漫才:もう死んでもいい
二人「はい、どうも〜」
ボケ「突然だけどさ。お前、【これが出来たらもう死んでもいい】って思えることある?」
ツッコミ「何だよいきなり」
ボケ「例えば【お腹いっぱいお肉たべられるんなら、俺もう死んでもいい!】みたいな」
ツッコミ「あぁ、なるほど。【死ぬまでに、出来ればやってみたいこと】ね」
ボケ「そう。【死んでもいい!】って思えるほど強い望みを持ってれば、生きるのも楽しいと思うんだよね〜」
ツッコミ「うんうん」
ボケ「じゃあ俺が今から【死んでもいい】って思えそうなこと挙げて行くから、見つかったらお前死ぬことな」
ツッコミ「何でだよ! 何で俺、漫才中に死ななきゃいけないんだよ!? ペナルティが重すぎるわ」
ボケ「でも、【死んでもいい】って思えるほどのことなら、死ねないとおかしいだろ?」
ツッコミ「オイ、大丈夫か。こんな暗いお題で…」
ボケ「とりあえずやってみようぜ。万が一良いのが見つかったら、お前死ぬかもしれねェんだから」
ツッコミ「誰が死ぬか。分かった、とりあえず挙げてみてくれ」
ボケ「じゃあまずは…【この世に生まれてくる】」
ツッコミ「ちょっと待てよ」
ボケ「何だよ?」
ツッコミ「【この世に生まれてくる】って、ファーストイベントじゃねえか。何で生まれてきた瞬間、死ななきゃならねェんだよ」
ボケ「だってお前、【この世に生まれてくる】って大分奇跡だよ? 【死んでもいい】ってくらい強い気持ちないと、きっと叶わないよ?」
ツッコミ「生まれてくるんだか死んで行くんだか、分かりにくいわ。初っ端からヘヴィすぎるよ。もうちょっと軽めの奴にしてくれ。俺、もうちょっと生きたい」
ボケ「もうちょっと生きたい?」
ツッコミ「うん」
ボケ「分かった…じゃあ、【小学校に入学する】」
ツッコミ「【小学校】ってアンタ…」
ボケ「【小学校に入学して、生涯の親友を得る】」
ツッコミ「あぁ〜!!」
ボケ「な?」
ツッコミ「そうだな…幼馴染っていうのは、確かに重要かもな! その後の人生を、左右しかねない」
ボケ「【死んでもいい】って思えた?」
ツッコミ「う〜ん! 死ぬほどかって言われると…」
ボケ「…でもお前は、まだ死んでない。ということはお前は、【これから一生誰とも仲良くなれない】ことな」
ツッコミ「何でだよ!?」
ボケ「だって本当に友達が欲しかったら、この場面で【死んでもいい】って思ってるはずだよ?」
ツッコミ「重たいんだって、だから。大体、死んだら友達とも遊べないだろ」
ボケ「そうしてお前は誰とも友達になれないまま…【中学校に入学する】」
ツッコミ「まだ続くんだ。【中学校】ゥ!?」
ボケ「【中学校に入学して、初めて彼女ができる】」
ツッコミ「う…うわぁぁあッ!?」
ボケ「な?」
ツッコミ「ちょっと待って!? 彼女!?」
ボケ「【彼女ができるんなら、死んでもいい】って思った?」
ツッコミ「待って! 少し考え…」
ボケ「…そうか。それでもお前はまだ、死ねないんだよな。ということはお前は、【これから一生彼女ができない】ことな」
ツッコミ「だから何でだよ!? 何でそんな重い枷を、一生背負わなきゃならないんだよ!?」
ボケ「お前が中学校の時、【死んでもいい】って強い気持ちで、彼女を作りに行かなかったからだよ! そうしてお前は、一生彼女もできないまま…」
ツッコミ「オイオイ。友達もできない、彼女もできない…俺の人生悲惨すぎんだろ」
ボケ「【高校に入学する】」
ツッコミ「せめて高校生活くらいは…!」
ボケ「【高校生になって、『漫才師になりたい』と初めての夢を持つ】」
ツッコミ「それはダメだ!」
ボケ「どうする? そろそろ死ぬ?」
ツッコミ「死ねない! 日本一の漫才師になるまでは、死ねない!」
ボケ「…しょうがないな。じゃあお前は一生、【夢を持てない】ことな」
ツッコミ「だから何なんだよさっきから! お前のその、謎のルールは!」
ボケ「やかましいわァッ!!」
ツッコミ「痛ェッ!? …何で殴られたの俺!?」
ボケ「さっきからウジウジしやがってよ…! 【夢が叶うんだったら死んでもいい】って…俺が聞きたいのはその一言なんだよ!!」
ツッコミ「うるせェんだよ!! 友達も、彼女も、夢も奪われて…このままで俺死ねるかァ!」
ボケ「でもアレだな…」
ツッコミ「オイ。急にどうした」
ボケ「こうやって改めて考えて見ると…お前の人生って、結構悪くないことばっかりだな」
ツッコミ「…お前と出会ったの、大学ン時だろうが。お前が俺の何を知ってるんだ」
ボケ「結局…ハハッ。お前がこうして生きてっから…俺はお前と、漫才ができるんだなァ、って」
ツッコミ「死ねよ」
ボケ「死なねェよ。死ぬくらいなら、俺、お前との漫才を選ぶわ」
ツッコミ「…もういいよ」
二人「どうも、ありがとうございました〜」