第三十七話冒険者ギルドの総括と二つ名
エリスが総括と呼ばれる男と一緒に上の階に行ってしばらくすると、俺の前に数人の冒険者が立っていた。
何だ?と思っていると急に腹の辺りを蹴られた。全く痛みはないが、急なことで「キャン」と言う間の抜けた声が出た。
すると俺を蹴った冒険者とその仲間が笑い出した。チラッと受付の方を見たがエリスの応対をした受付嬢と左隣と右隣りで受付をしていた受付嬢も「フフッ!!」っと噴き出していた。しかし、その後ろに居た受付嬢の殆どは青ざめた顔をしてオロオロとしていた。
「おいおい、誰だ? ギルドに汚らしい魔獣なんかを入れた奴は?」
そう言いながら赤色のモヒカン冒険者が俺腹の辺りを蹴り続ける。
これは、あれだな。絡まれたかもな・・・。
噴き出した三人以外の受付嬢は小声でありながらも手当の準備と報告の準備を始めていた。
流石、と言うべきなのか? オロオロとしていた受付嬢達の対応が随分と速いし連携も出来てる。
これは、試験か何かか? エリスの応対をした受付嬢に対する。それとも、こんなのはよくあることなのか?
まぁそれはどうでも良いとして、いい加減ウザったい。確かエリスが絡まれるって言ってたっけ。
エリスの言葉を思い出しているとさっきとは比べ物にならない程の衝撃が俺の腹辺りに受け、受付のカウンターに思いっきり激突した。
ちょっと痛かったけど、怪我はしていない。ここまでされたらいい加減反撃しても良いよね?足元を凍らせて動きを封じるだけじゃどうもこの怒りは収まりそうに無い。それに、さっきエリスは忠告してたし、大丈夫だよね。この施設をちょっと凍らせるだけだし、先に手を出したのは赤色のモヒカンだし。
『先に攻撃をしてきたのはお前の方だ。当然、反撃される覚悟があってやったんだろ?』
それだけ言うと、魔力を右足に集めた。右足に集めた魔力を維持したまま軽く持ち上げそっと地面に下した。すると、右足を中心に冷気が発生し、そのすぐ後にピキピキと音を立てて地面が凍り、赤モヒカンのところまで到達する同時に一気に冷気がフロア全体に広がり、一瞬にしてフロア全体が凍り付いた。
冒険者達の足はもちろん。身に着けている防具、カウンターの上にある書類や飲み物の入ったジョッキ、依頼ボードに貼ってある依頼書に至るまで、そのすべてが凍り付いた。
一瞬のこと過ぎて冒険者達はもちろん。受付嬢に至るまで誰も声を出せていない。
すると、誰かが階段から降りてくる音だけがフロアに響く。
「こ、これは・・・一体何ごとですか?!」
とついさっき聞いた声がしたかと思うと、俺はエリスに抱きかかえられていた。
「・・・シロさん。これは流石にやり過ぎではないですか?」
『エリスの忠告を無視した奴が悪い。それに、本当はこのギルド丸ごと氷漬けにしようと思ったけどフロアだけにしといた』
「それは・・・まぁ、取り合えず何があったのか説明して貰っても良いですか? 私と彼に」
と言われたので絡まれたことをエリスと総括と呼ばれた男に説明した。
『そういえば総括の名前知らない』
「あ、そういえば紹介していませんでしたね」
「彼は此処のギルドマスターであり、ラーズにあるすべての冒険者ギルドの総括をしています。名を・・・」
「それくらいは私自身が名乗りますよ。そうでなければ流石に失礼です」
そう言うと、緑色の髪と黄緑色の目をし、眼鏡をかけた、身長180センチくらいあるやせ型の男性がエリスの言葉を遮った。
「お初に御目にかかります。先程、エリスさんが言っておりましたが、私はここのギルドマスター兼この街の冒険者ギルドの総括をしております。名をマルセと申します。世界序列はエリスさんの一つ上、第八十九位。二つ名はありません。どうぞよろしく」
「それでは、次は貴方の事を教えていただけますか? 貴方に絡んだ馬鹿者は私が処分しておきますのでそこはご安心ください」
