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木徳直人はミズチを殺す(完結作)  作者: 鈴本 案
第七章『最後の敵』
44/51

第一話「最後の夢」(挿絵あり)

(本作の挿絵はイメージです。本編の描写とは必ずしも一致しない事をご留意下さい)


■前章までのあらすじ

二人の敵対者を葬った木徳直人と黒川ミズチ。

直人は日常へ戻るが、変貌した葛葉レイが接近してくる。

だが直人自身の心にも変化が生じていた。

レイはアジトでミズチにも詰め寄り私闘にまで発展。

直人がレイは能力者になったと推理して、真相や特殊能力のあらましをミズチに説明する。

裏では直人が策略を働かせ、レイとミズチに三角関係の決着をつけるよう促す。

決闘ではミズチの秘められた魔術が発現、レイの体を分解した。

能力を試したい直人はレイの精神世界へ侵入。

今までの記憶ごと力をもぎ取ると、レイの体も復元した。

記憶をなくしたレイは、教室でも直人の視線に気づかないのだった。


■前章までの主な登場人物

木徳(きとく)直人(なおと)

挿絵(By みてみん)

高校二年生の男子で17歳。夢は小説家。新たな力を活用、知性が増大するも心身に変化が起こる。連作掌編を書いていた。


黒川(くろかわ)ミズチ

高校二年生の女子で17歳。魔術を駆使する魔術師、又は魔女。心身に変調をきたすも、秘められた魔術が発現する。本名は美月(みづき)


葛葉(くずのは)レイ

区立神内(こうち)高校二年生の女子で17歳。直人を好きだったが第三の敵対者となってしまう。分解されるも復元され、彼への想いも消えてしまった。


湯田(ゆだ)黄一(こういち)

高校二年生の男子で17歳。クラスメイトで直人の知人。オタクチックでエロい性格だが、直人より先に春が来た。


友紀(ともき)陽子(ようこ)

高校一年生の女子で16歳。泉のクラスメイトで友人。学力優秀で美脚。湯田黄一の彼女になったらしい。


次元(つぎもと)由美(ゆみ)

挿絵(By みてみん)

高校二年生の女子で17歳。黒川組の一人で美月の友人。天然な性格で彼氏持ち。行方不明になったらしい。


●気狂いのエル

直人の掌編小説に登場する女性主人公(ヒロイン)。過去を感知する超能力を持つ少女型の機械人形(オートマタ)。四つの探索を終え、四頭の馬とも出会う。










 葛葉レイを復元し、別れを告げた日の夜。

 自室で眠る木徳直人は最後の夢を見ていた。

 それは特別な悪夢。




 天気が悪く、陽は届かない。

 曇り空の下で目についたのは荒野だった。

 ()()荒れ果てて草も生えていない。

 地面は乾燥してひび割れていた。

 口内も砂っぽい。

 それはイメージで、口自体はないと彼は知った。

 視覚だけが宙に浮いている。

 浮きながら、直人は火と月の力を感じていた。

 だが半分。

 火と月の残り半分を探す。

 振り返ると一本だけ()()生えていた。

 次の瞬間に枯れて消えたので気にしなかった。

 今は自分の中に木が生えていると感じる。

 彼は前方を見た。

 一人掛けのソファが後ろ向きに置いてある。

 使い込まれていて見覚えもあった。

 そこに()()()()()()()()()()が座っている。

 後頭部は見えるが顔は見えない。

 座高の高さから体格が良く、身長も高い男だと感じた。

 スーツ姿の男は前方の何かを見ている。

 男の視線の先を追う。

 遠方。

 街がある。

 荒野にぽつんとビル群がある。

 世界から取り残された摩天楼が密集する街並み。

 男の様子を彼はじっと窺った。

 後頭部は動かない。

 前方を見据えたままだ。


 ブーンと()()飛ぶ音がする。

 直人が周囲を見渡す。

 二匹の蚊が飛んでいる。

 雄と牝。

 蚊達は前方、ソファの男の方へ飛んでいった。

 彼の視野も男へ近づいていく。

 黒い男の()()の右側、肌色が見えた。

 そこに痣の様な物が――

 男がすっと立ち上がる。

 注意がその身体全体へ向く。

 やはり身長が高い。

 直人より随分と高く、()()()()()()()()()だった。

 スラリとしていながら更にはガッシリもしていて、体幹が安定して見える。

 黒いスーツ姿の男はゆっくりと前へ足を踏み出した。

 地面を踏む音と共に前方へ歩いていく。

 一挙手一投足がスローモーションの様に彼は感じた。

 男の周囲で複数の(ハエ)が飛んでいるのにも気づく。

 蠅の舞い方は、喜んでいるかにも見えた。

 男はお構いなしに歩を進めている。

 向かう先、あの街へ。

 しかし段々と天候が悪くなる。

 特に街の付近の雲行き。

 それでも男の歩みは変わらない。


 ふとどこからか四足の動物が現れた。

 ()()

 それも()()

 ()()()

