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私の町のお稲荷様  作者: 北窓なる
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プロローグ

 窓の外から聞こえてくるメロディーで久城千鶴(くじょう ちづる)は目を覚ました。

 もうそんな時間か、と考えながら千鶴は布団から起き上がり、カーテンを開ける。うっすらと明るくなったばかりの空は、雲が所々に見て取れるだけ。今日は快晴のようだ。

 窓を開け、朝霧が立ち込める神社の境内を見渡す。古めかしい拝殿の前、そこにラジカセを置いて体操をしている女性がいる。

「おはようございます。珠妃(たまき)さん」

 千鶴が体操をしている女性――珠妃へと声を掛ける。珠妃は千鶴の方へと視線を向けると、手を振った。

「おお、千鶴。おはよう」

「ちょっと待っててくださいね」

 千鶴は窓を閉めると、パジャマのままサンダルを引っかけて外へと出る。小走りで拝殿の前へと向かうと、珠妃の隣に立ってラジオ体操を始めた。

 毎週土曜日の早朝にラジオ体操をするのが珠妃の習慣となっている。千鶴にとっても珠妃のラジオ体操は目覚まし代わりになっていて、一緒に体操するのが習慣となっていた。

 ラジオ体操をしながら、千鶴は隣で体操をしている珠妃を見る。

 珠妃は切り目で瞳は緑色。長い金色の髪をしていて、鼻は高くいつも自信に満ちた表情をしている。スラリとした長身でいつも紅白の袴を着ており、そこから伸びる長くて白い手足で規則正しくラジオ体操をする姿はとても美しい。千鶴はいつも見とれてしまうのだった。

 金髪に緑眼と、日本人離れした容姿をしている珠妃だが、もう一つ、人間離れした容姿を持っている。それは、大きな尻尾が付いているという点だ。今もお尻から伸びている毛並みのいい大きな尻尾を左右に振りながらラジオ体操をしている。この尻尾はアクセサリーというわけではない。実際に生えているのだ。

 珠妃は千鶴が住む神社に住み着いたお稲荷様だ。つまり神様なのである。

 尻尾は狐のもふもふとしたそれであり、隠しているが、頭には狐の耳がある。千鶴は昔、珠妃の尻尾を引っ張ったことがあるのだが、しこたま怒られてしまった。

 ラジオ体操の最後の深呼吸。新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込む。雑木林に囲まれたこの神社は空気が澄んでいてとても清々しい。

「ふう……では、今日はここまでじゃな」

 珠妃は尻尾を振りながらラジカセを止めると、千鶴へと微笑んだ。

「さ、今日の朝ごはんはなにかのう?」



 全国各地に突如として神様が降臨したというニュースが流れたのは、今から八十年ほど前のことだ。突如として現れた神様は神通力で参拝客の願いを叶えていった。人々は最初は戸惑っていたが、次第に神様のことを受け入れ、共存することを選んだ。当然と言えば当然だ。無理やり排除しようとすれば、神通力で天罰が下ってしまうのだから。

 政府が調べたところ、各町に一柱の神様が降臨しているということがわかった。同じ町に二柱は存在しない。必ず一柱だけだったらしい。


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