俺は成人し変態になった
人は成人するとスキルと呼ばれる固有魔法を授かる。
いや、スキルを授かると成人と認められと言った方が正しいだろう。
俺も今年15才に成り、スキルを得る為に教会へ訪れていた。
「ねえ、トランスはどんなスキルが良いの?」
隣で儀式を待つ幼馴染のステラが話しかけた。
ショートボブの銀髪に青い瞳を持つ可愛い女の子だ。
「勿論、最強って言われる巨人化だろ」
俺は迷い無く、強いスキルを応える。
巨人化は魔力消費が激しいと言われるが、魔装と呼ばれる魔力できた鎧の巨体を手にいれ圧倒的な腕力を得るスキルだ。
男なら迷いなくロマンを選ぶのは仕方がない。
「え~、それ不便じゃない?」
しかし、女子のステラは怪訝な表情でそれを否定した。
俺はため息を付き、補足をいれる。
「たく、ステラはわかってないな、巨人化は鍛えたら部分魔装も出来るんだ。魔装型の基本だぞ」
「トランスはスキルの事詳しいんだね」
俺の説明を聞いてはにかんで笑うステラ。
詳しいのは当たり前だ。孤児院で育った俺とステラが人生を勝ち取る為には、スキルが一番の近道なんだ。
俺とステラは孤児だ。物心付いた時から一緒にいて、親や出身はわからない。
知っているのは捨てられたって事だけだった。
しかし、これは珍しい事では無い。この世界は、形ある亡霊と呼ばれる魔物やスキルを悪用する盗賊ギルドが存在し、毎日、不幸は量産されている。
更に、盗賊に孕まされた子供や娼婦の子供、口減らしで捨てられた子供は沢山いる。
そんな子供間での対立や差別を避ける為、捨てられた子供の出身は秘匿されるのだ。
でも諸王国は、そんな子供達を保護し育ててくれる。
その理由を一言で言えば『スキル』だ。成人しその能力の有用性が、魔物が蔓延り盗賊ギルドが幅を効かせる、この世界では重要になる。
孤児院に入らずスラムで生きた大半の子供は、盗賊に拾われ。その中に強力なスキルを持つ者がいれば、それだけで世界の脅威になる。
だが、保護した子供が強力なスキルを持てば王国の力になるし、生産系のスキルなら国力に一躍買って出る事が出来るのだ。
しかし、逆を言えば成人し無能と烙印を押されれば、容赦なく切り捨てられる。そうなれば、身寄りのない俺達は危険な世界の犠牲者になるだろう。
頼れる親のいない子供の未来は過酷だ。
教会には成人を迎え、今日から大人になる者達が沢山いる。そして、黒い修道服を来たシスター達の下でスキルの鑑定を行っていた。
彼らは落胆や歓喜の表情をし。順番を待つ俺達でもその結果はよく分かる状況だ。
「よっしゃー!! 【豪腕】を手に入れたぜ!!」
一人の少年そう叫び、教会内からどよめきが生まれる。
【豪腕】は魔力を膂力に変える単純で強力な増強型スキルで、多くの英雄を輩出している。
脳筋のゴリ押しでも大抵の魔物が倒せる筋肉スキルだ。
「あの子凄いね」
ステラもそれを知っていて、叫んだ少年を見詰めた。
【豪腕】を手に入れた赤髪の少年、その周りには既に人だかりが出来、その中心で豪腕の少年は誇らしげに立っている。
「うん、豪腕なら冒険者でも成功出来るし、王国からもスカウトが来ると思うよ」
俺も素直に賞賛にを送る。よっぽどのバカでない限り、あの少年の人生は成功したといえる
「次の方お願いします」
「あっ! 次は私だ。行ってくるね」
そして、ステラの番が来た。
シスターの声を聞き、ステラは銀色の髪を揺らして鑑定石のある祭壇へと駆けていく。
腰の位置に設置された鑑定石と呼ばれる石版に、ステラは右手を乗せ石版が発光し始める。
俺は純粋にステラに良いスキルが与えられる事を祈る。
最初は姉ヅラされてウザいと思っていたが、兄弟のように毎日一緒に生活して来たのだ。
俺が祈る続ける中、石版の発光は収まりシスターが慌て始めた。
流石に後ろで見ていた俺も、異変に気付きステラに駆け寄る。
「どうしたんだ、ステラ?」
「わからないよ。スキルを見たらシスターが慌て始めたんだよ」
ステラはその青い瞳に困惑の色を浮かべている。
「兎に角、スキルだけでも聞いていいか?」
