魔族と歩む世界を目指して
正面の扉と側面の窓を開け、蒸気を追い出して仕切り直し。
今度はクーニャもヒナの隣に立たせて出席させる。
「……」
衛兵たちも元の場所まで下がらせて段下を見下ろした。
「え、えっとぉ、ですね」
ルイーザ王女が本日何度目か分からない冷や汗を流す。
(コイツ、結構損な役割してるよな)
「続けるぞ、会談を」
「え?よ、よろしいんですか?」
「あの程度、単なる茶番だろ?」
エスメラルダ王女がどエラい顔で睨んでいるが構ってやるものか。
「……繰り返すがクーネルは魔族だ」
「はい、わかっております」
「それでもオレたちと話を続けるか?」
「ええ、もちろん。先ほどは仲間が失礼いたしました。申し訳ありません、我々はここ最近魔族と争うことが多かったもので」
「こっちに残っている古い魔族とクーネルは関係ない」
「はい、申し訳ありませんでした。クーネル姫殿下、でよろしいでしょうか?」
ルイーザ王女は再びクーニャに向かって手を差し伸べる。
(なぜだ。なぜこの女はこんなにもあっさり魔族を受け入れる。ヴァルチェスカの元で「魔族は世界の敵」と教えられ続けていたのではないのか?)
人間にゴキブリは益虫だから殺すなと言って従うか?同列に扱いたくはないが、竜からしたら似たようなものだろう。
そこに居るから殺す。
それが当然で、常識で、当たり前だ。
空は青い。
火は熱い。
夜は暗い。
そんな自身の価値観が、思考の基盤がひっくり返る。
それなのになぜ、目の前のレッドドラゴンは、ヴァルチェスカの血を継ぐ少女はこんなにもあっさりと考えを変える?
「な、なぜだ。……なぜそんなにも容易く俺たちを受け入れる?お前達真祖にとって魔族は敵だろう?滅ぼすべき悪だろう?」
オレは尋ねずには居られなかった。
散々本国で教育を受け、旅の間も魔族と争っていたと言うのに、なぜ。
ルイーザ王女がその赤い視線をクーニャからオレへと向ける。
「……確かに。魔族は敵で滅ぼすべき相手だと教わってきました。祖母は今も魔族を憎んでいます。……そして、今まで争ってきた魔族たちはわたくし達にとって明らかな敵でした」
そう、それが世界の常識だ。
古い魔族たちのやったことを知れば誰だってそう思うだろう。
「しかし、わたくしは知っています。わたくしの知っている事が世界の全てではない事を」
(王女とはいえ出奔した身、国の中に留まっているだけの、居心地のいい場所にふんぞり返っているだけの竜とは違う、と言う事か?)
「……わたくしは以前、人間も蔑む対象だと教えられそう振舞ってきました。人間は愚かで弱いと、見下し続けていました」
ルイーザ王女は不安そうに背後を振り返った。
レーゲンハルトが頷くのを確認して、再びこちらを向く。
「ですが1年前、本国で起きた騒乱の折、わたくしはハルト君に助けてもらいました」
1年前……報告にあったクーデターだ。
「姉様もおらず、マリアも攫われて、わたくし1人ではどうしようもありませんでした。でもハルト君とエルちゃんは出会ったばかりの私を助けてくれました。真祖であるわたくし1人では出来なかった事です」
自分たちより劣っていると思っていた人間が、自分にはできない事をやった。
助けてくれた。
それは確かに驚く事かもしれない。
(だが、それだけで価値観が変わるものか?)
