プロローグ
世界は緑に覆われ、のちに赤に染まった。
遺伝子操作が産んだその怪物により、惑星全ての生態系を破壊された。
その旺盛な繁殖力と高速サイクルによる炭素固定能力は、化石燃料の一つを、利用する以上の速度で自然に再生するエネルギー、所謂再生可能エネルギーまで押し上げた。
その怪物の名は、通称苔ちゃん。
地表は苔と泥炭に覆われ、泥炭火災は頻発し、人は地表を追われた。地表を離れた人の次なる定住地は、泥炭をメインエネルギーにする移動都市。
移動都市は長い年月を掛け、泥炭求めただ流離う移動都市から、人工知能により全てを制御された自立移動都市へと進化していった。
自立移動都市は、金属の脚に支えられた大地と頭脳体を合わせて、通称大地ちゃんと呼ばれ、人はその上で暮らしていた。
ところどころ剥がれた緑の地表がどこまでも続いていた。
その地表には様々な大きさ、形をした大地が歩いていた。大地ちゃんだ。
大地ちゃんたちは、四角い大地に四本や六本の脚がついたもの、円形状、三角等。そしてその大地の上の様子も、数多くの高層ビルが建ち並ぶもの、田畑が大地の大半を占めるもの、コンテナを山のように積んでいるもの等様々だった。
その中に、円形状の大地に、中心部に突き抜ける大きな一本脚を持つ大地ちゃんがいた。
大地面積は五十人クラスという、大きめなスタジアム位の小さな大地ちゃんだ。黒っぽい土の地面が大半を占めるその大地ちゃんは、ゆっくりと遥かに大きな万人クラスの大きな大地ちゃんへ進んでいた。
小さな大地ちゃんが十二本の脚を持つ大きな大地ちゃんへ近づくと、間延びした女の子の声が聞こえて来た。
「こーんにちは〜」
小さな大地ちゃんから発せられた声に、大きな大地ちゃん側面から細長いケーブルらしきものが下りて来る。ケーブルらしきものは意思があるように、くねくねと小さな大地ちゃん近づくと、女性の声が聞こえて来た。
「こんにちは、レヴィル。本日はどのような御用でしょうか?」
大きな大地ちゃんから伸びるケーブルらしきもの先には、小さな大地ちゃん、レヴィルの中央の柱から伸びるケーブルがあった。
「カンちゃん売りに来ました。買ってください」
元気な女の子の声が質問に答えた。
そうすると互いのケーブルの先が高速で点滅を繰り返す。
しばらくすると、
「はい、取り引き成立です。搬入完了まで三時間程掛かります。それまでにはこちらもお求めの品を御用意できるでしょう」
取り引きが終わると大きな大地ちゃんのケーブルは引き上げて行き、今度は重機、大きなバケットつきのホイールをつけたベルトコンベアが下りて来た。
その重機はレヴィルの大地まで下りて来ると、ホイールが回転を始め、次々と黒っぽい土の運搬して行くのであった。
三時間経つ頃にはレヴィルの大地はすっかり低くなり、違う色の土が散見するようになった。
「搬入作業は完了しました。では、こちらをお受け取りください」
重機は撤収し、入れ替わるように今度は、クレーンによりコンテナが下ろされ始めた。
「あの、フィックラト。もう一つのお代、移住希望者は募って貰えましたか?」
コンテナが下ろされ始めると、レヴィルのケーブルはいそいそとした様子で大きな大地ちゃん、フィックラトに声を掛けたのだった。
「はい。私には現在、約三千人が移住希望申請を出しています。申請者全員の端末にはレヴィルの情報は送信済みです」
「それで――私への移住希望者は?」
見える。そこには、指を組んで祈る姿をしている女の子が。
「はい。レヴィル、貴都市への移住希望者は現在――零名です」
緑の大地を進む円形状の大地ちゃんの後ろ姿は、数時間前に比べて煤けて見えるのであった。
なんかふっと湧いた。
本作も不定期更新です。