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腐女子異世界見聞録(改)  作者: 宵月
〇一日目〇
5/6

ご飯からの気付き



 手を合わせていただきますをして、食事に手を伸ばす。


 今日のメインはルートさんが言っていた通り、ブラウンシチューだった。大き目サイズのごろごろとした具材に、濃厚なのに舌触りが滑らかなルー。


 野菜は地球でも見慣れた物と、少し違う物が半々といったところか。じっくり煮込まれている野菜はしっとりとしていながらも、程よく感触を残し。お肉も旨味がぎゅっと詰まっているのに、ほろほろと解ける柔らかさ。もう、美味しいとしか言えない。


 ついで手に取ったパンは、握り拳より一回り大きいフランスパン。何を隠そう、私はベーカリー部門所属の、パンに並々ならぬ愛を持つ女だ。……ごめん、ちょっと自分でも今のはよく分からなかったわ。まぁ、それはそれとして。


 小麦の香ばしい匂い、噛めば噛むほど感じるほんのりとした塩気と甘み。そのままでも十分美味しいのに、シチューを浸すと相乗効果でもっと美味しい。さっきから美味しいしか言ってない。語彙力どこ行ったの。


 箸休めに軽くよそられたサラダ一つとっても、油断ならない。


 シャキシャキ食感の瑞々しい葉野菜はレタスっぽくて、散りばめられたカラフルなミニトマト。地球で見た覚えの無い色合いをしているけど、食べたら地球と同じようにトマトで安心した。紫はまだしも、青いトマトの衝撃は凄い。日本的表現で、緑を青って言ったりするけど、そうじゃない。本気の青。


 ドレッシングは酸味がアクセントになったシーザーっぽいので、上にぱらっと散らされた黒胡椒がお洒落だし味を引き締めてるしで、バランスの取れた味だ。


 食事は始終和やかだった。


 気遣い抜群のルートさんは喋り過ぎず、かと言って無言が辛くならない程度に話しかけてきてくれる。会話の中心は主にこの世界について。一先ずは明日着る服を選ぶ基準にする為に、服装のことを聞いた。


 この国の文化では、女性が日の下に肌を晒すのはあまり褒められた行為ではなく。しかし、近年は移民や他国との貿易を積極的に行っているので、膝が隠れる長さならスカートが短くてもそんなに変じゃない。腕も同じで、肘より上が隠れているなら眉をひそめられないのだと。


 良かった……ロングスカートは好きだけど、そればっかりはちょっとなーって思ってたんだよね。


 ただ、日常的には女性にズボンは穿かれていないらしい。


 乗馬や騎士や警察などで着ることはあっても、普段は殆ど穿かれない。単純にお国柄、とのことだ。うーん。ひょっとして、ガウチョやワイドパンツの需要ってないかしら?


 スカートより動きやすく、けれどズボンよりも可愛いし脚のラインも隠せる。暫くはヴィオラさんのお下がりをお借りするとして、お金が手に入ったら布を買って作ってみようっと。ミドル丈のガウチョだったら、それこそスカートにしか見えないだろうし、最初に試すには打ってつけじゃないかな。


 魔法という摩訶不思議技術があるせいか、生活全般的にこの国はとても豊かだそうだ。


 異世界局の本部があるという事が大きく影響して、この国にはどの国よりも早く、広く、異世界の技術が普及している。それは例えば縫製に関してだったり、調理器具に関してだったり、文房具に関してだったり。


 冷蔵庫だってヒーターだって自動車的なのだってあるんだって。まじかよ。私にあと何ができるっていうんだよって遠い目になったのは仕方ないと思う。


 食後のお茶を頂いた後は、ゆっくりとお風呂をどうぞと言われたので、早々に解散した。


 流石に家人よりも先にお風呂を頂くわけには! と拒否したんだけど、ルートさんは有無を言わさぬ笑みで持って「お先に」と押し切った。……イケメンパワー怖いよ、本当にさ。