 狼達は男の後を追っている。

 ()()()()()のか。

 そう思った直人は不思議と懐かしさを覚えた。

 二匹は男から一定の距離を保っている。

 再び街の様子を注視した。

 黄昏時の様な暗さ。

 ビル群の上空には()()が渦巻いている。

 風と雷の嵐が徐々に現れ、街に停滞している。

 黒い男は止まらない。

 むしろ男が近づくにつれ嵐の様子は強まっていく。

 なら、この男が街に着いたら――

 その時、スーツの男の足が止まる。

 男の数メートル先。

 大きな穴がある。

 深く暗い底知れぬ大穴。

 立ち尽くす男に狼達が追いつく。

 二匹が両側から男に迫る。

 襲われる、危険が迫る寸前。

 狼は男の()()()座っていた。

 その(こうべ)を垂れている。

 黒いスーツの男は狼達を無視して大穴を眺めていた。

 すると瞬時に穴が埋まった。

 これで男はまた歩き出すだろうと彼は思った。

 けれど埋まった地表の上に何かがある。

 何かから()()()()()()が感じられた。

 注意深く観察すると、それは地底から地上へ現れた者だった。


 誰あろう“黄泉(ヨミ)”である。


 黒いスーツの男がまた歩きだした。

 数メートル先の“黄泉”に向かって。

 蠅達が先行して飛ぶ。

 狼達は男に()()する。


 信奉者(フォロウィング)を引き連れて、男は“黄泉”を見据えながら街をも目指す。


 ()()()()は止まらない。


 直人の視界も男に近づく。

 ある一点に。

 自身ではもう止められない。

 視線が釘付けになる。

 首筋へ――




 ――――6。




挿絵(By みてみん)




 彼は心地良い朝を迎えた。

 同時に、見た夢には不快な要素もあった。


「半分は()()()()ある。そうなると知ってて手引きしたのか」


 直人は携帯電話を手に取る。

 さっとメールを打つ。


Sub【重要な話がある】

『放課後、アジトに来い』


 黒川ミズチからの返信は相変わらず早い。

 だが中身は読まなかった。


 右手で()()撫でる。

 目覚めてからは首筋右側を自愛していた。

 首だけではない。

 右手首と左胸の辺りもだった。


 彼は既に知っている。

 今日から自分が、()()()()人間になったのを。




 朝食へ向かう前、衝動ともつかぬ気分で筆を取った。

 何も考えずに書いた時間は二十分足らず。

 連作掌編最後の()()()()の作品を書き上げた。







挿絵(By みてみん)

 黒川美月に()()()()()()日の放課後。

 直人はアジトで彼女を待っていた。

 必要な情報だけ全て話す。それで話は済むと考えていた。

 いつものドアの音がして、オーバルタイプの赤い眼鏡をかけたミズチが姿を見せる。


「急いで来たよ」


 息が少しあがっている。

 彼から見るとやはり普通の女子に感じられた。

 何人もの人間を手にかけてきた殺人鬼。

 そんな風には見えない。


「重要な話って?」


 ナイフと魔術を操る魔術師。

 強大な力を駆使し、三人の能力者を(ほふ)った魔女。

 とてもそうは見えない。


「黒幕が分かった」


 彼女が驚いた顔を見せた。

 最上流層グループの看板にさえ見えない。

 自分が一捻りすればすぐ死にそうな女。

 感じながらも続ける。


「夢で黒幕を見た。レイをあんな風にした張本人がいる。十中八九、奴が仕組んだと考えてる」

「夢……それって、誰なの?」

「ミズチはまだ知らなくていい」

「なぜ?」

「君とは面識が無い相手だ。それにレイの仇だから。知った直後の方が殺意も湧く。戦うには都合はいい」


 本当はまだ言わない方が面白いと考えていた。

 ミズチは逡巡してから直人の目を見つめる。


「分かった。あたしは直人くんに従う。言ってくれたらその時、すぐに」

「ああ、それでいい」


 彼は彼女の髪を軽く撫でた。

 撫でられたミズチが一瞬びくんと身体を揺らす。

 顔がやや紅潮しているのが見てとれた。

 直人にはその意味が分からなかったが、()()()()だと受け取った。

 彼女がやや上目遣いで聞いてくる。


「それで、そいつどうするの?」

「今までは気づかない内に敵から迫られた。ずっとこちらが後手。今度はこっちが先手を打つ番だ」


 息を吸って、吐きながら、明確な意思を込めて大事に言う。


「――俺が殺してやる」



  *



 殺害予告を聞いたミズチは戦慄していた。

 目には魂が宿ると聞いた事もあったが、宣言した直人の目が正にそれだった。

 レイの時より明確な殺意の魂が宿っている。

 復讐心からだろうか。レイの為に。それとも――

 同時に不思議な快感も覚えていた。

 まるで自分に向かって放たれた発言だと彼女は感じている。

 その身と心はマゾヒストの様に疼いた。

 既に言葉も出てこない。


「――今日はそれだけじゃない。新作がある。シリーズ()()()


 からっとした爽やかな笑顔でいつの間にか彼が話していた。


「君に聞かせたいよ。俺の自信作だから」

「うん……聞かせて」


 直人の顔が迫って来て、口が耳の辺りで止まる。


「タイトルは――」


 題名からは囁き声。

 鼓膜が子宮になりそうな美声だった。

 声が頭の中まで入ってぐるぐると回る。

 中をかき混ぜて脳を(とろ)けさせた。

 何もかも溶けてから、話が頭の中を()()()――




「――どうだった?」


 気づかぬ間に彼の語りは終わっていた。

 直人の顔は耳から離れ、ミズチの目前にある。

 キスで眠りから起こされた姫の様にこう言うしかなかった。


()()()()()


 羞恥心もあって他に表現のしようがない。

 聞いた彼はやはりからっとした笑顔で応えた。


「よかった」


 そして恐い顔つきになる。


「今後の予定を話す」




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