オレはレーゲンハルトの方へ視線を向ける。
(やはり警戒すべきだな。この人間は)
「ですから、わたくしは『魔族』を受け入れますの。あなた方のおっしゃる『古い魔族』は未だ敵だと思っています。しかしクーネル姫殿下が関係ないというのであれば、わたくしはそれを信じます」
ルイーザは3度手を差し伸べる。
オレが目指す未来。
魔族であるクーニャが大手を振って歩ける世界をつくる。
征服ではなく、和解を持って平和的に。
ルイーザ王女やその仲間、各国王女と人間と友好関係を築く事はオレの目指す未来に繋がっている。
目指す未来がそこにある。
だけど。
いいのか、これで。
「タイガちゃん……?」
クーニャが許可を求めて目線を向ける。
ヒナは静かに見守って、オレの答えが出るのを待っている。
(ちっ、我ら竜魔族の悪い癖だな)
謀略を巡らせ、相手を貶める。そして利益だけを掻っ攫う。
それが我ら竜魔族が生き残ってきた処世術。
信じれば裏切られる。
それがオレ達の常識。それがオレ達竜魔族にとっての世界の姿だ。
(だが、ルイーザ王女は己の常識を変えるという決断をした)
元々柔軟な気質はあったのだろう。まだ幼いというのもある。
それでも一国の代表として会談に臨み、双方の利益のためには「魔族は世界の敵」という常識を変える必要があると判断し、それを行なった。
(後手に回ってばかりで恥ずかしい限りだが、……今度はオレの番、かな)
「クーニャ」
「うん」
オレはクーニャの頭を撫でて背中を押す。頷いた彼女は一歩前に出て、手を差し出した。
「えっと……」
「よろしくお願いします、クーネル姫殿下」
レッドドラゴンと魔族、1000年以上争っている種族の手が重なる。
「う、うん」
人見知りの傾向があるクーニャは、おっかなびっくり握手に応じる。一応姫としての自覚はあるのでオレの背中に隠れたりはしないが、オレの服を掴む手に力が入ったままだ。
(あまり他人のことは言えないか)
大人の人間不信は「人見知り」と同義だろう。そこに大層な理屈をつけているだけだ。
「これでようやく会談の始まりかな?」
「そうですね~」
レーゲンハルトの声にヒナが応じている。
ヒナはあくまでギスギスした空気がようやく落ち着いたのを感じて、場を和ませようと応じただけだ。
しかし妙に腹立たしい。
(あの人間、ヒナまで篭絡する気か?)
それだけは絶対に許せない。己の「人間不信」を感じて再び自己嫌悪しそうになるが、それとこれとは話が別だ。
(まあいい。今は会談を進めよう。狭量だと思われるのは癪だしな)
「では、どこからお話ししましょうか?」
クーニャとの握手を終えたルイーザ王女が再びこちらを向いた。手振りでクーニャをヒナのところまで下がらせて、オレが応じる。
「そうだな。まずはヴァルチェスカが領国侵犯を行った理由に見当はついているか?」
我々にとっての最大の懸念事項だ。場合によっては軍隊を向ける必要がある。
「普通に考えれば『魔族の討伐』だと思います。ここ数年各国において発生した、魔族による騒乱の折には必ず姿を見せているようですし」
「ふん、そうだろうな。……この国でも何か起きると?」
「確かに、そう考えるのが妥当でしょう」
ルイーザ王女の答えに違和感を覚える。
「ん?何か心当たりでも?」
「推測だけですが……」
言ってもいいかな、というような上目遣いのルイーザ王女。
(コイツ……場慣れしてるというか、年齢より大人びてるくせに、ときどき普通の町娘みたいに……)
「いや、いい。言ってくれ」
「……わかりました。えっと……実は騒乱時に姿は現すのですが、その……魔族を倒すことよりもその後に何かあらしく……」
「後?」
「はい。その……母も関わっているらしくて」
マグナ・サレンティーナの異色の姫ヴェロニカ。
ルイーザ王女とヴィットーリア王女の母親で、ヴァルチェスカの1人娘である。本来ならヴァルチェスカの次はヴェロニカが女王の座を継ぐはずなのだが、娘のヴィットーリアに丸投げして姿を消した。
