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ユメノシマ

作者: 時邑亜希

 この島に流れついて、今日でもう何日になるだろうか。船の姿を見たことは一度もない。当然人の姿も見たことがない。


 ここは絶海の孤島。あるのは豊かな自然と貴重な生態系。地上最後の楽園と呼ばれてもおかしくないような島に私は流れついた。否、正確には私たちか。私以外にも多くのものが漂着した。国籍も様々で私は日本だが、隣にいる彼女は韓国だそうだ。向こうの彼はアメリカだと聞いている。これだけ流れついたものがいるならきっと捜索してもらえる。そうポジティブに考え、私たちは船を待つことにした。


 島に流れついて数日後。私たちは大自然の洗礼を受けることになる。生存競争。この島の動物が私たちを捕食しようと襲ってきたのだ。幸いにも私は体も大きく丈夫なのがとりえなので難を逃れたが、同じ日本出身で小柄だった男が犠牲になった。捕らえられ、啄まれ、千切られ、咀嚼され、嚥下された。正視できない凄惨な光景だった。彼以外にも体格が小さいものや、弱いものは動物たちに捕食された。いつか私たちも動物によって蹂躙されるのではないだろうか。毎日が不安でいっぱいだった。


 そんなある日、不思議なことが起こった。私たちの仲間を食べた動物が一匹、また一匹と死んでいったのだ。おそらく本来は食べることのない彼らを食べたことにより、消化できず死んだのだろう。死んでいった彼らが私たちを救ってくれた。感謝しても仕切れない。


 しばらくして、また漂流してきたものが現れた。昨晩の嵐で流れついたらしい。そんなことが幾度と繰り返され、気が付いたときには私たちはこの島でもっとも力強い存在となっていた。私たちが増えたことによりマリンブルーの海はどす黒く変色し始めていた。動植物の生態系にも変化をもたらし、東京にも見られたような生命力の強いもののみが生き残るようになってきた。この島は私たちによって塗り替えられていた。


 島に流れついて数年が過ぎた頃、ついに船がやってきた。私たちは歓喜に震えた。あきらめず、何年も迎えを待った苦労が今やっと報われようとしているのだ。国へ帰れる。私たちは全員、涙を流してその船を見つめた。



「テレビの前の皆さん! ご覧下さいこの光景を! 世界中で海に不法投棄されたゴミが海流によって地上最後の楽園と謳われたこの島に集まっているのです! 島の生態系は完全に破壊され、辺りには動物の死骸が見えます。有毒ガスが発生し、これ以上近づくことができません! まるで地獄絵図のようです。ここは、地獄の島です! 」




おわり

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