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燕友歌  作者: 深淵ノ鯱
6/6

たそがれ

  *


 蒼く澄んだ空が、目の前には広がっています。秋の空は高いと言いますが、冬の空は、私は逆だと思います。清々しくて、吸い込まれそう。意識を手放しかけると、そのまま大空へと羽ばたく鳥のような感覚に襲われます。

 私と彼は、変わらぬ時間を過ごしました。周りに人がいなければ、二人で並んで下校しました。ドラマや漫画で見るようなシーンだな、と思って毎回ドキドキすることは、彼には内緒です。

 そして徐々にではありますが、クラスに私の居場所ができるようになりました。初めの内は苦労しましたが、今では結構自然にクラスメイトと話せます。トモダチ……いえ、友達という概念が、再び私に「普通」の世界を認識させてくれました。

 その中で唯一今でも私に近づこうとしないのが、彼をいじめっ子から助けたというあの二人。未だ軋轢(あつれき)は生じたままですが……消えないなら消えないで、それはいいことだと思います。無理に仲良くする必要はない。いつか、力が抜ける日が来ると思うから。

 今日は、新しくできた友達が私の家に遊びに来る日です。クリスマスが近いということで、プレゼントの交換をする予定です。お母さんに伝えると、嬉々として料理や装飾を用意してくれました。今、階下からは香ばしく食欲を刺激する匂いが漂ってきます。

 部屋に掛けてある時計を見ると、もうそろそろ約束の時間です。家への道のりは詳細に教えてありますが……もしかしたら迷ってなどいないでしょうか。私は不安になって、家を出ます。

 私の家へと向かう分かれ道で、しばらく待ちます。賑やかな町中へと向かう道と、田畑の広がる場所へとつながる道。後者は、あまり行ったことがありません。変な人が出るから行っちゃダメ、とお母さんからきつく言われています。

「あっ、サユキー!」

 大きく手を振りながら、私の名前を呼ぶ数人の姿がありました。私も手を振り、彼女らの元へと駆け寄ります。

「迷わずに来れて良かったよー。今日は誘ってくれてありがとね! 一日よろしく!」

 その瞬間に、私は考えていたことを忘れました。

 それからは、楽しい時間が流れていきました。お母さんの料理に舌鼓を打ち、個性あふれるプレゼントをもらいました。卒業まであと少しという私たちにとって、とっても貴重な経験となりました。

「……今日は楽しかったよ。また来年もやろうね!」

 あっという間に終わりはやってきます。夕陽が世界をオレンジに染めはじめるころに、私たちは別れました。また一つ、新たな約束ができます。その気持ちが薄れぬ限り、私たちはずっと、傍に寄り添える存在となりえるのでしょう。

「うん。バイバイ」

 片手を振り、みんなが去っていくのを見送ります。

 そんな私を、一緒に見守っている影がありました。

「あ……」

 目が、合ったような気がしました。じっと、「彼女」は私を見つめていました。

 気が付いたときには、その姿はもう遥か彼方の夕空へと溶けていました。仲間の群れに取り残された渡り鳥は、今日から長い旅へと出ることでしょう。

「……なつか、しい……?」

 あれは……どのようなきっかけだったでしょうか? 「たそがれ」の意味を調べたことがありました。周りの誰かが口にして、そのまま気になって調べたのだったでしょうか?

 既に遠く離れてしまった背中に向かって、問いかけます。『たそがれ』。すなわち、『()(かれ)』。


「あなたは、だぁれ?」


 目覚めた朝に、答えは待っています。きーこきーこ。どこかで奏で続ける、あなたの歌声と共に。

以上をもちまして、「燕友歌えんゆうか」を完結いたします。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

皆様の正直な感想をお待ちしております。

次回作の投稿予定のめどは立っていませんが、決まり次第、ご報告をさせていただきます。

また次のお話でお会いしましょう。


深淵ノ鯱

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