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スキルで別れた人生

「落ち込まないで」


 孤児院へ荷物を纏めに戻っていた俺は、ステラに慰められていた。

 俺は孤児院へ直ぐに帰りたかったが、ステラの勇者申告の手続きがあったので教会で足止めを受けたのだ。


 ステラに付いて行こうとしたがシスターに全力で止められ、長時間、野次馬に笑われる事になった。


「トランスの趣味なら、私は何でも受け止めるよ」


 いやいや何だよそれ。俺は無実だ!


「俺はノーマルだから! 変な趣味はねーぞ」

「えっ? でも昔、保母さんの着替え覗こうと頑張ってたよね」

「それは若気の至りだ!」


 過去の黒歴史を抉られ、俺は更に気が沈む。

 俺の人生は終わったのだ。


「勇者のお姉ちゃんだ!」


 俺が慰められていると孤児院の子供達がステラを勇者と呼んだ。


「私はまだ勇者に成っていないよ」


 ステラはそれに笑顔で応える。

 神域のスキルを手に入れたステラの話しは直ぐに王都の下町を席巻したのだ。


「大変! 勇者様が、変態のトランスに襲われているよ!!」


 そして、変態のトランスはそれ以上に王都そのものを席巻していた。

 10年に一人の勇者より、世界初の変態はそれだけ世間に衝撃を与えたのだ。


 質の悪い冗談では。

 変態のトランスの話しは王宮にも入り、自身の貞操を危惧した王女様が、”変態のトランス”を警戒する隠密部隊を編成したと言う噂まである。


 スキルを授かって、まだ一日も立っていないんだぞ。世間って怖い。


「トランスは”まだ”何もしてません!」


 そしてステラもこの調子だ。まだ、って何だ?


 野次を飛ばした子供達はステラに怒られ、俺を指差しながら逃げていく。

 子供達が居なくなり、ステラは再び俯く俺を見る。


「トランスはこの先どうするの?」


 そして、一番の難題を持ちかけてきた。

 だが俺の応えは決まっている。


「王都を出て冒険者になるよ」


 冒険者。多くの孤児がなる職業だ。


 魔物が蔓延るこの世界では基本的に、都市部は人間が集まり人口過剰でまともな仕事が無いのだ。王都はその典型で、仕事等無かった。


 あったとしても、一生食って行けるかわからない無料奉仕に近い劣悪な仕事だけ。働けなくなり、貯金も家族も無いまま捨てられる老人は多い。それを見て育った若者達は、真面目に働けば報われると言う、勝ち組達の謳い文句を信じなくなっていた。


 まともな仕事にありつけなければ、魔物や盗賊を相手に金を稼ぎ、迷宮と呼ばれる冥界から亡霊が逃げ出してくる土地を回る、冒険者になるしか無かった。


 しかしそれは、


「そんなのダメに決まっているでしょ!」


 まともな戦闘スキルが無い者は死んだも当然の選択だった。


「ならどうしろって言うんだ! 俺に男色パブで働けって言うのか?」

「私の従士として王宮に掛け合ってみるわ」

「頼むから俺を辱める様な事はしないでくれ」


 変態のトランスはこの王都に知れ渡り。隣にいるステラは王宮に仕える勇士騎士団の入隊が約束された勇者。俺は勇者に付く虫と言われているのだ。


「私はトランスの事を思って………」

「ごめん、言い過ぎた」


 しかし俺の言葉で落ち込むステラを見て、自分が八つ当たりしていると気付く。


「でも冒険者になるよ。無理はしないし、下級の魔物なら並の剣技で退治できる。食い繋ぐ事は出来るよ」


 それでもステラの側には居られない。

 彼女の存在が今の俺には眩しすぎるのだ。


(どうしてステラが勇者で俺が変態なんだ)


 そのな、歪んだ心が芽生える。


 ステラが神域では無くただの強スキルなら、俺が変態では無く少しましなスキルなら、

 まだ一緒にいられたと思う。しかし、スキルはもう決まったのだ。


「本当に大丈夫なの?」


 ステラは不安を滲ませた青い瞳を俺に向ける。

 ステラの気持ちはわかる。俺達は物心が付いた時から一緒にいて本当の兄弟の様に生活して来た。


 女の子の方が成長が早いと言うが、俺とステラはその通りだった。ステラは俺より言葉も身長も先を行き、同じ歳のはずなのに何時も姉を気取っていたのを思い出す。


 そして、今も心配する姉の様に見つめている。

 俺も、もし立場が逆なら冒険者なんて全力で反対しただろう。


「今は、自分が納得出来る時間が欲しいんだ。ダメだったら素直に身を引くよ」


 しかし、ステラに甘える事は出来ない。

 今の俺では足を引っ張る未来しか見えないんだ。


 スキルは人生を決める。

 俺とステラのスキルは決まり、違う世界に別れてしまった。

 貴族に成り、王族からも婚姻の話しが来る勇者と、

 街中から変態と罵られ、まともな仕事が無い俺とでは、住む世界が違いすぎた。


 そんな思いをステラには気づかれない様、胸の奥にしまい。真っ直ぐと青い瞳を見詰める。


 そして、ステラは頷く。


「わかったわ。トランスがそこまで言うなら私は止めない。でも一つだけお願いして」


 ステラは俺の決意が硬いと理解し、説得を諦め。一つだけ約束を求めた。


「生きてここに帰って来て。死んだら許さないよ」


 心からわかる切実な願いだった。


(ステラ、本当にすまない。俺のわがままで苦しめてしまって)


 俺は溢れ出しそうになった涙を必死に抑え、ステラの瞳を見詰め続ける。


「必ず戻って来るよ。ステラも強いスキルだからって気を抜くなよ」


 そして俺とステラは約束を交わし、それぞれの人生を歩む事になった。


***


 ステラとの約束から一週間が経ち。

 成人した俺は独立の準備を終わらせ、孤児院を出る日がやって来た。


 他にも成人した者がいるが。孤児院で働く者、スキルにあった職業に付いた者も多く。

 冒険者になるのは、騎士に届かない、又は一攫千金を狙う戦闘向けのスキルを持つ者。

 そして、何処にも貰い手が無く都市部の多すぎる人口から溢れた者達だった。そういった人は一時的に冒険者になり、自身のスキルを必要とする街を探す危険な旅をするのだ。

 その為、少女の中には娼婦になる者も多かった。

 無論、俺も溢れた人間だ。


 変態のトランス。俺の異名は王都では有名になり、同時に偏った偏見が生まれている。

 もはや、男色パブ以外の働き口が無かったのだ。


「お世話になりました」


 今まで面倒を見てくれた孤児院にお礼を言いい、俺は王都の西側にある、冒険者を管理統制する組合。冒険者ギルドを目指す事にする。


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