第十話 伝説上の存在?
「な…何が起きた!!」
そんな叫ぶような声が聞こえた。
「さ……寒っ!!」
「何が起きたの!?」
「私達は……夢でも見ているのでしょうか?」
あ……やっぱりそっちに少し冷気が行っちゃったか。
弓を持った男が寒さに震えながら言う。
「もし、僕達があのままあそこに居たら今頃魔物と同じになってましたね」
『もうそろそろ完全に日が落ちて真っ暗になるぞ?』
「困りましたね。私達は野営のセットを持っていますが……」
『この子供なら俺がどうにかするからお前達は自分の寝床の準備をすればいい』
『聞きたいことは山ほどあると思うけど、この子供が目を覚ましてからにしてくれ』
そう伝えると、五人組は俺達の方を気にしながら野営の準備をし始めた。
それはそうと、どうするか……この凍ったままの魔物の塊……。そう言えば魔物の襲撃で忘れかけてたけどまだ名前教えて貰ってなかったな。でも、折角寝てるのにわざわざ起こすのもあれだし……・起きたら聞いてみるか。
と、言うかさっきから妙な視線が向けられてる気がする。
「な……なぁ」
唐突に剣士の男が話しかけてきた。
『何だ?』
「ずっと気になってたんだが、その子供はどうしたんだ?」
『………』
「あ、嫌なら答えなくても良いぞ?」
やっぱり気になるよな・・・こんな森の中に十歳くらいの子供が居たら。
『他の人間には話さないと約束できるか?』
「あぁ、約束しよう。ただし、上の人間に報告しないといけない場合があるからそれは勘弁してくれ」
俺はこくりと頷き、自分が知っている限りの村で起こった事を話した。
「はぁ!?伯爵!?」
「貴族が絡んでるのも驚きだが何でそんな上級貴族が!?」
『それは俺が聞きたいくらいだな』
俺と剣士の男が話していると聖職者風の女が急に話題を変えてきた。
「そんな暗い話はやめにしましょう。……それにしても珍しいですね、白い獣がいるなんて!!文献では確認しましたが、実際この目で見るのは初めてです!!」
「と言ってもかなり昔の文献らしくて実在するかどうかも怪しかったですが……」
聖職者風の女の目が急に細くなった。
「まぁ、文献に乗っていたのは真っ白な猫と龍でしたけど……貴方はそのどちらでもありませんね。実に興味深いです」
「お聞きしますが貴方は種族的には犬……なのでしょうか?」
『犬っちゃ犬科だけどどっちかって言うと狼の方がしっくりくるな』
『今は子犬サイズになってるけど、本来はあの魔物よりももう一回りくらい大きい』
「あの魔物って結構大きいですよね?」
『……そうだな』
「狼種ですか……だとしたら新発見ですよ!?」
「今まで狼種で真っ白な個体は発見された例は上がっていません!!」
『成程、物珍しいってことは分かった』
「珍しいで片付けられることではないのですが……」
「まぁ、今はそんな事どうでも良いだろ?」
「結果的には俺達はこの真っ白い狼?に助けられたようなもんなんだから」
「それはそうなのですが……何か引っかかるんですよ……」
「あの氷と言いその真っ白な身体。少し、待っていて頂けますか?」
「もう少しで何か思い出せそうなんですよ!!」
うんうんと唸っている聖職者風の女を見ていると「あれは放置しても大丈夫だ」と剣士の男が言う。
『お…おう。分かった』
剣士の男から圧の様な物を感じ了承してしまった。
「話を変えるが、お前は何者なんだ?」
あ、うん。そんな感じはしてたけどやっぱり気になるか。
さて、どう答えようか……下手に応えて面倒な事態になるのは避けたいし……・
『……はっきり言うと俺自身良く分かってない。でも、この子供やあの村の長老は俺のことを神狼って呼んでたな」
「えぇ!!」
『「!!」』
ビックリした!!何だ!?今までうんうん唸っていたのに。
「何だよ!!びっくりしたな、急に大声出すんじゃねぇよ!!」
「し、失礼しました。ですが、大声にだってなりますよ!!だって、神狼ですよ!?」
「あの伝説のお話にある神に造られし獣の一匹ですよ!?神獣ですよ!?」
「お話の中ではフェンリルと呼ばれている伝説上の生き物ですよ!?」
「それに、ギルドが定めているランクでは測る事は不可能とまで言われているんですよ!?」
「そんな存在が……私達の目の前に居るんです!!」
「……まじか」
「えぇ!!マジです!!」
うへぇ……何か大事になったんだけど!?
俺のせい?俺が原因なの!?予想はしてたけどやっぱりフェンリルなのかぁ。
『何ぁ…色々と不味い感じか?』
「ハハハ!!そりゃ魔物程度じゃどうしようもない訳だな!!」
あれ?何か勝手に納得されたんだけど!?こちとら何一つ理解できてないんだが!?まずそのお話ってのを誰か説明してくれ!!!
「なぁ、もしよかったら俺達と一緒に来るか?」
俺が一人で困惑していると剣士の男が声を掛けて来た。
『悪いが俺一人で決める訳には行かない』
「何故です?」
「この子なら私達が責任を持って保護しますので!!」
『俺はその子供は俺と契約している』
「「えぇっ!!」」
「け、契約って!!……本当ですか!?」
「し。神獣と契約だなんて…!!」
『まぁ、契約と言っても俺から一方的にやったようなもんだけどな』
『だから、契約者であるその子供を持っていかれるのは俺としては困る』
「わ……分かりました」
「その子が起きたらキッチリとその子に分かるように説明をお願いします」
「目の前に面識のない私達では余計な警戒をさせてしまうかもしれませんので」
『あぁ、わかった』
「事情説明が終わった呼んでくださいね?私達はそれまで目の届かないところから見守っていますので。ついでに周囲の警戒もしておきます」
そう言うといそいそと離れて行った。
合って間もないのに随分と面倒見が良いんだな。