第三十六話 ラーズの冒険者ギルド
俺とエリスは無事に門を通過することが出来た。
『エリスこの街には結構冒険者ギルドがあるみたいだけど、どのギルドに行くんだ?』
街に入ったのは良いが、どこに行くのかはエリスに教えて貰っていない。
「先程、門で傭兵に言った通り、この街の冒険者ギルドのマスターに会いに行くんですよ。まぁ彼はこの街にあるすべての冒険者ギルドの総括でもありますがね」
『え? 何それ初耳なんだけど?』
「えぇ。言ってませんでしたし、傭兵たちの前で言うつもりもありませんでした。それに、一介の傭兵や冒険者では顔を見ることも出来ません」
『え、それじゃぁエリスは、どうやってその総括に会うつもりでいるんだ?』
「それについては問題ありません。場所は違えど、私もギルドマスターと言う地位に居ます。私の冒険者カードを受付で見せれば、すぐに総括の方に話が行くと思うので、出てくるまで待っていれば良いんです」
「さて、それでは総括がいる場所まで行きましょうか」
『行くのは良いんだけど、どこにあるんだ?』
「この街で二番目に大きい建物です。と言っても私がシロさんを抱っこして行きますので、迷うことはありませんよ」
「あ、それとおそらく受付をしていると絡んで来る馬鹿が居ると思いますが、無視して結構です。あまりにしつこかったら足元を凍らせて身動きできなくさせるくらいは大丈夫ですので、やっちゃってくださいね?」
『わ、わかった。そうならないことを祈るけど』
今一瞬エリスから黒い何かが見えたんだけど、大丈夫か? いや、見なかったことにしよう。その方が良いような気がする。
その後、街中でも特に問題も無く俺はエリスに抱っこされたまま総括がいるというギルドの前まで来た。
「さぁ着きました。此処が総括の居るギルドです」
エリスにそう言われ、下されると、城かと見間違えるほど大きな建物だった。
『で、でかいな。エリスのギルトの倍くらいでかいんじゃないか?』
「そうですね。私が居たギルドとは比べ物にならないくらいの大きさであることは確かです。しかし、それだけではありませんよ?」
『ん? 他に何か凄い物でも?』
「えぇ、一般的には知られていない様なのですが、このギルドの壁、対魔法術式が施されているらしいんです」
『術式って言うのは良く分からないけど、凄い壁って言うのは分かった。って言うかそんなことしゃべって大丈夫なのか?』
「あ・・・ま、まぁ、言っちゃったものはしょうがないですし」
あ、開き直った。それでいいのかエリス・・・。
「さぁ、行きましょう」
『・・・そろそろ下ろして貰いたいんだが?』
「ギルドの受付に行くまで我慢してください」
そう言うとエリスはギルドの扉勢いよくを開けた。すると、外まで聞こえて来ていた声が一切しなくなり静寂が訪れた。それと同時に、視線が一気に俺とエリスの方に向けられた。しかしエリスはそんなこと気にもせず、ズンズンと受付の方に向かっていく。
すると、ヒソヒソ話す声がちらほらとしてきた。
エリスは真っ直ぐ受付まで来ると受付嬢を一瞥した。
「申し訳ないけど、此処の総括に面会させて頂けませんか?」
とエリスはいきなりそんなことを言った。
急なことで受付嬢は目を見開いたが直ぐに表情を戻した。
「申し訳ありませんが、事前に連絡なしでは総括にはお会いになれません。あと、ギルドカードの提示をお願いします」
「あ、そうでしたね。すみません。シロさん、ギルドカードを出したいので下りていただけますか?」
俺は頷くとエリスの腕の中から飛び降りた。
すると、受付嬢は俺をチラッと見るとエリスの方に視線を戻した。
「失礼ですが、この魔獣は貴方の従魔ですか? もしそうなのでしたら、ご一緒に登録書の提示をお願いいたします」
「申し訳ありません。シロさんは従魔ではなく、契約獣でしてそれも此処に来る途中で契約しまして、書類などは無いんですよ」
「あ、そうでしたか。では書類はこちらで用意いたしますので、ご記入頂けますか?」
「えぇ、分かりました。しかし、記入するにあたって此処の総括と話をさせて頂く必要があるのですが、呼んできていただけますか?」
エリスの言葉を聞くと受付嬢は怪訝そうな顔をしながら答えた。
「先程も申し上げましたが、事前に連絡なく人に会えるほど総括は暇ではありません」
エリスはポケットから自分のギルドカードを受付嬢に渡した。
すると受付嬢はさっきよりも大きく目を見開き、「え?」とか「そんな・・・」と言葉を零した。
「しかし、申し訳ありませんが、総括との面会は了承出来ません」
「・・・そうですか」
エリスはそれだけ言うと、ある一か所に向かって威圧を放った。
その威圧を感じ取ったらしい何人かの冒険者は椅子から立ち上がってエリスの方を睨みつけている。
すると、バン!!と勢いよく扉を開いた音がしたかと思うと、今度はものすごい勢いで階段を下りる音したと思ったら、次の瞬間には一人の男が目の前まで来ていた。
「エリスさん!!いきなり私に向けて威圧を放つのはいい加減やめてはいただけませんか?!」
目の前の男はエリスに向けて物凄い剣幕で問いかけた。しかしエリスはそんなことは気にした様子はなく、落ち着いた声で答えた。
「申し訳ないとは、思っています。しかし、こうでもしないと貴方は出てこないじゃないですか」
「っと、そんなことはどうでも良いんです。私が契約しているこの契約獣について貴方に話をして置こうと思ったので呼ばせてもらいました。しかし、出てきてもらって申し訳ないのですが、貴方の部屋でさせて貰っても構いませんか?」
すると男はすこし、考えるように目をつぶってしばらくし、目を開けた。
「わかりました。しかし、貴方が一緒についていなくて大丈夫ですか? その、何か問題を起こしても流石に私でも庇いきれませんよ?」
「それについては大丈夫です。貴方のギルドの方達がシロさんに攻撃や、怒らせなければ何もしませんよ。あ、もし手を出してその人、もしくはこのギルドがどうなってもそれは手を出した人の責任と言う事でおねがいしますね?」
「それではシロさん。少しの間此処で待っていていただけますか?私は総括と話をしてきますので」
そう言うと、エリスは総括と言われた男と一緒に階段を上がって行った。
足音が聞こえなくなるとギルド内の視線が一気に俺に集まった。
・・・どうすれば良いんだ?これ?まぁ、相手が何もしてこなければ俺も何かするつもりはない。
それに、エリスがあんなに釘を刺したんだ、そんな直ぐに絡んで来る奴なんていないだろ。
ようやく五十部目になりました。
更新遅くて申し訳ありません。
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