第三十三話神聖国の騎士
目を見開いたまま固まっているエリスに俺は声を掛けた。
『エリス?あの人?を知ってるのか?』
「・・・知ってるなんてものではありませんよ」
俺の問い掛けにエリスは最初は驚いて固まっていたが、すぐに険しい顔になり、青一色の鎧に身を包んだ人?の方を見ながら答えた。
「シロさんはご存知ないようですので今この場で言っておきます。私達の目の前に居るのは神聖国に仕える騎士の一人です。しかも、ただの騎士ではありません」
『え?それってどういう事?』
「私達の目の前にいる騎士は神聖国国王直属の騎士団の一人と言う事です。そうですよね?神聖国国王直属騎士団。聖光騎士、騎士序列第三十位、青の騎士殿?」
すると今まで膝をつき黙っていた騎士が口を開いた。
「世界序列第九十位の貴女に殿を付けられるなど、恐れ多いですよ。七色の魔法剣士殿、まさか貴女ほどの人が気を失うなど、何があったのですか?」
「私が、貴女に教えるとでも思いますか?」
とエリスが鋭い視線を青の騎士に向けたまま問い返す。
青の騎士は少し考える素振りを見せた。
「・・・そうですか。では貴方の連れている犬にでも聞くとしましょう」
青の騎士がそう言いながら、俺の方に視線を向けてきた。
「アナタ、七色の魔法剣士殿の従魔なのでしょう?でしたら、答えていただけますか?アナタの主に何があったのかを」
・・・いつから俺はエリスの従魔になったんだ?いや、今はどうでも良いか。それよりもこの青の騎士ととか言ったっけ?、めっちゃ胡散臭い。
「おや、無視ですか?それとも、言葉を理解していないのですか?」
さて、どうしたらいいのやら。ちらっとエリスの方を見ると、エリスは少し考え、諦めた様にゆっくりと頷いた。
あ、これ話すしかないか。面倒事は本当に勘弁してほしい。
『いいや、言葉は理解してるし喋れるから問題ない』
「これは、驚きましたね。まさか神獣様以外で人の言葉を完全に話すことが出来る獣がいるとは!!」
『で、なんでエリスが気絶したのかだったっけ?』
「えぇ、そうです。何故七色の魔法剣士殿程のお方が気絶したのかを聞きたいのです」
『・・・答えるのはいいけど、先に訂正させてくれ、俺はエリスの従魔じゃない。仮契約はしてるけど、正式に契約してるのはまた別の人間だ』
「そ、そうでしたか。七色の魔法剣士殿ですら仮契約とは、貴方は一体何者なのでしょうか?」
『それは後回しでも良いか?先にエリスが気絶した理由を話す』
「すみません。私から聞いたというのに。では、お願いします」
『エリスが気絶したのはこの森の主と戦って吹っ飛ばされた時に頭を強く打ったことが原因。それだけだ』
「そうでしたか。ありがとうございます。と言う事は、この森の主は間違いなく序列入りしていますね。しかも、七色の魔法剣士殿よりも順位が上ですね。では、次は貴方についてです。答えていただけますね?」
『拒否権は?』
「答えなくても構いませんが、その場合は仕方ありません。貴方を捕縛して、神聖国に連れて行かせてもらいます。抵抗しても構いませんが、こう言見えても私も世界序列には入っていますので」
『・・・エリス、お願いしても良いか?』
「わかりました」
エリスが返事をすると俺の前に出て来た。
「では、シロさんの事は私が代わりにアナタに説明します。が、その前にその兜を取ってはいただけませんかね?声がこもっていて聞き取りずらいのと女性か男性かも分からないので」
「・・・それもそうですね」
青の騎士はそれだけ言うと兜を外した。
兜の下の素顔は、青い瞳に水色の長い髪。その髪を後ろで一つに結び、唇には淡い赤色の紅をした女性だった。
「・・・貴女、女性だったんですね」
「えぇ、意外でしたか?まぁ、そうですよね。他の騎士団員は素顔を晒していますしね」
「では、何故貴方は兜で顔を隠しているのですか?」
「その質問に答える前に私のした問に答えていただけますか?七色の魔法剣士殿」
「・・・分かりました。ではまず何からお答えしましょうか?」
「そうですね。では、種族名をお願いします」
「・・・分かりました。ですがこれだけは言っておきます。シロさんは今行方不明になった契約者を探しています。絶対に、邪魔はしないでいただけますか?」
「わかりました。騎士の名に懸けて誓いましょう」
「ありがとうございます。では、シロさんの種族は、神獣です」
「え?は?神獣?」
青の騎士は目を見開いてそんな言葉をブツブツと言っている。
「えぇ、神獣です。しかも、この世界に今、公で確認されている神獣は龍神、神虎、この二匹だけです。ですが、最近になってシロさんが契約者と一緒に私がマスターを務めているギルドに来ました。私も最初に会った時は腰を抜かしそうになりましたが何とか耐えれて良かったです。あ、因みに貴女程度の実力ではシロさんを抑えることなんて絶対に出来ませんよ?私でも抑え込めて五秒ほどが限界でしょうから」
「・・・七色の魔法剣士殿にそこまで言わせますか。と言う事は、神獣様の序列順位はかなり上位ということですね?」
「えぇ、シロさんは世界序列第三位です。この意味、同じ序列入りしている貴女ならわかりますよね?」
「!!上位だとは思っていましたが、まさか一桁の中に入っていたとは、確かに、私ではどうしようも出来ませんね」
「ですがこれはとても貴重な情報ですね。まさか神獣様が二位、三位、四位と連続で入っているとは」
「では、正式に名乗りましょう。世界序列第九十五位、神聖国、国王直属騎士団所属、聖光騎士。騎士序列第三十位。青の騎士、フレディカと申します。以後、お見知りおき下さい。そして、先ほどの貴方様に対する無礼を何卒お許しください」
と言うと彼女は再び地面に片膝をつき、頭を下げた。
「それでは、貴方も正式に名乗ってはいただけませんか?可能であれば神獣の個体名もお願いします」
『・・・エリス、これって答えないとダメなやつ?』
「はい、青の騎士殿が世界序列ばかりか自身の名まで明かしたのです。答えなければ相手に失礼です」
『・・・分かったけど、契約者の名前は勘弁して貰いたいんだけど』
「それは大丈夫です。序列九十五位の私には契約者殿の名は聞こえませんので」
『了解。世界序列第三位。神獣種、神狼。名前はシロだ』
「答えて頂き、感謝します。それでは私はこれで失礼します」
そう言うと青の騎士は一瞬で目の前から消えてしまった。
『・・・エリス、神聖国?の騎士が何の用でここに来たんだ?』
「さぁ、私にもわかりません。が、今のところは敵対の意思はないようです」
「シロさんの結界のお陰で体力は森に入る前とほとんど同じくらいには回復できました。さぁ、もう少しだけ進みましょう。もう少しで日没です。少しでも次の街であるラーズに少しでも近づきたいので」
『分かった』
それから三十分くらい川を上流に向かって歩いた。