第二十八話逃げてきた血濡れ熊
「襲ってこない個体は無視して構いません。その個体は私達に敵対する意思はない個体なので。問題は襲ってくる個体です。先ほども言いましたが、血濡れ熊は比較的大人しい魔獣です。こちらから攻撃しなければ襲ってくることは殆どありません。さらに、今回はあちら側からこちらに向かって来ています。私も極力戦闘は避けていきたいですね。無駄に体力を使いたくないですし」
そう言うとギルマス・・・エリスは左腰に差していた剣を鞘から抜き構えた。
「この剣は練習用ですが、血濡れ熊との戦闘くらいなら、耐久値は十分だと思います」
「・・・いえ、やはり油断はしない方が良いですね。やはりいつも使っている剣に変えましょう」
するとエリスは練習用と言っていた剣を鞘に収め、今度は右腰にある剣を鞘から引き抜き再び構えた。さっきの練習用と言っていた剣と違って随分と刀身が細かった。
『随分刀身が細いけど、それで大丈夫か?」
「えぇ、私の本来の戦闘スタイルは斬ることではなく突き攻撃が主体です。なので先ほどの剣でも戦えないことは無いですが、どうしてもスピードが落ちてしまうのです」
「さて、話はここまでです。血濡れ熊が五メートル手前まで来ています。一応こちらからの先制攻撃は控えて下さい」
『妙だな。まるで何かから逃げてるような目をしてる』
「やはり、シロさんもそうですか。何故此処に来ているかはわかりませんが、目的は何となくですが予想できました」
『その予想は?』
「はい。おそらくですが、本能的に貴方に助けを求めているのではないでしょうか?」
『マジで?』
「えぇ、マジです。そうでなければわざわざ人前に出てくることはありませんよ」
話をしているうちに血濡れ熊の一匹が俺とエリスに近づいて来たかと思うと体を擦り寄せてきた。
『えっと、どういう事?』
「間違いないですね。貴方に助けを求めています。いえ、正確に私達ですね」
『なんでそう思うんだ?』
「貴方の側に居る血濡れ熊、間違いなく群れのリーダ格です。それがわざわざ危険を冒してまで前に出てただけでなく、貴方に体を擦り寄せた。血濡れ熊の習性で助けを求めている場合は体を擦れり寄せてくるらしいです。実際に見たのは私も初めてですが」
「さて、これで血濡れ熊に敵意がないと言う事がわかりました。しかし、一体何から逃げて来たのかが分からないままですね。シロさん、何か気配や匂いはしますか?」
『分からない。匂いは血濡れ熊の匂いしかしない。気配も同じだな』
「そう、ですか。一つ目の面倒事は去ったようですね」
『ん?それはどういうことだ?』
「実は、この森、新緑の森に入った時点でいくつかの不穏な気配を感じたんです。その一つが今ここにいる血濡れ熊だったんです。しかし、現在は一応大丈夫ですが、警戒は解かない方が良いですね」
「シロさん、私がこの森に入る前に世界序列入りしている魔獣が居ると説明しましたよね?」
『あぁ、もちろん覚えてる。でもその容姿は分からないんだろ?』
「えぇ、残念ながら私は知りません。ですが、その魔獣以外にもう一つ、膨大な力を持った魔獣の気配を感じることが出来ました。今現在も感じています」
『それをどうしろと?』
「いえ、わざわざ危険に飛び込むつもりは毛頭ありません。しかし、今まで無かったことなんです。この森に序列上位が入ること事態が」
『つまり、一刻も早くこの森から出た方が良いと?』
「えぇ、そうです。しかし・・・」
『そう簡単には出れないと?』
「はい、それに、どちらかは分かりませんが、かなり強力な力を持った魔獣がこちらに向かって来ています。おそらく血濡れ熊はその魔獣から逃げてきたのかと」
「そうでなければ血濡れ熊がこんな場所まで出てくるわけがありません。ましてや助けを求めるなんてことも」
『一応はここで待機して向かって来てる魔獣の確認と戦闘になった場合は仕方無しってことでいいか?』
「えぇ、なるべく避けたいですが、相手が先に手を出してきたらそれもやむなしです」
俺はノールを探したいだけなのに・・・どうしてこうなった?
ブックマークが30件を超えました。ありがとうございます。
不定期更新ですが頑張って更新していきます。
また、誤字脱字等がありましたら教えて下さると有難いです。