第三十話氷で出来た剣
呆気に取られている俺の前に大きな魔獣が現れた。影に入っているせいで姿ははっきりと捉えることは出来ないがそのシルエットからかなりの大きさであると言う事がわかる。
「GAaaa!!」
という咆哮と共に来た道を戻って行った。
・・・何だったんだ?今のあり得ないくらいでっかい魔獣と先刻の殺気は?
『あ、そういえばエリスが吹っ飛ばされてたじゃん!!早く探さないと!!」
下位と言っても序列に入っていると言ってたエリスがあんなに吹っ飛ばされるだけじゃなくて剣が、しかも二本とも真っ二つに折られてたなんて普通の魔獣や魔物じゃ出来ないはず・・・。
そう考えながらもエリスが吹き飛ばされて行った方向に目線を向けると、木が数十本折れた先にエリスを視認し、怪我をしてないかを確認するために近づいて行った。
『大丈夫か?』
声を掛けるが反応が無い。でも、呼吸はしてるし生きてはいる。幸いなことに大きな怪我は確認できない。
結構な勢いで吹き飛ばされて剣が二本も駄目になったのに殆ど怪我が無いって凄いな・・・。感心していると急にエリスが目を開けた。
「はッ!!すみません。まさか吹き飛ばされて気を失うだなんて」
『吹っ飛ばされたのに随分と目覚めるの早いな』
「えぇ、咄嗟に衝撃を逃がしたのですが全て逃がすことは出来なかったようで吹き飛ばされてる途中に意識を失ってしまった次第です」
『うん、まぁ、大きな怪我が無いみたいで良かった』
「はい。それはそうと私を吹き飛ばした魔獣はどうしましたか?」
『あぁ、その魔獣なら俺に威嚇だけしてどっかに行った』
「そうですか。多分あの魔獣もシロさんとの圧倒的な差を本能的に感じ取って引き返して行ったのかもしれませんね。それはそうと、何故血濡れ熊が全て気を失ているんですか?」
『あぁ、そのことなんだけど』
俺は先刻起ったことと殺気について話した。
「成程、殺気を感じて視線を向けたら匂いも何もなかったと・・・奇妙ですね。フォレストウルフの討伐に行って頂いた森も含めて」
「まぁ、あの森にはシロさんの加護があるフォレストウルフが居るので問題は無いとは思いますが、この深緑の森の生態は完全には解明されていないのが事実です。何があっても不思議ではありませんが、シロさんを一瞬でも委縮させてしまうほどの殺気を放つ存在が居るのはかなり不味いですね」
『・・・それよりも、剣が二本ともダメになっていたように見えたんだけど、大丈夫なのか?』
するとエリスは眼を瞑り
「いえ、大丈夫ではありませんね。先程の魔獣、木に隠れながら攻撃をして来た為、はっきりとは確認できませんでしたが、間違いなく序列入りしています。しかも、私よりも順位は上だと思います」
「しかし、それよりも問題はこれでは私は魔獣が来ても牽制程度魔法しか使えません」
・・・あれだけの魔法使えて牽制程度って、この森の魔獣や魔物はどうなってんだよ!!
『剣があればいいんだよな?』
「え?えぇ、剣があればまともには戦えますが、この森には剣はおろか金属すらありませんよ?」
『氷の剣で良ければ、作れるかもしれない』
「え?えぇぇぇぇぇぇ?!」
エリスの絶叫が森に木霊した。
『・・・えっと、落ち着いたか?』
「は・・・ハイ。大丈夫です」
とエリスは真っ赤な顔で答えた。
『まぁ、兎に角剣を作るからエリスが使ってた細い剣の方でいいから持ってきてくれる?』
「あ、はい。それならここにあります」
そう言いながらエリスは剣先が半分無くなった細い剣を俺の前に置いた。
『剣は目の前にある剣を元にして作っていいんだよな?』
「えぇ、お願いします」
その返事を聞き、俺は折れるまでの剣を思い出しながら創り出した氷の塊から同じ様な剣を削りだすようなイメージをしながら三十分くらい時間をかけて殆ど同じ剣を創り出した。
勿論、その間はエリスにしっかり周囲の警戒をして貰った。
『こんな感じで大丈夫か?』
そう言いエリスに完成した剣を渡す。
エリスは剣を受け取ると刀身を見るために鞘から引き抜いた。
「この剣は・・・」
エリスはそう一言だけ言うと黙ってしまった。
あれ?なんかまずかった?