『えっと、此処で? 結構人いるけど?』
「問題ありません。ここに居るほとんどの受付嬢や冒険者は貴方が喋れることくらいとっくに見抜いておりますので」
『あ、そう』
「はい。では、お願いします」
『・・・これ言って良いか分からないけど。大丈夫だよね? エリス?』
「えぇ、大丈夫です。此処に教会関係者や神聖国の人達は居ないので」
『分かった。んじゃ、まず種族から、種族は神獣。世界序列は第三位、名前はシロ』
「えっと、それだけでしょうか?」
『え? 何か不満?』
「いえ、二つ名などのようなものは無いのでしょうか?」
≪創世神、獣神、月の神より二つ名、雪と氷の象徴を与えられました≫
『無い・・・あ、今なんか付けられた』
「へ? 付けられた? まさか、神の声が?」
『うん。まぁ』
「では、さっそく教えていただいても?」
『分かった。二つ名は、雪と氷の象徴って言われた』
「雪と氷の象徴ですか・・・まるで自然そのものですね。どの天使、または神に与えられたのですか?」
『それ、此処で言わないとダメな奴?』
「可能であればこの場でお願いします。先ほども申しましたが、このギルド内に教会関係者や神聖国の関係者は一人もおりませんし、何より先程のような面倒事も回避しやすくなるかと」
『エリス、話ても本当に大丈夫なんだよな?』
エリスはゆっくりと頷いた。
「はい。大丈夫です。私もこのギルドは信頼していますので、秘密が漏れる可能性は極めて低いです」
『俺に雪と氷の象徴って二つ名を与えたのは、月の神と獣神と創世神の三神だ』
すると、さっきまで物音ひとつしなかったギルド内が冒険者や受付の声で一気に騒がしくなった。
「シ、シロさん。創世神って・・・マジですか?」
『ん? あぁ、確かに神の声は創世神って言ってった』
「そ、そうですか」
あ、あれ? なんかエリスが凄い疲れた顔してるんだけど、大丈夫か? それに、総括、マルセって名前だっけ? そいつなんて微動だにしてないんだけど・・・。
『あっと、なんかまずかったか?』
「いいえ、ただ創世神と言う単語が出て来たのがあまりにも驚きで、それに天使ではなく与えたのが神自らとは・・・本当にとんでもないのが貴方に二つ名を与えましたね」
『うん、まぁそれはいいとして、エリスは承知してるから大丈夫だろうけど、えっと・・・マルセだっけ?』
そう言いながら総括の方に目を向けると総括は頷きながら答えた。
「はい、合っています。そして、貴方の言おうとしていることもわかっているつもりです。今からこの施設内に居るすべての者に徹底させます」
それだけ言うとマルセはフロアの真ん中に行き声を張り上げた。
「冒険者全員、神獣に関する一切を外に漏らすことを禁じます。もし、破るようなことがあれば、この街の全冒険者ギルドから除名されるという事を覚悟しなさい!! 無論これはギルド職員にも適用されます。万が一漏らすようなことがあれば、この街の冒険者ギルドで働けなくなると覚悟しなさい!! 宜しいですね? それと、私の推測ではありますが、シロさんはまだ公には知られていない。もしシロさんのことがこの街の教会関係者や領主、貴族に知られるようなことがあれば間違いなくシロさんから真っ先に疑われるのはここに居る我々であるという事です」
「それと、Dランク冒険者パーティー夢幻の光のリーダー、ガルス。知らなかったという事で今回私は目を瞑りますが、次はありませんよ? それと、勘違いしないで頂きたいので言っておきますが、貴方の行為に目を瞑ったのは私であって、シロさんやエリスさんではないという事をお忘れなく」
それだけ言うと、マルセは階段を上がって行った。
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