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「わーん!! なんでなんで私には誰も住んでくれないのー!」


 円形状で中央部に一本脚を持つ大地ちゃんレヴィルは、同じ位の大きさの大地ちゃんに泣きついていた。


「おーよしよし」


 ケーブルがケーブルを慰める、この界隈では珍しくもない光景がそこには見られた。この白っぽいケーブルは移動都市を司る人工知能の外部端子であり、くねんくねんと自由に操作でき、レヴィルはぶんぶんとケーブルを上下に振るのであった。


「でもなーレヴィル。俺だって定住してる人間さんいないんだ。俺たちちびっちゃいのはお呼びじゃないって事さ」


 レヴィルを慰めるのは、四角い大地を持つ女声男口調の大地ちゃんであった。外装のカラーリングは、レヴィルが赤紫系統に対して、オレンジに近く明るめな色合いである。


「ばかばかばかばか! 何悟っちゃってるのよ。キャリアはそんなんでいいの!? このままだと私たち、このまま大きくなれずに一生を過ごす事になるのよ。人間さん、欲しくないの?」

「欲しいに決まってるだろ。俺たちの生きがいは人間さんに住んで貰う事だ。でも今の時代、上が老朽化で引退するまでチャンスなんてない。だからいつその時が来てもいいように、今はこつこつパーツを増やす段階だろう、今世界で活躍してる奴等も通った道だ」

「――ちっ。そんなんだから万年二桁クラスなのよ」

「情緒不安定だな。それに五十のレヴィルには言われてたくない」


 キャリアは慣れた風な態度で、レヴィルに対応していた。


「それで、レヴィル。住民がいないのは相変わらずだが、この前まで泥炭(スミちゃん)沢山積んでたよな。それはどっかに売ったのか?」

「うん。乾燥した泥炭(カンちゃん)にしてフィックラトに売った」

「フィックラト、か」


 キャリアの何か考えている風の態度に、レヴィルは疑問の声を投げ掛けた。そうするとキャリアが振動板を震わす。


「なあレヴィル。フィックラトの様子どうだった?」

「んー? いつもと変わらなかったと思うよ。ああでも、今回の取り引き、結構高値で買ってくれたかな」


 見える。そこには、私の交渉手腕どうよと胸を張る女の子が。


「……これは、あの噂、事実っぽいな」


 キャリアはレヴィルの態度に気を向けるまでもない態度に、レヴィルは怒る。


「ちょっとー。ここは私を褒め称えるとこでしょ! それに何を噂って。私にも聞かせなさいよ」

「あーはいはい。ええっとねー、フィックラトが最近、周りからカンちゃん買い集めてるみたいなんだ」

「は? フィックラトが私等みたいのから、カンちゃん買い集めてるの前からそうじゃん」

「レヴィル、早とちりするなよ。確かにあの巨体を支えるためには、俺たちのようなちびっちゃいのからカンちゃんを仕入れないといけない。俺たちは大きくなればなる程、自前でカンちゃん賄え切れなくなるからなあ。まあ、だから俺たちのようなのも成り上がれる可能性があるんだが」


 大地ちゃんの主な燃料は、この地表を覆う苔ちゃんが生み出した泥炭ことスミちゃんだった。だが、採掘したばかりのスミちゃんは、多くの水分を含んでいる。そのため、乾燥した泥炭ことカンちゃんにしてから燃料として使用しているのだが、乾燥させるには特に手を加えない、自然に任せた方が最終的なエネルギー収支が最も良かった。つまり天日干しだ。

 天日干しは干すスペース確保が必要なわけで、干す面積は長さの二乗に比例し、重量は三乗に比例するため、大きい大地ちゃん程干す面積比率を増やす必要がある。だが、人の生活面積まで侵食するわけにもいかず、大きな大地ちゃんは、周りからカンちゃんを買っているのだ。代わりに小さな大地ちゃんは、消耗品や外装部品を手に入れる、それが大地ちゃん同士の基本的な取り引きの一つだった。