 一旦部屋に着替えを取りに戻ってからお風呂に行く。


 お風呂場は廊下との間の扉にも脱衣所の間の扉にも鍵が閉まる安心仕様である。ラッキースケベはノーサンキューですことよ。あれは可愛い女の子や男の子に起こるから美味しいんだよ、私に起こっても何一つ美味しくない。


「それにしても……」


 まさかこんな濃い一日になるとはなぁ……。


 この世界の時間も同じ二十四時間だと教えてもらった。部屋に戻った時に時計で確認した時間は、十九時だったかな。本当だったら今頃は飛行機の中、か……。


 休みは二週間で申請してシフトを作ったから、私が異世界に来た、基、失踪したのに皆が気付くのは早くて二週間後。


 SNSで繋がってるオタ仲間だったらもっと早く気付くと思う。私がタブレットを海外でも使えるように設定したのを知ってるし、イギリスの旅ツイートもするって言ってたから。


 とは言え、オタ仲間は私の住所を知っていても、実家や職場の連絡先は知らない。そうなると休み明け、出勤して来ないことを疑問に思った部門のパートナーさんから店長へ、店長から私の実家へ。そこで漸く発覚、ってとこかな。


 お店にも他の店のベーカリー主任にも、両親にも心配も迷惑も掛けるな。私にはどうすることも出来ずに、この世界に来てしまった。来てしまったものは仕方がないし、帰れないなら諦めだってつけなきゃいけない。


 個人的考えで言えば、この世界で新しい自分の居場所や生き方を見つければ良いだけの私は、楽だと思うわ。だって地球の人たちは私が無事かどうかも分からないまま、過ごさないといけないんだから。その心労は想像に絶し難いってやつだよ。


「どっちみち、これも考えても仕方ないことだよねぇ」


 お風呂で手洗いしたパンツを、部屋の入口から見えない場所にそっと干しながら大きな溜息を吐いた。


 お借りしたお風呂は高身長な人たちサイズだったから、私にはかなり大きくて極楽だった、のに。やっぱり他所様のお風呂は落ち着かんなー。友人の家のお風呂とは勝手が違うから、しょうがないことなんだけれども。


 勢いよくベッドに倒れ込み、もぞもぞとシーツを被る。


 部屋の明かりを消したくても、消し方が分からないし、その為だけでルートさんの部屋を訪ねるわけにもいかない。なので明り付けっぱなしで寝るのは許してほしい。


 というか、明日は私はどこで眠るのだろうか。ルートさんは「宿屋に移動するのも大変なので」って言っていた。つまりは、明日は宿屋、なにかしら。それとも保護局が異世界人の為に部屋を持っているかもしれないから、そこ?

 早く自分の部屋が欲しい……好きな音楽流しながら妄想して創作活動に励む、昨日の事なのに遠い昔のことに思える。なんでも良いから創作活動に触れなければ、オタクとして死んでしまいそうだ……。


 あとパン生地にも触れたい。元から二週間の休暇予定だったとはいえ、パン生地に触れる時間が空けば空くほど、作るのが下手になっていく。その為にも、この世界ですることの優先順位を考えようじゃないか。


 先ずは、衣食住の環境を整える。それと、仕事。仕事は何でもって言いたいところだけど、できればまた、パンに関わる仕事が良いなぁ。それか、食品小売り系。いやいや、折角違う世界を生きるのだから、憧れの服飾とかも良い……いや良くないな。


 さり気ないオタ使いが出来るオタグッズ作りで、手芸スキルは一般人よりあると自負している。でもそれは趣味だから良いんだわ。パンだってそうじゃない! 食べるのは好きだから休みの日に美味しいパン屋巡りはするけど、休みの日にまで作りたくはない。趣味を仕事にしてもきっと私は続かない。と、なると……。


「一、やはり理想の職業はパン屋である。二、自分の部屋を手に入れる。三、腐女子仲間を見つける……ってそうだよ! 腐女子仲間居ないとかつまんないじゃない!」


 うわーうわーそうだった! 腐女子仲間見つけなきゃ、というかというか、最優先事項忘れてたよ!



 この世界にBLは有りますか!?




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