周りの野次馬も異変に気付き集まり始めた為、俺は早めに結果を聞く事にしたのだ。
「神剣術って書いてあって。剣術は知っているけど、どうして神が付いているのかわからないの」
スキルには神如き力を与えると言われる神域のスキルがある、それは10年に一人いれば豊作だと言われる伝説級のスキルだ。
ステラが得た神と付く剣術は、神如き剣技を持つ剣神のスキルだった。
「凄いよステラ! それは勇者のスキルだよ」
そして、伝説級のスキルを持つ者は、王国から勇者として認められ莫大な援助。更に爵位も貰えるのだ。
俺は悔しい気持ちはあったが、ステラの人生の安泰が決まった事を心から喜んだ。
「私が、勇者のスキルを?」
ステラも勇者と聞いて、自身のスキルを理解し始める。
そして、
「おい! 勇者が出たぞ!!」
野次馬が騒ぎ出す。異変に気付いた野次馬の一人がステラの石版を見て騒いだのだ。
勿論、人の結果を覗くのはマナー違反だが、ここにいるのは形式だけ大人になった子供達でそんな事は関係無かった。
だがそれはどうでも良い。
「そだよ、これは神域のスキルだよ。勇者になって、貴族にも成るんだよ」
ステラはスキルで人生を勝ち取る、スキルドリームを体現しようとしている。
騒ぎの中、教会の奥から司祭の男性がシスターと共に現れる。
「君が神剣術を得たという子かね?」
老人と思える白髪を持つ司祭は、真っ先にステラに近づき鑑定の結果を伺った。
「はい、神剣術を授かりました」
教会の偉い人を前にステラは緊張気味に応える。
「そうか、それは素晴らしい。勇者の申告書を作成する準備をするので、少々教会で待っていてもらっても良いかな?」
やはりステラのスキルは神域のスキルだった。
周りにいた野次馬も今は騒ぎを止め、司祭とステラの会話を黙って見ていた。
彼らは今、伝説の始まりを見ているのだ。
「ステラ、はいって言え」
しかし、すてらは口を開けたまま黙っており。俺は小声で返事を促した。
ステラは我に返り、司祭の問に応える。
「は、はい」
同様を見せる短い一言だが、司祭は満足そうな笑みをみせ、野次馬は再び沸いた。
「凄い、本物の勇者だ!! サインくれ!」
「君、名前は何ていうの?」
「私と結婚して、お姉様!」
野次馬は一斉にステラに駆け寄り、俺は押し出される様に後方へ弾かれる。
ステラは同様し俺を見詰めたが、
「でっでは気を取り直し、次の方どうぞ!」
シスターは勇者誕生の騒動に気圧されるが気をはり。大声で鑑定を再開した。
「ステラごめん! 次は俺の番だから、終わったら直ぐ戻るよ」
鑑定の順番が回って来たため、俺はステラに大声でそれを伝え、祭壇へ向かった。
「では、鑑定石へ右手をお乗せ下さい」
俺はシスターの指示の下、石版に右手を乗せる。
石版は光始め、俺の人生を決める鑑定を始めたのだ。
(ステラありがとう、君のおかげで希望が持てたよ)
そして、心の中でステラに感謝を送る。
ステラほどのスキルは得られるとは思えないが、目の前の伝説を見て少し希望が持てたんだ。
俺の感謝が終わると同時に石版もその光を消し、結果を表示した。
だが石版に表示された文字を見て俺は固まった。
『変態』
ちょっと待って、変態ってなんだ!? そんなスキル見た事も聞いた事も無いぞ。
何これ、イジメ?
鑑定の結果を示す石版には【変態】、と書かれていた。
俺は動揺し、目の前のシスターに視線を向ける。
シスターもかなり困惑していたが、俺の視線に気が付き、
――――距離をとった。
かなり傷つく行為だが、更に災厄は降り注ぐ。
「おい! 勇者の友達はスキル何だったんだ?」
俺とシスターの間に奇妙な空気が流れるなか、それを無視してテンションの上がった野次馬の一人がマナーもクソも無く俺の結果を堂々と覗き込んだのだ。
「おい!!! 勇者の友達は変態だぞ!!」
そして、盛大に吹き出した。
その一言で、ステラを中心に広がっていた騒動が俺に向かう。
「うわ。マジだ、コイツのスキル変態だ」
「サイテー、こっち見ないで」
「僕のお尻、空いていますよ」
こうして俺のスキル【変態】は、瞬く間に有名になったのだ。