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花の命は短くてっ!   作者: 相楽山椒
第一話 あたしの人生終わってるな
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1-4 反省するってこと知ってる?

(っなんだよあいつ……中二病、いや高二病末期症状じゃない!)


(ねぇ朱莉ちゃん、その病名よく聞くけど、どういう病気なの?)


(ああ、鞠さんの時代にはなかった病気かもね。二十一世紀の若者に蔓延してる不治の病よっ。一度罹ると死ぬまで付き合う羽目になる。しかも自覚症状無しの上、感染するのよ!)


(ひっ、カンセン……朱莉ちゃん大丈夫?)


「ふふ、鞠さんっ! あたしを侮らないでほしいわね」


 朱莉は目を伏せ、天に向かって人差し指を立てると左右に振る。


(なっ、なに? いつも朱莉ちゃん図々しいほど自信満々だけど、今日は格別に恥知らずな勢いあるわね)


「あたしはね、魔族三十六氏族を統べる最強の朱の王、魔界皇帝を守るため地獄の門を一人で守り抜き、この世との境界で息絶えるまで人類と戦い、念柱体として金仙院に結象され――」


(あぅ、朱莉ちゃん朱莉ちゃん)


「うるさいな、静粛に聞きなさい――現世に転生体として生まれ変わるまでに二千六百年――」


(あーかーりーちゃーん)


「っなによ、最後まで聞いてよ――人類の邪念を吸収し、遂に復活の時を迎えた閃光のシュリこと、ディントウルニ・アブフェアエ・シュリ・バーミリオン・モーリホアをかつて騙っていた原罪的オリジン・オブ中二病・ファンタスティック罹患者純血種・ピュア・ブラッドとは私のことなのよっ!」


 周防朱莉は満足げだった。問答無用で、他人に自分の妄想を聴かせることほど痛快なものはないとばかりに。


「――――あ……」


(ほらぁ……)


 クラス全体の視線が、朱莉へと注がれていた。静粛にして、興味深げに、薄笑いを漏らし、呆れながら。


「おい周防、お前の言う通り皆で静粛にして最後まで聞いたが、とりあえず授業中だ。今すぐ殴って説教したいのは山々なんだが、ひとまず廊下で立ってろ」


 五限目、担任北坂の国語の授業中だった。


 結局今日一日、一時限の授業にすらまともに出ることが出来ずに、退室する羽目になった。



「くっそ……きょう二回目じゃんか、北坂も一日に何度も怒って飽きるでしょうに」


(今回は明らかに朱莉ちゃん悪いわよ。だからちゃんと念話で話すようにしなさいって、いつも言ってるでしょ)


「鞠さんが話しかけてくるからじゃない」


(ほら、また。そんな実話・・してたらまた怒られるわよ)


 霊感応力者は、念話という一種のテレパシーのような、思念による会話ができる。通常これを習得するにはある程度の訓練が必要だが、特に霊とのかかわりを持つつもりがなければ無理して覚える必要もなく、自覚のない霊感応力者は念話の周波数帯に感応波を合わせることができないため、断片的に会話を聞き取ったり、象徴的な旋律や、ラップ音のようなもので捉えたりする。彼らにとって大抵それらは、空耳であったり、気のせいであったりと処理されることが多い。


 しかし最初の段階から、鞠の言葉が聞こえるほど高度な霊感応力を持つ朱莉は、ほとんどすべての霊の声を、人の話す言葉とほぼ遜色ない状態で判別し聴くことが出来たため、さっきのように念話と実話をごっちゃにして、話してしまうことがたびたびあった。


(うー、だってさ、念話したり霊視したりしてたら、この眉間のあたりが痛くなってくるんだもん)


(使い慣れたらストレスもなくなるわよ。嫌々言って使わなかったらいつまでたっても上手くならないのよ?)


(こんなのできたって、誰も褒めてくれないし。成績が良くなるわけじゃないし、だいたい霊と仲良くなんてしたくないし)


 ふと横に視線を流すと、二つ隣の教室前の廊下に人影があった。数分前に遭ったばかりだったのですぐにわかった。


 大塚聡子だ。またぞろ堂々と居眠りでもしていたんだろう。


(ばーかばーか! だいたいあんたの話題のせいで、あたしが廊下に立つ羽目になったんだからな)

(朱莉ちゃん、反省するってこと知ってる?)


 やがて最終時限のチャイムが鳴る。鞠と話しきりだったのでどのくらい経っていたのか意識もしていなかった。


 授業を終えた北坂は教室から顔を出し、朱莉を一瞥すると、さっさと教室に戻れと人差し指を折り指図する。


 とぼとぼと重い足取りで戻った教室では、「五連休だぜ! うおお!」と男子が数人集まって叫んでおり、「明日何時待ち合わせだっけー?」と女子たちがはしゃいでいる。


「おら、静かにしろ。終礼はじめっぞ」と、担任の北坂が教室中に波及しはじめる喧噪を鎮める。そして「お前らの楽しい三連休もいいが、その後に待ってるものを忘れてないだろうな!」と、北坂が薄笑いつつ全体を見渡すと、教室の空気がずんと沈み、やがてクラスの中から、声にならないため息のようなものが全体的に流れる。


 そう、連休が明ければすぐに中間考査、いわゆる中間テストというものが始まる。


「お前らももう二年だ、しょっぱなの中間テストだからといって気ぃ抜くな。高校生活に浮かれてたらあっという間に受験はくるんだ。時間は大切だってことは承知してるだろうが、むざむざその機会を――」


 今日は中間テストの範囲を重点的に復習したはずだ。だが朱莉は授業に出られなかったため、それらの内容がほぼわからない。決定的ピンチであった。


「連休明けにテストとか、鬼かよ……」と隣の席の山田が悲壮感一杯に呟いている。


 同感である。理不尽さのあまり「ま、あたしは、山田には勝つけどね」と根拠のない低レベルな勝利宣言をしてみる。


「ふっ、吠えてるがいい。周防、お前は今日という一日をあまりに無駄に過ごしすぎた。この歴然たる差は埋めがたいぞ」と山田が不敵に嗤う。


 するとコツコツと背中に違和感を感じた。


 振り返ると、戸田美玲がシャープペンシルの背でつついていたらしい。


「北坂先生ちょっとイライラしてるね」と、小声で話しかけてくる。今、なぜその疑問をあたしに振るのか、と眉根を寄せたが、仕方なく振り返りそれに応える。


「ああ、きっとさ、きょう一日であまりにアウトローでフリーダムな生徒を嫌というほど目の当たりにさせられたからだよ」


「ん? あっ、周防さんのことかぁ。ごめんごめん」と美玲はコツンと自分の頭を小突いて舌を出してほほ笑む。


 イライラしているついでに殴ってしまおうかと思ったが、そのしぐさが超絶に可愛かった。それに「はい、これ。今日の授業のノート、周防さんの分まとめておいたからね。字は綺麗じゃないからごめんね。それにわからないとこがあったら聞いて」と。


 神か!――――朱莉は美玲と懇意にすることを即座に誓う。


 しかし、「……ふっ、あたしのことは朱莉でいいよ、美玲ちゃ……」と言いかけた朱莉の後頭部を、黒板消しが襲い、金髪はもうもうとしたチョークの粉にまみれて白くなる。


「おまえだ周防! 少しは反省しろ! お前は連休中に滝にでも打たれに行ってろ!」

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