噂によると研究者という立ち位置らしいのだが、適材適所というやつなのだろうか。
「それはまた……、最初にそこまで言われていたら他の4人はともかく、ルイーザ王女を返すわけにはいかなかったな」
先代女王とその娘が行動を共にしているとすれば国家ぐるみと捉えるのが普通だ。おまけにその末裔のルイーザ王女までこの場に居る。
「申し訳ありません。それでもわたくしたちは……」
「ああ、それはいい。狙いさえ分かれば潜伏場所もわかるかと思ってな」
「あ、それでしたら……」
「ヴァルチェスカの居場所なら知っているよ?」
ルイーザ王女の答えをクーニャが遮った。
「は?なんでクーニャが知ってんだよ」
「アガリエちゃんが教えてくれたよ?」
「そ、そうか……」
さっきクーニャが転がり込んできたのはそこまでの情報が分かったからか。
そしてまずい。
諜報部がそこまで知っているということは当然、親父にまで情報が回っているということだ。
(既に軍が動き始めている可能性があるな)
一歩間違えれば全面戦争だ。
クリカラ首長国連邦とマグナ・サレンティーナ共和国との戦争ではない。
暗黒大陸・竜王同盟と西側4か国の世界大戦である。
「場所は?」
「「はじまりの谷」です」
クーニャとルイーザ王女の声が重なる。
別名「魔族の谷」、「常夜の谷」……この国の東に位置するタンバ山脈の中腹にある深い谷だ。
周りを2000メートル級の山々に囲まれている為、1日中、いや年間を通して光が当たらない。
そのために木が育たず、低い苔のような草がちらほら群生しているほかは、むき出しの岩肌が目立つ寒々しい光景が広がっている。
そして、かつて魔族がこの世界に侵攻した際に通った場所だとも言われている。
「あそこか……」
一応国家が直接管理している場所だが、立ち入り禁止指定しているだけで警備員を配置しているわけでもない。とある事情で意味がないし、財宝があるわけでも、資源が眠っているわけでもないからだ。
ただ暗く長い洞窟が口を開いているばかりである。
かつて親父が修業の場として使っていたらしいが、俺は未だ攻略したことが無い。
「それで?ルイーザ王女としてはどうしたい、と?」
「はい。先ほどもハルト君が申し上げましたが、我々はヴァ、ヴァルチェスカを追っています。『はじまりの谷』へ行く許可を頂きたいと思いまして」
さすがに自分の祖母を呼び捨てにすることに慣れていないのか、びくびくしながらルイーザ王女が答える。
「ふむ……。こちらの懸念も伝えていいか?」
「ど、どうぞ」
「今回のヴァルチェスカの目的は魔界に行くことではないのか?」
「え?」
ルイーザ王女がきょとんとした顔で見返した。
視線を後ろ……、レーゲンハルトやイブティハージュ僧女に向けたが反応は似たようなものだ。エスメラルダ王女は相変わらずの睨み顔。
(青いのはともかく、「はじまりの谷」が魔界と繋がっているかもしれないという情報は西側には知られていないとみていいのだろう)
この情報は竜王同盟の中では公然の事実として知れ渡っている。その上で警備の者を配置していないのは意味がないから。強い魔力が漂っているあの場所は、魔力の弱い者や耐性の低い者が近付けば気分が悪くなるので放っておいてもほとんどの存在が近付かない。
そして魔界は魔力に満ちた世界。仮に洞窟の最奥が魔界に繋がっていたところで何かできる存在は限られている。
唯一の例外、真祖、竜を除いて。
しかしそれも「何かできるかもしれない」という程度の事だ。少なくともオレが読み漁った書物の中に竜が魔界へ侵攻したという話は出てこない。
「いやいい。道中話そう」
「道中って……同行されるおつもりですか?」
「ああ、あそこは一応国家が管理している場所だ。異国の者を自由に歩かせるわけにはいかない。国賓に何かあっても困るしな」
「ですが、危険では?その……失礼ですが武芸の嗜みは?」
「全くない」
