーズの冒険者や傭兵達と言っても、厳しいと思います。それと、先に言っておきますがここの領主には期待しない方が良いですよ?」
『え?…それはどういう?』
「はっきり言ってしまいますが…ここの領主にこの【スタンピード】をどうにかすることは不可能です。不思議に思いませんでしたか?何故冒険者ギルドがあそこまで大規模だったのか。冒険者ギルドは王都でもなければ普通あそこまで大規模なことはほとんどの場合在りません。私がマスターを勤めているルガーの冒険者ギルド、あれが普通のギルドの大きさです。いくら世界序列に入っていてもです」
「それに、この世界に世界序列に入っているのは百人も居るのです。世界の総人口から比べたら圧倒的に少ないですが、それでも知性を持った魔獣や魔物、そして神の使いとされている天使や神獣、聖獣。さらには伝説上の存在とされ今では確認すらされていない幻獣と呼ばれる存在も世界序列の中に入っています。まぁ、最初に述べた魔獣や魔物は比較的下位の方に居ますが、天使や神獣、聖獣そして幻獣と呼ばれる種は間違いなく序列五十位以内であると言われています」
「と言ってもその世界序列第三位の存在を私が抱っこしていますがね…っとそんな事を話していたら着きましたよ。さぁ、総括に数がどの位だったかの確認をしましょうか」
そう言うとエリスはギルドの扉を勢いよく開けた。目に飛び込んできた光景は凍り付いたフロアと燃え尽きた様に真っ白になった総括の姿だった。
「あ…そういえば忘れていました。ずっとこのままでしたね。すっかり忘れていました…でも、シロさんを怒らせたのはこのギルドの所属している冒険者…だというのに何を白くなっているのです? でもまぁ、その氷に触れなかったのは賢明な判断でしたね」
…なんで二回忘れたって言ったんだ?
俺が疑問に思っていると、真っ白になってる総括がのそっと顔を上げた。
「賞賛は結構ですので、この氷を解除して貰えませんか? お陰で私の業務が完全にストップしてしまいました。それに、【スタンピード】も発生したんですよ? 貴方方が行くまでは予兆でしたが…先程、発生が確認されました」
「それは分かっています。私の方でも感知できました。しかし、正確な数は私の方では確認できていません。さっそく教えていただけますか?ついでに【スタンピード】がこの街に到達するまでの予想時間も一緒に」
「それは構いませんが…当然協力して貰いますよ?いくら世界序列に入っているとはいえ、今回の数は私だけでは対処できませんので」
「それは分かりましたので数と到達予測時間を…」
「数は数十万単位、行進の先頭がこの街に到着する予測時刻は一日後です。とてもではないですがたった一日では他の街の救援は期待できません。それに、はっきり言ってしまいますが領主は戦力としてはカウントできません。我々冒険者ギルドとこの街の傭兵、さらには教会だけの力で何とかしなくてはなりません」
「数十万単位…それにたった一日ですか。武器を直している時間はありませんね…仕方ないですね、この街の武器屋で細剣を調達するしかありませんね。と言う事で私は今から武器屋に行ってきますので総括、シロさんを預かっていてください」
エリスはそれだけ言うと俺を総括の目の前に置いてギルドを出て行った。
これには総括も目が点になっている。
「え?は?えぇ?!…シロさん?何故エリスさんが武器屋に行ったのか説明して貰っても? 細剣は立派な奴を彼女、腰にぶら下げていましたよね?」
『ん?あぁ…あれは俺が作ったやつだな。エリスが言うには人前で刀身を抜けないって言ってたな。それに、深緑の森で序列入りの魔獣と戦った時にエリスが持参していた剣が折れてな。で、俺が代わりに細剣を作ったらとんでもない代物になったらしくて、代わりになる細剣を買いに行ったんだと思う』
「な…成程、経緯は分かりました。まさかエリスさんの武器が壊れていたとは…それはそうと、そろそろこのフロアと彼等を解放しては頂けませんか?そろそろ体力が厳しいと思うので」
『あ…そうだった!!すぐに解除する』
そう言うと俺は、総括の足元にあった氷塊に触れる…するとそこから一気に亀裂が広がり、音を立てて氷が砕け散った。
『はい、解除し終わった』
「無詠唱どころかただ触れただけで解除するとは…とんでもないですね、神獣って」
『そんなに凄いことなのか?』
「凄いなんてものではないのですが…まぁそういう事にしておきましょう。そういえばエリスさんから聞いた話なのですが、以前街一つを氷漬けにしたとお聞きしたのですが、それは本当ですか?」
『まぁ……本当だけど、街一つじゃなくて隣街の半分も凍り付いたらしい』
「は?!…失礼、エリスさんの報告とは少し異なっていたので…にしても街一つでも衝撃なのにさらに隣街の半分の機能を停止させましたか」
「ハハハ…話が違うじゃないですか。ですが、貴方が居れば今回の【スタンピード】は何とかなりそうです」
『ん? 今回のって言うのはどういうことだ? まるで何回か【スタンピード】が起きたような言い方だな』
「…えぇ、実を言うとその通りなんですよ。これまでに三回、この街は【スタンピード】の侵攻を受けました。今回で四回目です。正直…嫌になりますよ」
『過去に三回も【スタンピード】の侵攻を受けているのに領主は何も対策をしてないのか?』
「……はい、報告はしっかりと上げているのですが、領主からの返事は今まで一度もありませんでした」
『マジか…よくこの街が成り立ってるな』
「えぇ、実質、この街を回しているのは教会です。残念ですが、私でも教会上層部からの指示は従わなければならないのが現状です。でも、私はその現状を黙って受け入れるつもりは更々ありません」
『あ…そのことなんだけど』
「何です?」
『実は教会で鑑定し終わった時に呼び止められたんだけどそれ無視して来ちゃったんだけど…大丈夫だよな?』
「プッ…クク、アハハ…それは、随分ととんでもないことをしでかしましたね。お聞きしますが貴方とエリスさんを呼び止めたのは誰ですか?」
…総括がめっちゃ爆笑してる。
『シスターだった。偶々通りかかったシスターが【信託の間】って場所に通してくれた』
すると、総括の顔が険しくなった。
「そうですか…少し、不味いことになりそうですね」
『ん? どういうことだ?』
「ただのシスターに【信託の間】へ案内するだけの権限は与えられていません。おそらく、門兵辺りから貴方の情報が教会関係者に知らされたのでしょう」
『マジか…面倒事の予感しかしないんだけど…どうにかならないか?』
「私も全力を尽くしますが、おそらくこの【スタンピード】が終結したら再び貴方は教会に招待されると思います」
「まぁ、最終手段としては教会を氷漬けにするしかないかもしれないですね」
と満面の笑みでそんなことを言ってくる総括。それで良いのか総括…。
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