第三話 泉と見たこともない白い獣
俺、白神黒斗ことシロは森の中を走り回っていた。
『やばい!!流石にそろそろ見つけたいけど全然見当たらない!!』
何をって?……そりゃもちろん飲み水を!!辛うじて口周りを濯ぐだけの水はあったけど飲み水とするには圧倒的に量が少なかった。
かれこれ三時間は探してるのに全然見つからない!!こんだけ森が広がってるのに沢どころか池一つないとかこの森の生態系は大丈夫なのか?と心配になってくるレベルだ。
ガサッ!!
不意に木々がこすれるような音を耳が拾い、音がした方向を見る。生き物の微かな呼吸音を聞き取ることが出来た
『誰かそこに居のか?』
希望半分で問いかけるが返答は無し。代わりに微かながら水の流れる音が聞こえた。
音のした方に進んでいくと、清水なのか透明な水がコポコポと湧き出していた。
『やっと…ようやく見つけた……マジで長かった!』
「しかし……飲めるのか?この水は?」
そっと水面に前足を近づけると一瞬にして水面が凍ってしまった。かなり焦ったが幸いなことに水面に軽く氷が張るくらいだった。
って言うか……今の冷気か?しかもさっき水面で顔を確認出来たけどシベリアンハスキー……と言うか狼の方が近かった。
……狼で冷気…ゲームとかだとフェンリルか?……まぁ北欧神話とか良く分からないしスルーで良いか。
しかし、冷気を操る狼……貴族とかいるのか分からないけど……もし仮に居たとしたら絶対ろくな目に合わない気がする。
と、言うかこの氷どうやって溶かすんだ!?誰か教えて~!!
ガサッガサッ!
『誰かいるのか!?』
声を上げるが一切の返答はない。
「………」
でも先刻から視線だけは感じているので気のせいと言う事は無かった。
あれ……そう言えば俺って今狼……ただ狼が吠えてるだけにしか聞こえないじゃん!!……やってしまった。折角人に会えるかと思ったのに、こんな事すら忘れてたなんて……。
『……よし、匂いでも辿ってみるか。運が良ければ人間の住んでる村くらいはあるだろうし』
◇◇◇
◇◇◇
匂いを辿っていると、動物の匂いに混じって何かが焼けるような匂いがして来たおそらく集落が近くにあるのだろう。しかし……どうも嫌な感じがする。
『何か……面倒事の予感がピンピンする』
その瞬間、フラグが立ったのだった。
◇◇◇
◇◇◇
「はぁっ!!……はぁっ!!……はぁっ!!」
一人の少年は息を切らしながら森の中を全速力で走っている。
「何なんだ……あのでっかい獣は!!」
「あんなの見たことが無い!」
「なんとしても村の皆に外見だけ伝えないと!!」
「あの白い獣は…絶対に危険だ!」
「あんな真っ白な生き物、今まで見たことが無い」
走って走ってようやく村の入口が見えてきた。
「はぁ……はぁ……はぁ……やっと、はぁっ……やっと着いた」
村の門のに着くと門番の二人が声を掛けてくる。
「おいおい、どうしたんだ? そんなに慌てて」
「トイレでも我慢してんじゃねぇのか?」
少年は焦りながら声を上げる。
「村長を呼んで!!見たこともない獣がこの森に出たんだよ!」
「アハハハ、嘘だったらもっとましな嘘をつけ」
門兵は笑うだけで取り合おうとはしない。
やっぱり……ボクみたいな子供の言葉なんて信じてくれない。
不意に体全身に寒気が襲う。
「さ……寒ッ!!」
思わず声に出してしまったけど、一体何が起こった?吐く息は白く。まるで……冬になったみたいだ。
でも、季節はまだ夏。いや、真夏のはず…なのに寒い。こんなの、絶対におかしい!!
さっきの獣と言い今のこの状況と言い。あの森で何が起こってるんだ!?