オレが使えるのは魔法だけだ。剣だの槍だの握ったところで何の意味もない。
「そ、そうですか」
ルイーザ王女が引きつった顔をする。さっきエスメラルダ王女が暴れたときの俺やヒナの動きで前衛職ではないという事はわかったはず。せめて弓くらいというつもりだったのだろうが、それも俺にとっては木の棒と紐でしかない。
「あの……ヴァルチェスカは容赦ないですよ?」
付いてこない方がいい、とルイーザ王女が言外に言う。
「分かっているさ。だがオレも女王も後衛職でな。うちの前衛はクーニャだけなんだよ」
「その子も連れて行く気か?」
後ろで黙っていたレーゲンハルトが口を挟む。
「そのつもりだが?」
「しかし……」
ちらりと窺うのはエスメラルダ王女。当然彼女も同行する。旅の途中で寝首を掻かれないかという事だろう。
「そうだな……」
オレはそんな怒れるブルードラゴンの姫君に近づいて片膝を突いた。
あくまで視線を合わせるためだ。
「エスメラルダ・バーケンティン殿、魔族の血を引くものとして謝罪する。貴女の家族に対して行なった悪行を俺も非難する」
「お前に……お前に何がわかるっちゅーんじゃっ!!」
我ながら白々しいと思っていたから、エスメラルダ王女の怒りはもっともだ。
こんなうわべだけの謝罪で伝わるわけがない。
言葉だけでは怒りが治まらないのか、掴みかかりそうになったエスメラルダ王女をイブティハージュ僧女が止める。
「確かにわからない。俺やクーニャが関わっているわけではないからな」
「ぐっ……」
苦々しい顔でそっぽを向くエスメラルダ王女。
そう、俺たちは関わっていないのだ。知るわけがない。
エスメラルダ王女も本当のところは分かっているはず。さっきレーゲンハルトが言った「八つ当たり」というのが図星であるという事を。
オレはそんな彼女の両頬に手を当てて無理矢理自分の方に向けた。
「だが約束しよう。オレは、オレ達はエスメラルダを裏切らない」
「うえっ!?」
なぜか顔を真っ赤にした王女はオレの顔から視線を逸らす。
「オレの目を見ろ。声を聞け。オレもクーニャも、お前を傷つけたりはしない。お前を悲しませたりはしない」
「そ、そないな事信じられるわけ……」
「信じなくていい。今は、な。これから一緒に『はじまりの谷』へ行く。そこに着くまでオレ達を見てくれ。お前の家族を苦しめた連中と同じ魔族なのかを。そしてその上でまだオレ達が憎かったら、その時は殺せばいい」
「……いいの?」
「あん?」
「うち、すぐにカッとなるきん……」
「そんときゃ、後ろのお姉さんが止めてくれんだろ?できれば旅が終わるまでは手出さないでくれ。……頼む」
「わかった。でも、もしものときはちゃんと避けるんじゃよ」
エスメラルダ王女がそっぽを向きながら呟く。
(おまえが言うな、という感じだが)
「まあ、頑張ってみるよ。エスメラルダ王女」
「メラルダでいい」
「え?ああ、呼び方か?」
「うん、タイガ……様は仲間になったんじゃきん……」
「ありがとう。……オレもタイガでいい。仲間、なんだろ」
「う、うん……」
(我ながら意地悪だな)
俺は踵を返して元の場所に戻りながら自己嫌悪した。
魅了魔法。
相手の目から自身の魔力を叩き込み、誘惑する基礎的な魔法だ。
真祖相手にこうまで効果があるとは思わなかったが、それも時間の問題だろう。おそらく明日には元通り。
それでも「旅が終わるまで手を出さない」という言質はとった。
「さて、では具体的な打ち合わせと行こうか」
「はい」
ルイーザ王女が頷き、さっきまで後方に控えていたレーゲンハルト、エルフリーデ王女、イブティハージュ僧女、エスメラルダ王女が近寄って来て輪になる。
「まず、出立は明日でいいな?」
「そんなに早くでいいのか?」
レーゲンハルトが驚いた顔で言う。
「ヴァルチェスカの所在は既にこっちの諜報部が握っている、当然代表首長まで情報は回っているだろう。つまりモタモタしていると軍が動いて国際問題になる」
