第三十八話スタンピードの気配と再び教会での鑑定
「さて、色々と予想外なこともありましたが、私のこの街での目的は達成しました。シロさんは何かやることとかはありますか?」
とマルセが階段を上がって行ってすぐにそんなことを言われた。
『いや、何かやるとか言ってもこの街の事とか全然分からないし、どうしようもないんだけど? それ以前にこのフロア元に戻さなくていいのか?』
「良いんじゃないですか? 何も言ってませんでしたし、それに貴方にちょっかいを出したのはここの冒険者。彼の監督不行き届きであってシロさんや私には関係ないことです」
エリスはこう言ってるが、顔は満面の笑み、しかも薄っすらと黒い靄みたいのが見える。
あ、これ言ったらダメな奴だ。ってことでスルーすることにした。
「そういえば、シロさん。ノール君の匂いに変化はありますか?」
『いいや、ノールが行方不明になった時からずっと超嗅覚を発動させたままにしてるけど残りがとか一切感知できない。もしかしたらノールはこの国には居ないかも』
「そ、そうですか…ん?今なんて言いました?」
『ん?ノールが行方不明になった時からずっと超嗅覚を発動したままにしてるけど、何か変か?』
「っちょ!!それ大丈夫なんですか?!」
『行動に支障は全くない。まぁ時々突き刺す様な激臭を感じることはあるけど、ノールの匂いは全く感知できてない逆にどんどん遠ざかってるようなそんな気がする』
「シロさん。一度超嗅覚の発動をストップしてください。いくら神獣と言っても連続何時間も能力やスキルを連続使用するとかなり消耗するはずいえ、消耗しているはずです。お願いですから超嗅覚の使用を一時中断してください」
『…中断するつもりはない。もし中断している最中にほんの僅かの匂いがあったらどうするんだ? それに、ノールは間違いなく伯爵とか言う奴に復讐するつもりだ。俺はそれを回避したい、だから超嗅覚の発動を中断するつもりはない』
するとエリスは不思議そうに顔を傾ける。
「え?ちょっと待ってください? 伯爵?ノール君が住んでいた村の領主は子爵ですよ? 一体どこから伯爵なんて爵位が?」
『は?俺が聞いた時も兵士が伯爵様って言ってたぞ? って言うかなんでエリスがノールの住んでた村の事を知ってるんだ?』
「それは私が調べたからですよ。しかし今はそんなことを言ってる場合ではありませんよ。シロさん、少しでもいいので眠った方が良いですよ。それに、ノール君との繋がりが完全に途切れたわけではないでしょう?」
『あぁ、それはそうだけど、前まではノールの思考とかが勝手に流れ込んできてたけど、今は全くそういうのを感じない。繋がってる感覚はしっかりしてるけど』
「なら大丈夫です。その繋がりがしっかりとしているのであれば、ノール君が危機にさらされているとは考えにくいです」
『なら少しは大丈夫かもしれないな。でも、早く見つけれればそれだけ危険も少なくなるはず』
「それは確かにそうですがシロさん、焦りすぎですよ? ノール君は貴方の契約者であり、初めて貴方の体に傷を負わせたのでしょう?」
『…そう、だな。少し、いやかなり焦っていたみたいだ。助かった』
「いえいえ礼には及びませんよ。ですが、今から教会に行きましょう」
『なんでだ?』
エリスは、はぁとため息をついた。
『良いですか? ギルドの測定器では貴方のステータスを正確に表示すること王都にある測定器クラスの物でなければ不可能です。しかし、教会にある測定器であれば問題はありません」
『え?なんでそんなことが言えるんだ?』
「それはですね。この国にある教会の全てに【天使の瞳】と言う水晶が存在するのですが、その水晶を通して神もしくは上級天使が水晶に触れた者を鑑定するのです。それと、≪鑑定≫というスキルもありますが、教会にある【天使の瞳】よりは圧倒的にその精度は劣ります。分かることと言えば、名前やスキル、年齢、職業くらいです。ざっと説明するとこんな感じですね。さぁ教会に行きますよ」
そう言うと、エリスは俺を抱ってそのまま扉へ一直線に歩き始めた。
なお、ギルドのホールは凍り付いたまま。
と言う事で俺とエリスはラーズの街にある一番大きな教会の前に来ています。
目の前の教会もさっきまで居た冒険者ギルドと同じくらい巨大だ。
「あ、そういえば聞いていませんでしたが、何故シロさんは教会に来るのを嫌がっていたんですか?」
『え?だって面倒事の予感しかしないし、キラキラし過ぎて落ち着かないから』
「…完全な偏見ですね。確かに腹黒い神官が居ないとは言い切れませんが、ほとんどの神官や司祭は清らかで優しい人達ですよ? まぁ、神獣と知れればどうなるか私には想像も出来ませんがね・・・」
っちょ!!エリスの目が座ってるんだけど?! 本当に大丈夫か?
