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俺は変態を理解した

 重くのしかかる様な意識の中、俺は目を覚ます。

 寝ていたのだろうか? 俺は仰向けの状態でそんな事を考えた。


 だが、硬いゴツゴツした床と目の前、青白く光る結晶を散りばめた岩の天井を見詰め、ここが擬似的な迷宮だと思い出し、俺の心にあるのは絶望だけだった。


「ステラ………」


 思わず俺を待つと言ってくれた、少女の名が口から漏れる。


(生きてここに帰って来て。……か………)


 今更ながら自分の情けなさが嫌になる。孤児で才能スキルも無かった。

 それでも、周りの目と自身の尊厳に振り回されて、その結果がこれだ。

 涙が溢れ出す。


 もう、自身を不幸と嘆くべきか、それとも身の程知らずの自業自得と罵るべきかもわからない。

 それでも。


(死んだら許さない、か。ステラなら冥界まで追いかけて来そうだな)


 俺のわがままを受け止めた幼馴染を、悲しませる訳にはいかない。

 今ならわかる、俺が守らなければいけない尊厳が。


「ハハハッハハハ」


 自然に笑い声が溢れた。

 変態だから何だ? 好きに言えばいい。俺に大切なのはそれじゃ無い。

 ずっと一緒にいて、好きになってしまった少女を泣かせない事だ。

 でも、勇者の隣に立つ事も、まともな生活も、スキルも身内も無い俺には許さていない。

 限られた安全な土地と、スキルが重要なこの世界。

 俺がやることは1つ。


「ステラ。君の側に立っても、誰も文句を言わないぐらいに強くなってみせるよ」

 

 泥水を啜ってでも、生きて前に進む事。

 俺は重く感じる身体を力強く持ち上げる。

 見据えるは、青白く照らされた一本道の洞窟だ。

 どんなに決意しても状況は最悪。

 実力もスキルも無いのに逃げ腰の俺は、準備も禄にしなかった付けが早くも訪れたのだ。


 そんな事を胸に俺は足を踏み出そうとするが、足が動かず盛大に倒れる。

 しかし、痛みは無く。ゴツーン と、鉱石のぶつかる音が洞窟に響き渡る。そして、

 目の前に見える、細長い岩。


(これって、俺の腕か?)


 そう、身を守ろうとして突き出した腕が、洞窟の岩と似た性質に成っていたのだ。

 そして、身を捩り足元を見る。岩の様に変異した足が洞窟と同化し見分けがつかない。

 俺は激しく動揺したが。深呼吸をし、1つの答えを見詰める。


「これが【変態】の力なのか?」


 変態の意味を心の中で復唱する。

 異常な性癖、変わった趣味………。違う、もっと先だ!

 形態を変える。元の形態から別の形態に形を変化させる……これだ!!


「俺のスキルは身体の形態を変える、変態させる事だったんだ」


 俺はようやく自身のスキル、【変態】を理解したのだ。

 スキルを理解し先ずやることは1つ。コントロールだ。

 俺はスキルと呼ばれる、魔力を魔法に変換する仕組みを思い出す。

 生物は皆が魔力を持っている。

 それは体力や精神力、生命力の総称で神秘の力では無い。普段から皆が使っている体の原動力だ。

 なので、スキルがなければ魔力を使っても力んだり、大声を出すだけの結果しか生まない。

 そこで登場するのが、魔力を魔法に変換する変換器能”スキル”が重要になる。

 その仕組事態は簡単だ。わかりやすいスキルを思いだす。


 【豪腕】は魔力を使えばそれが膂力に変わり。体力を消費するだけで、異常な力を得る。

 【火属性】と呼ばれる魔導スキルは意識を魔力とし、それを炎に変換して自在に操るのだ。


 俺はスキルを使う意識で、岩の足に集中する。

 最初は足に神経が集まっているだけに感じたが、次第に電流が流れる様な感覚が生まれ。

 足から光を放ち始めた。イメージするは元の足。

 すると、脳から足に向かって魔力が走る。

 光る岩の足は熱を帯び、瞬く間に形を変えて、見慣れた俺の足に戻った。

 その調子で身体の石化を解く。


 再び立ち上がった俺は自身の右手を見詰める。

 再び岩に変態させた右手。

 俺はどうやらこの洞窟の岩に変態出来る、と言うかここの岩を覚えた様だ。

 よく解らないが、感覚がそう告げていた。

 そして、岩の右手に意識を集中する。


(イメージは剣だ)


 脳から司令(魔力)を受け取った右手は変形し鋭く長い剣が生まれた。その岩の手剣を壁に叩きつける。

 ガギーン と金属とも取れる音が鳴り響く。コレなら使える、ここの岩はかなりの強度だ。

 擬似な迷宮と聞いたのを思い出し、迷宮の性質を思い出す。

 迷宮の岩は迷宮石と言われ、鉄を超える強度を持ち、更に再生すると。

 俺は、ついでに覚えていた青白く光る結晶を手剣の甲に造り。出口を目指して前に進む事にした。


 エドガーは嘘を付いていなかったよだ。

 俺は目の前から襲い掛かって来るゴブリンを、右手の手剣で斬り伏せながら前に進んでいた。もう10体ほど斬り伏せたと思う。

 身長120センチ程の緑の子鬼。背丈だけなら子供だが、その顔は大きく、鉤鼻のオッサンだ。そんなゴブリンが奇声を上げて襲い掛かる。

 時折、足や脇腹に錆びた剣を食らうが。その時は下半身も迷宮石に変態させて防いでいる。

 だが、そうすると行動力が著しく低下するので使い勝手が良いとは言えなかった。


「グギャギャアァァ」


 目の前から迫るゴブリン。俺は焦る事無く手剣を突き刺す。


「グギャボ!?」


 しかし、刺さる事無くゴブリンは突き飛ばされる。

 今、俺の手剣は刃を失っている。

 俺のスキルは『意識が魔力』として消費される様だ。今は朦朧とする意識の中で戦う危険な状況だった。

 自身の魔力を理解していなかった俺は、最初に遊び過ぎたのだ。 


「あれが出口でいいんだよな?」


 それでも、視線の先で光る大きな門を見据え。

 僅かな希望でで前に進む。

 だがその前には、ゴブリンが三体。とても今の状態では戦えない。

 なら、選ぶ戦術は1つ。

 俺は上半身全てを最後の力で迷宮石に変態し、駆け抜ける。

 戦わずの強行突破だ!

 前に突き出した俺の盾(上半身)にゴブリンの攻撃が炸裂するが、俺はそれを無視して光の門へ飛び込む。

 そして消えそうな意識の中、変態は解け。

 光が開けた先は、土の床に戻っていた地下室。

 更に、沢山の若者達……。


「えっ?」


 思わず声が漏れた。詳しい数は知らないが全員居るのではないだろうか。

 そう思ったのだ。それも大半が無傷の状態で。

 だが考える事はできなっかった。

 俺は魔力(意識)を使い切り、そのまま気を失ったのだ。


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