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腐女子異世界見聞録(改)  作者: 宵月
〇一日目〇
1/6

プロローグには明るすぎる

「おぉ……これって噂のアレか……?」



 予想外の出来事に遭遇した時にこそ、本当の性格が分かると言う。もしそれが事実だとしたら、私は相当呑気な性格か、楽天家なのかもしれない。有り得ない事が起こった。それに対して慌てるでも騒ぐでも無く、冷静に状況を把握しようとし、尚且つそれを楽しむ自分が居る。落ち着いているというよりは、楽天家の方が近い気がする。


 一先ずは状況把握と整理をしようと、傍に運良く? 丁度良く? 置かれている大きな樽に隠れる様にしてしゃがみ込んだ。膝の上で抱えた鞄に顎を乗せ、樽からそっと覗き込んだ大通りらしき道には、異国情緒溢れる建物に人々。


 そう、例えるならば近世ヨーロッパみたいな街並み。

 道は今居る裏路地も含めて綺麗に石タイルが敷かれ、建物もイギリスはロンドンみたい、と言ったら上手く伝わるだろうか?街を歩く人々の服装も近世ヨーロッパにとても近い。女性はあまり肌が露出しないスカートやワンピーススタイル、男性はスーツや燕尾服みたいなスタイル。偶にバッスルスタイルのドレスを着ている婦人も居る。


 それに対して自分の服装の違和感たるや!これから十二時間に及ぶ長時間フライトに備えて、社則に違反しない程度に染めた焦げ茶色の髪の毛はシュシュで無造作に一本縛り。服も首元がざっくり開いた薄手のニットにアンダーでブラカップ付きのタンクトップ、プチプラ万歳なロープライスで買ったパンツはストレッチ性抜群のデニムだし、靴はレース柄のスリッポン。しゃがみ込んだ隣には新品ピカピカの大きなスーツケース。


 えぇ、ワタクシ立派な二十一世紀を生きる現代人ですの。


 いや、本当。これがね、私が旅行先に選んだイギリスだって言うなら百歩譲って納得するけど、私はついさっきまで一人暮らしをしているアパートの玄関に立っていて、本社の人事と地区担当人事の両方から「有休が溜まり過ぎなんだけどどういう事なの? 馬鹿なの? 二週間は出勤してくんなよ!」って言い渡されたのを良い事に、高校時代からの友達のコネを使って初海外旅行に行こうとしていた所なんだけど。


 まだ玄関に鍵掛けて振り向いただけなんだけど。空港にすら着いて無いんだけど。私の家の玄関は何時の間に似非近世ヨーロッパに直通になったの。そんなの聞いてないんだけど。


 大きく吐き出した溜息は驚く程軽い。深刻さが足りないと我ながら呆れてしまう。


 顎を乗せたままの鞄から引っ張り出したスマホさんは当たり前の如く圏外。タブレットも同じく。そこで手に取るはフライトのお供に選んだお気に入りの文庫本。


 タイトルは『異世界で嫁入り修行』という、まぁ内容はタイトル通りの女の子が異世界で嫁入り修行をすることになった、ドタバタラブコメディ。笑えて泣ける、個人的今季ナンバーワンの小説……! っていうのは、うん、余計な情報だったね。


 さて。そろそろ状況整理第一弾を終わりにしようか。

 私の名前は秋野 聖良。某鼠が王国を築いている県で生まれ育った二十三歳。職業はスーパーマーケットの正社員。この間昇格して部門主任なる大役を仰せ付かった。恋人は無し。趣味は幅広くオタク。それも腐女子と呼ばれるジャンルが主食の。


 最近の悩みは二十三歳ってもう女子じゃないよなぁ……でも店のパートのおばちゃんや先輩社員達からは女の子って言われるしまだまだ女子……? いやいや、やっぱり世間的にはもう女子じゃない? なんていうどうでもいいこと。


 両親は健在だし、唯一の姉妹のお姉ちゃんは数年前に結婚して今も旦那さんとラブラブ。会う度にキャラメルに砂糖をまぶして蜂蜜で塗り固めたのを食べさせられている気分にさせてくれる、それはそれは素晴らしいお姉様。



 そんな、平凡というか、どこにでも転がってそうな普通の腐女子の私は……どうやら異世界に来たようです。




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