4日目
四日目、私は休日を利用して近所の神社を訪ねた。
眠れはしなかったが、一周回って冷静を取り戻した私はこういったものはその道のプロに聞くべしということを閃いたのだ。本当は、それこそもっと有名な除霊専門の神社や霊媒師と連絡と取るべきなのだろうが、こんな逼迫した状況でスケジュール調整する暇などない。小さな神社とはいえ、神主はいる。あわよくば神主独自のコミュニティでいい人を紹介してくれるとか、そんな淡い期待を腹に抱えながら一歩ずつ石の階段を上がっていく。
最後の一段を踏みしめて、私は顔を上げた。
眼前に広がるは三方を木々に囲まれたイメージ通りの神社。石段の階段から本殿を繋ぐ石畳の道には新緑の落ち葉がステップを踏むように舞っている。左を見ると売店が併設された社務所がこぢんまりと建っていた。右手には、手前に大人一人で占領できそうなほど小さいお手洗い場、そして奥にはご神木だろうしめ縄の巻かれた樹齢百年は越えているだろう大木がひざ丈の柵に囲まれて鎮座している。
相談をする前にまずは神頼みだ。もしかしたら、神様が奇跡を起こしてくれるかもしない。いかにも都合のいい考え方だが、人間なんて大概がそんなものだ。
私は鳥居をくぐると境内に足を踏み入れる。石畳をコツコツと鳴らしながら歩きながら本殿の前まで行くと、十円玉を入れて手を合わせる。
「解決しますように。解決しますように。解決しますように。よし、これぐらいで大丈夫だろう」
神様へのお参りを済ませると私は本殿の前を横切って社務所へ。
社務所は窓口が板で仕切られていて、御御籤箱だけがぽつんと置かれていた。なんだ、いないのか。いや、いないと困るんだが。
私は社務所の戸口に数回ノックをする。返事はない。
私はもう一度――先ほどよりも強めに――ノックをする。今度は返事がないが、ドタドタと五月蠅い足音が外まで響いてきた。
「なんですかい?」
戸口をガラガラと開けた腰の曲がった老人がしわがれた声で言った。恰好はしわしわの老人は下からこちらを恨めしそうに見つめてくる。暇を楽しんでいたときに私が水を差したからだろう。
しかし、サービス業ではないとはいえこの態度はいかがなものだろう。私は後ろ手を握る。
「あの、住職の方ですか?」
「そうじゃが。何用だ、あんた」
住職と名乗った老人は大口を上げて欠伸をする。後ろに回した手に力が篭る。
「お祓いをお願いしたいのですが」
「……お祓いだぁ?」
住職が怪訝そうにこちらを見た。ここで目を逸らすわけにはいかない。私は真剣さが伝わるように何度も頷く。住職はこちらの目をまじまじと見つめ返すと、半ば呆れたように肩を竦める。
「そんなもん、うちではやってねーぞ」
……この住職は一体何を言っているんだ? 神社なのに、お祓いをやっていないなんてことあるのか。ただの職務怠慢か何かか?
私はここに来たことを酷く後悔した。あの後、私がどれだけ懇願してもあの住職が私のために祈りを捧げることはなかった。形だけでもやってくれればいいのだが、それすらなかった。嫌気がさした私は石段を踏み鳴らしながら降りていく。そのまま鳥居をくぐると、スマホを取り出した。
「結局、神頼みも頼りにならないか」
私はスマホのホーム画面に映ったあと三日の文字に、虚ろな目で見つめていた。