「竜人部隊にヴァルチェスカ様がどうにかできるとは思えんのじゃ」
「お婆様が倒されるかどうかは問題じゃありませんの。国家の代表と国の軍が衝突したという事実が周辺国に知られてしまえば戦争という形を取らざるをえない、という事ですのよ」
(……『ですの?』ルイーザ王女はこの喋り方が素なのか)
さっきまでの敬語はあくまで謁見用という事なのだろう。
「つまり時間がない。軍とヴァルチェスカが接触する前にオレ達が解決する」
「それなら今すぐ向かった方がいいんじゃないかい?」
「道中の宿所の位置を考えると今出ても意味がない。今日中に準備を整えて明日の未明に出立するのが効率がいいはずだ」
クリカラ首長国連邦は山が多い。
海沿いを行けば町や村などかなりあるが、軍本隊より早く到着しなければいけないので、今回は大陸の中心を抜けるルートを使う必要がある。利用者が少ないので宿所は限られている。
さらに軍本隊とは別行動のため、城の馬車は使えない。
(多分2、3日でバレるだろうけどな)
そして飛んでいくには距離が離れすぎている。1日くらいならなんとかなるが一週間近く飛び続けることは不可能だ。
「まずはここ。ハコネまでは馬車で2日、それからフジノミヤまで徒歩で3日、そこからは……」
詳細までは決められないので簡単な予定だけを決めて今日は早めに休むことにした。
姫たちにはそれぞれ客間をあてがったのだが、レーゲンハルトはエルフリーデ王女と同じ部屋でいいらしい。
ほんとにあの2人はべったりだな。
そしてオレたちはいつもの勉強部屋。
「むー」
クーニャがいつも通りの不満顔で唸っている。
「クーニャ、一緒に旅に行くのは不満か?」
「そっちはいーのっ!……何であの子に呼び捨て許したのっ?」
「あの子?あー、メラルダか」
「そーだよっ!あの青いのっ!何あの変わりっぷりっ!!ぶりっ娘っ!?」
態度の変わりっぷりならクーニャも人のことは言えない。謁見の間では相変わらずの人見知りで大人しくしていたが、心中穏やかではなかったらしい。
「メラルダの態度が変わったのはオレの魔法のせいだよ」
「魔法?」
「魅了魔法。オレがあいつに目線合わせるように言っただろ?その時に……」
「真祖にそんな魔法効くわけないじゃん」
「は?」
(ちょっと待て。メラルダは俺の魔法が効いたから話を聞いてくれたんじゃないのか)
「すいません、私も見えてました~。タイガ様の魔法は~、受け流されてましたよ~」
こんな風に、とヒナの手が動く。目からこめかみを抜けて小さな角へ。そのまま髪の毛を経て背中側へと抜けたらしい。
(そうか、水棲のブルードラゴンだもんな)
水属性の魔法を使うブルードラゴンにとって水、海水はそのまま魔力に変換することのできるエネルギー源だ。小さい頃からその中を泳いできたエスメラルダ王女にとって魔力の流れを読むなんてお手の物だろう。
そもそも纏っている魔力が多いので、オレの魔力で貫けるはずもないのだ。油断さえしていなければ。エスメラルダ王女がオレの企みに気付いた様子はないし、ほぼ無意識にオレの魔法を受け流したとみて間違いないだろう。
真祖とオレにはそれだけの力量差があるということだ。
「……てことはアレ、あいつの本心か?」
「そうだよ」
クーニャが不満そうな顔で応じる。
「きっと素直な子なんですよ~。あの時クーちゃんに槍を向けたのも~、タイガ様を信じると言ったのも~、王女の偽らない本当の気持ちです~」
ヒナがクーニャの方に視線を向ける。
言いたいことはわかる。クーニャもかなり素直な娘だからな。
「む~」
「だからなんでクーニャが不満そうなんだ」
「だから……、んもうっ!いーよーだっ!」
クーニャがオレの背中に顔を張り付けて「う~、う~」唸りだす。本当に何がしたいのかわからないやつだ。
「変な事しないで~ちゃんと正面から話し合えば~、分かってくれる子だと思いますよ~」
「へいへい。……じゃあ留守は頼むな?」
「あら?私も行きますよ~、タイガ様?」
「は?」