「さぁ、鑑定して貰いに行きましょう。あ、もちろん私が抱っこしていきますのでご心配なさらずに」
「あ、それとシロさんはノール君を探すことに集中していて気付いていないと思いますが、私達がこの街に入ったくらいからだと思うのですが、妙な気配が複数私の気配察知に反応がありました。おそらく魔物でしょうが一応警戒はしておいてください。もしかしたら魔物の大行進、【スタンピード】とも言いますが、その予兆らしきものも私の気配察知で観測できましたので知らせておきますね?」
『り…了解。因みにどのくらいの数?』
「そうですねえ…。小規模であれば百単位程度、大規模になると万単位は行くと思います」
『ソ…ソウデスカ』
小規模でも最低で百体の魔物とか…。
『あ、因みに引きこもってるとか…「ん?何を言ってるんです?間違いなく貴方は戦闘参加ですよ?」ですよね~』
「えぇ、もちろんです。貴方より強い者がこの街に居るとでも?」
『そ…それは調べてみないと分からないんじゃ?』
「そういうのではと思って総括に協力してもらってこの街に居るすべての冒険者を調べました。まぁ当然ですが貴方よりも強い冒険者はいませんでしたよ」
あ…何が何でも俺を参加させるつもりだ…。
『随分と調べるのがお早いことで…』
「まぁ、偵察や調べ事は私の得意分野の一つですので…それはさておき、行きますよ」
教会の扉を開けてすぐ目に飛び込んできたの白を基調とした空間…ではなく黄金色の空間だった。
あれ?此処って教会だよな? 気になってエリスの方を見るがエリスの目はさっきと変わらず座ったまま…こわッ!!
『エ…エリス? ここって教会で合ってるよな?貴族の屋敷とかじゃないよな?』
俺が小声でエリスにだけ聞こえるように話す。
「えぇ、ここは間違いなくラーズの街にある最大の教会です。しかし、私が前回来た時よりも更に無駄な金の装飾品や調度品が増えていますね。【スタンピード】の予兆があるというのに此処のトップは何をしているのやら…」
『エリスが呆れ返るって相当だな…因みに前回エリスが来た時にはどのくらいまで装飾品があったんだ?』
「大体この大広間の半分程度だったでしょうか…私もある程度の予想はしていましたがまさかそれ以上とは…もう何も言えません。さて、兎に角シスターでも探しましょうかその方が手っ取り早く【鑑定の間】に案内してもらえると思うので。あ…教会関係者の間では【信託の間】でしたね。どうでも良いですが」
話していると丁度良くシスターが通り掛かったので【信託の間】に案内された。
【信託の間】は白を基調としてはいるが、所々金色に光っている。
『なんか…物凄く不快なんだけど…』
「シッ!!我慢してください。もし聞かれたら何を言われるか分かりませんよ?」
「それでは、鑑定いたしますのでこの水晶、【天使の瞳】にお手を触れてください。人によっては時間が掛ることがありますのでそこはご理解をお願いします。私は後ろで控えておりますので、何かあったらお呼びください」
シスターはそう言うと扉の方に下がって行った。
「シロさん。お願いします」
『分かった』
俺はそれだけ答えると水晶に触れた。すると、一気に俺の詳細が目の前の白い壁に映し出された。
◇
~ステータス~
【種族】 神獣 神狼
【二つ名】 雪と氷の象徴
【名前】 シロ
【スキル】 氷結結界
【耐性】 恐怖耐性 氷結凍結無効
【魔法】 氷魔法 光魔法 神聖魔法
【特有能力】
月の光を力に変換することが可能(月の満ち欠けによってその変換量は変化する)
絶対零度(あらゆるものを凍らせることが出来る。ただし、氷結に完全耐性を持つ者には効果が薄い)
至高の毛並み(もふもふされるとふかふかになる。保温性、吸水性に優れている)
超嗅覚(あらゆる匂いを覚える。一度嗅いだ匂いは忘れない。500㎞先の匂いまで感知可能)
自身の身体の大きさを自由に変えることが出来る。しかし、元の大きさより大きくなることは出来ない。(元の大きさは五メートル)
【加護】創世神の加護 獣神の加護 月の神の加護 精霊神の加護 地神の加護 自然神の加護 ???神の加護
【称号】創世神の寵愛 獣神のお気に入り 月の神の寵愛 運命の三女神の寵愛 時の神の観察対象 精霊神の寵愛 初めて人と契約した神獣 迷いの森林の天敵 初めてモフモフされた神獣 アイスクリエイター 料理上手 最上位悪魔の撃退者 自然破壊者 歩く天然記念物 地神の寵愛 自然神の寵愛
【契約者】
ノール
【仮契約者】
エリス
【世界序列】
第三位
◇◇◇
『…エリス、称号と加護が三つも増えてるのと、称号が変わってるんだけど、どうしたらいいと思う?』
「…あ、はい。ある程度予想はしていましたが、こんな大量の称号は私でも見たことがありません。いえ、数だけではありませんね。称号そのものもとんでもないですね、それに、加護が一番やばいですね。獣神は分かります。それに、地神や自然神の加護があるのはどういう事でしょう?…称号には自然破壊者というものがあるというのに…」
「まぁ、今は良しとしましょう。シロさんのステータスは確認できましたし、あのギルドに戻りましょう。そろそろ【スタンピード】の大体の数はギルドに行っているはずですので」
◇◇◇
一方その頃ギルドでは、ある一人の男が立ち尽くしていた。
「ハハハ…これは流石に笑うしかないですね。なんで氷を解いて行って下さらなかったのでしょうか…。【スタンピード】の数にも驚きましたが…はぁ、どうすれば良いんでしょうか。この氷、下手に触ると私まで氷漬けにされかねませんし、【スタンピード】の現在の数は数十万単位、いくらこの街の冒険者ギルドの冒険者達だってこの数を全て倒しきることはほぼ不可能。他の街に救援要請を出しても今からでは到底間に合わない…【スタンピード】側に世界序列に入っている魔獣もしくは魔物が居るのはほぼ確定であると考えて良いでしょうね。この街にいる以上いつかは来るとは思っていましたが…さて、おそらくエリスさんとシロさんは戻ってくる。作戦でも考えておきましょうかね」
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