6日目、そして終わり
「これで一安心か」
次の日、つまり六日目。私は朝一で――会社を休んでまで――携帯ショップにいって、携帯を買い替えた。そう、これがネットの住民に教えてもらった、この現象に対する唯一の解決方法だったのだ。私は藁にも縋る思いでそれを実行した。半信半疑なのは今も変わらないが、この時、私の心は確かに晴天の空のような晴れやかさが広がっていた。腕時計を確かめると、午前十一時。今からでも会社に行ける時間だが、その足取りは重い。身体が思ったように動かないのだ。まるで、その足に鉄球のついた枷を付けられて歩かされているようだった。どうしてこんなことになっているのか。理由は明白だ。
三日だ。三日も真面に寝ることができていない。一刻でも早く、一瞬でも早く、家のベッドで眠りに就きたい。私は軋む体に鞭を打ち、自宅に歩を進める。
やっと自宅にたどり着いた私は震える手でドアを開けると、一直線にベッドへと向かい、寝転がる。そしてそのまま、私は意識を手放した。
どれくらいの時間が経ったのだろう。目が覚めると部屋には夜の帳が降りていた。私は自室の電灯をつけようと、周りを見渡す。ライト代わりのスマホを探してみると、枕もとでてかてかと光っていた。
何かの通知でも来ているのだろうか。私は画面を光らせるスマホを手に取った。
終わり
終わり
終わり
終わり
終わり
終わり
終わり
終わり
終わり
終わり
私は声にならない悲鳴を上げた。手元から滑り落ちたスマホは、枕で一度跳ねるとそのままベッドに転がる。止まらない通知音とバイブレーションはまるで死の宣告。頭の中に直接響く音が、私の視界を、ぐにゃりと曲げる。渦を巻くように歪んでいく視界に吐き気を覚え、思わず蹲ってしまう。早く、早く逃げなければいけないのに。
思い通りに動かない手をあてもなく彷徨わせる。その手に触れる固い長方形の物。それが何か見なくても分かる。私は慌てて、全ての元凶を手放そうとした。そう、確かに私はスマホから手を放したはずだったのだ。
だが、スマホは手元に残っている。焦点の定まらない瞳が捉えたのは、画面から伸びる――画面の光に照らされた――白い手。気持ち悪いほどに白い手だ。その手が私の手首をがっちりと掴んでいる。何が起きたか理解をする前に、画面から白い手たちが腐った肉に群がる蛆のように這いずりだし、私の腕に絡みつく。蛇のように絡みついたそれを振り払う力さえ、今の私にはない。その手たちは無尽蔵に出てくると、私の腕だけでなく、足、腹、胸、あらゆる場所に巻き付く。徐々に締め上げられる身体を身動ぎさせるが、抵抗にすらならなかった。最後に、顔を覆う手が。手たちが。手が。手が。手がががががが。手。手。手てててててててててて。
「ところで、あれって本当だったのか?」
とある掲示板サイトのオカルト板、彼が希望の光を見出した会話に新しい書き込みがされる。その書き込みは、彼が試した解決方法へ質問しているようだった。
「あんなの、釣りに決まっているじゃん」
「ひでぇwwwwww」
「向こうが釣ってきたんだし、こっちが釣ったってわかってるでしょ」
今日もどこかで、嘘と真が入り混じったネットの書き込みが流れていく。さてさて、次の犠牲者は誰なのか。
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