凸凹《でこぼこ》
俺は丈夫だ。
ケガはすり傷程度だし、まして、病気にかかったことなんてない。
当たり前だ。俺は強い。
喧嘩で負けたことはないし、車にも勝る。
こんな俺が病気やケガに音を上げるなんざ馬鹿げているだろ?
俺の体は頑丈だ。
だが、この強すぎる身体とバランスをとるかのように、神は僕の"こころ"を、もろく作ったんだと、そんな気さえするほどに僕は臆病だった。
みんなが僕を怖がり蔑み嘲るのがわかる。
僕は人と話さなくなった。
そう。俺は、もともと人が嫌いだったからな。そのはずだ。そうしておこう。
世界は多少小さくなったけれど俺は安全を確保できたわけだ。
フッ…さっすが俺、なーんて思う。
なかなか馬鹿だろう?
いいのだ。俺はこれで。
いいのだ。これが俺で。
今日も僕を特別とみなす目が俺をみる。
もう、いいだろう。
放っておいてくれ。
俺は視線を感じる方角を睨みつけた。
これで目から解放される。
いつもそうだ。今日もそのはずだった。
目はまだ俺から離れない。
そんなはずはないだろう?悪名高いこの俺が睨んだんだぞ?
あぁ。そうか、あの目は俺を越えたその先をみているのだな。
僕は馬鹿だ。
考えすぎなのだ。
でも、次の日も、その次の日も、そのまた次の日も、目は俺をみた。
なんなんだ。一体。
罰ゲームでもやらされているのか?
よし、裏で糸引くやつを視線で凍りつかせてやる。
俺は視線をたどった。
あー、いたいた。
絶対あいつだ。
路上に突っ伏したそいつは稀にみる逃げも隠れもしない系不審者。
正直関わりたくないが、背に腹はかえられぬ。
「おい」
俺はそいつに好戦的な態度で臨んだ。
…けど、しまった。
僕は今、自分が自分のコミュ障っぷりを忘れるほど人と関わっていない。
ヤバい。
どうしよう。
何か言わないと
「……あの………こっち見んな…で…ほしいです…」
あぁ、俺から僕が滲み出てる…
泣きたいっ
「あ!!!うさぎじゃん!!!」
⁉︎
突然発せられた声
ん?、ん⁇
ちょっと意味が理解できない。
とりあえず俺は人間だと主張したい。
だが不審者は続ける。
「びっくりびっくり!え?なに?気づいてたの?気づいてたの⁇いやー気づかれてるとは思わなかったな〜ってか気づいてたなら早く来てよ!!!あ、自己紹介が先だよな。俺は健太郎!お前は椿だろ?ちゃんと名前書いてあったからな〜知ってるわけよ。あ、そうだそうだ。ハンカチ返そうと思ってたんだった。いやごめんね!ハンカチ落としたの見てて返そうと思ったんだけど、その時はハンカチ拾った拍子にちょっと骨折しちゃったwそしたら見失ってさ〜本当に申し訳ないwwそれから何度も返そうと思って探してたんだけど、毎日何かしら汚しちゃったり怪我しちゃったりで返せなくてさ〜今日はコケた!!!ハンカチは泥まみれだし、足くじいたし、膝擦りむくし、この感じはまた骨にヒビ入ったなーってくらい手が痛い。というわけで病院に帰るわwじゃ、また明日持ってくるからさ!今日もごめんまた返せないや!じゃあね!」
僕は火星語が聞こえてくる現実から目を背け、先週失くしたうさぎのハンカチの存在を思い出していた。
実は、長編作品を書こうと思った時に書いて挫折した始まり部分だったりします。
続きが気になる!なんて言ってもらえたら嬉しいことこの上ないです。
ご覧いただきありがとうございます。