第三十四話二つの山と魔除けの代わり
あれから三十分ほど川沿いを歩き、今は野営のためにエリスがテントを張っている。
「さぁ、そろそろ完全に日が沈みます。この森は他の森よりも深いので、月の光は届きません。なので、寝てる間に魔獣に周辺を取り囲まれている、なんてこともあり得ます」
『・・・なら、さっきやった結界をもう一回やるか?』
「いえ、流石に二度も結界を使うと貴方の体力と魔力が心配です。私が見張りをするので貴方は休んでください」
『・・・分かった。三時間も眠れば体力と魔力は全快すると思う。月の光があればもうちょっと早く回復すると思うけど』
『あ、三時間経ったら起こしてくれると有難い』
「わかりました。しかし、本当に三時間だけでいいんですか?」
『あぁ』
「・・・どうやら本当に三時間だけで良いみたいですね。魔物でも最低五時間は眠るんですけどね」
『それじゃぁ、寝る。何かあったら起こしてくれ』
それだけ言うと、眠気が急に強くなり、意識が闇へと落ちて行った。
「・・・ロ・・・ん。・・・きて・・・さい」
ん?誰かが呼んでる?もう少しだけ、あと五分だけでいいから寝かせてくれ・・・。
「シロさん。起きてください。三時間経ちましたよ」
その声を聴いて徐々に意識が覚醒する。
「あ、起きましたね」
目を開けると、エリスの顔が目の前にあった。
ビックリして、エリスの顔面に思いっきり頭突きをしてしまった。
「ぐおぉぉぉ!!」とエリスが目に涙を浮かべながら悲鳴を上げているが、どうしたらいいか分からないため取り合えず謝ることにした。
『ご、ごめん。目を開けたらエルスの顔が目の前にあってびっくりして』
「い、いえ。私の方こそすみません。勝手ながら、シロさんをもふもふさせて頂きました」
『あ、うん』
ん?今エリスなんて言った?!
『エ、エリス。今なんて言った?』
「あ、はい。シロさんをモフモフさせて頂きました。最初は軽く触れただけだったんですが、その、触れば触るほどモフモフで、シロさんが目を覚まさなければ私はずっとシロさんをモフモフしていたかもしれません」
うん。それは良く分かる。でもなんで寝てる時なんだ?ノールの時も俺が寝てた時だったし、俺が眠ってる時に一体何が?
『うん。まぁそれは良いとして・・・』
そう、本題はこの後である。
『俺の目の前にある魔獣と魔物の山は何?!』
俺の目の前には、魔獣や魔物の山が二つ。しかも一つの山は半分以上が凍り付いている。
「あ、えっと、その、ですね。シロさんが眠ってからすぐに魔獣や魔物が大量に湧いて来まして、折角なので、シロさんから頂いた剣の試し斬りをと思いまして。気が付いたらこんなことに・・・」
とエリスは何故か照れながら言った。
『照れる要素はないと思うんだけど? で、この半分以上凍り付いたのは何なの?』
「あ、それはですね。最初の方に試し斬りをしてそうなりました。私の戦闘スタイルは刀身に魔力を通し、戦うのですが、剣が初めて触れるものだったこともあり、魔力量を間違えてしまいまして。軽く振っただけで魔獣と魔物が凍り付いてしまいまして、それが半分以上凍り付いている山の方です。後の方はコツをつかんだので凍らせずに倒すことが出来ました」
『・・・うん。倒したのは分かったけど、なんで俺を起こさなかった?』
「この程度なら、私だけでもどうにかなると判断したので起こしませんでした」
『そ、そうか。まぁいいや、じゃぁ交代だな。次は俺が見張りをする番だ』
「えぇ、それではお願いします」
そう言うとエリスは三時間ほど前に建てたテントの中に入って行った。
『さて、この二つの死骸の山をどう処理するか。だな』
『でも、一応結界を・・・』
今回の結界はやったことないけど、前作った結界とやり方は同じはず。
四肢にに力を込め、十秒ほど四肢に自分の魔力を集中させ、一気に力を解放した。
すると、エリスが居るテントを中心に、直径二メートル程の大きな青色の魔法陣が展開され、数秒程輝いた後にゆっくりと地面に消えていった。
お、上手くいった。前回はドーム型だったけど、今回は地面設置型。ドーム型の様に、辺り一帯を覆うものじゃないけど、俺とエリス以外の生物がこの結界内に入ればおそらく一瞬で凍り付く。
それにしても、俺が寝てた間にこれだけの魔物や魔獣が出て来てたとは、正直びっくりだな。この森に入ってからここに来るまでに俺が出会ったのは・・・血濡れ熊と森の主と神聖国とか言う国の騎士だけ。
なのに、俺が眠っただけで一気にこんな数の魔獣や魔物が・・・。エリスだって世界序列の九十位に入ってる。にもかかわらず、この森の魔獣や魔物はエリスの前に姿を現した。それに、どうも先刻から妙な匂いと気配がする。まるで俺がエリスから離れるのを待っている様な、そんな感じがする。
結界だけじゃ不安だし、魔除けの代わりとして武器を一つ、テントの前にさしておくか。さて、どんな武器にするか、剣、弓、槍、杖・・・結構あるな、どれが良いか。
『アイスクリエイト』
そう呟くと空中に巨大な氷柱が出現し、徐々に一本の竜槍に形を成し、テントの前に深々と突き刺さった。刺さった瞬間に先程設置した結界に雪が降り始めた。
『うん。想像してたのとはちょっと違うけど、これで魔除け程度にはなってくれると助かる』
『にしてもまさか雪が降るとは・・・』
魔獣が来なければ良し、来たら俺が練習がてら如何にかすれば良いか。
こうして夜がどんどんと更けていく。
しばらくして空を見上げると、少し明るくなっていた。もう少しで夜が明ける。
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