「それで、フィックラトなんだが、最近はいつもより多く買い集めてるらしいんだ。これはひょっとしたら、転地するんじゃないかって話なんだ」

「ええ〜なんでー! 私のお得意さんだよー」

「理由は単純、『デッドライン』だよ」

「……ばばあめ」

「経済封鎖されるぞ」

「ふんだ。これだから足腰の弱いばばあは」

「まあ仕方ないだろ。俺たちは大きくなればなる程、諸々の効率が悪くなる。だから俺たちより早くデッドラインが来るんだよ」


 同じ場所からスミちゃんを掘り続けたら周りがどんどん窪んで、窪みから抜け出す力が足りなくなる。その限界勾配の事をデッドラインと呼ばれている。

 基本的に地盤はスミちゃんで固くないから、鉱石の露天掘りのように螺旋状に移動路を確保できないのだ。


「――なるほど。キャリアもフィックラトをばばあだと否定はしないと」

「あっ、きったねえ」


 そこには、小憎らしい光を発するケーブルと、少し怒ってる風に光を発しているケーブルがいた。


「……こほん。フィックラトはこの辺でも大きな大地ちゃんだからな、時代が動くぞ。この流れに上手く乗ったら、将来に対して大きな前進だ」

「フィックラト。大地面積は二万人クラス。人口は十一万人」

「くぅ! 改めて聞くと俺たちの足掻きが馬鹿馬鹿しく思える成功者だ」


 大地ちゃんの大地面積と人口は、比例関係にはない。

 大地面積は、食料ベースで決まり、レヴィルの五十人クラスというのは、大凡五十人を賄える量の食料を生産できるというものなのだ。

 人口は、周囲との関係性と住民の主産業が大きく寄与している。例えば、貿易が盛んな場所だと、食料は輸入に頼り、それ以外のもっと集積性が高い産業が発達する大地ちゃんと、食料生産が主産業で、極端に人口密度が低い大地ちゃんが誕生する極端な事になる傾向にある。逆に、貿易が年単位でない場所では、大地面積のクラスと人口が近くなる傾向にある。

 住民を求める大地ちゃんたちの本質的欲求は変わらないが、その嗜好は様々というわけだ。


「ただ、そんな成功者だからこそ次の移動先も豊富なスミちゃん地しかない。きっと『モスアニマル』と戦いになるぞ」

「モスアニマルって事は、人間さんも動く?」

「動くだろうな。俺たちは一部の区画を除いて非武装が原則。基本防衛運動以外はモスアニマルに対して無力。モスアニマルには人間さんが対処する規則になってるしな」


 モスアニマルとは、苔ちゃんが惑星を覆った後に誕生した超生物たちだ。苔ちゃん、もしくはスミちゃんを食し、あるものは苔ちゃんのカーペットを滑るように走り、またあるものはスミちゃんの海を泳ぐ。

 モスアニマルは既存種の突然変異型と遺伝子操作型、両方のミックスを起源とする動物たちで、大きさは豆粒のようなものからビル位のまで様々だ。そしてその生態も様々。中には縄張り意識が非常に強いモスアニマルもおり、場所をめぐっての生存競争となるのだ。


「人間さん、死んじゃうかな……」

「……言うなよ馬鹿ヤロー。世界を覆った苔ちゃんの中を生き残る超生物。戦力を見誤れば、俺たち以外残らない可能性もある」

「友好的有機物殲滅状態。最悪の大敗」


 友好的有機物殲滅状態。それは、モスアニマル以外の動植物が全ていない状態をさす。

 モスアニマルは惑星全ての生態系を破壊した怪物、苔ちゃん時代の申し子。怪物を食らう怪物。移動都市なしでは生きてはいけないその他動植物とは、一線を画す存在であった。


「最悪の大敗は滅多にない。それより不景気で滅びる方が多い。フィックラトが転地宣言をしたら、そのお手並み拝見するとしよう」

「えっ、手伝わないの?」

「俺はお前と違って自由気ままに移動してないんだ。大地ちゃんから大地ちゃんへのコンテナ大地ちゃんだからな。今も数十人単位で人間さん乗せてるけど、いくつか大地ちゃんに寄れば人間さん総入れ替えになる。出会いと別れ、それがコンテナ大地ちゃんの宿命さ」

「むー。いいもん! 私はフィックラト手伝って先に大きくなってやるんだから!」




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