第十話『彼女と新幹線』
再び目を覚ますと暖かな温もりが感じられた。どうやら、彼女と一緒に寝たようだ。
その事実に少し顔が熱くなる。体を起こしてのそのそとベッドから脱出し、彼女に布団をかける。重い体を無理やり動かして洗面所の前に立つ。綺麗に磨かれた鏡に映る自分は何とも眠たそうな顔をしていた。
固い蛇口を捻って出てきた水を手のひらの皿に溜める。それを勢い良く顔にぶつけると、爽快感が訪れた。視界がどんどんしっかりしたものになっていく。
ぼんやりと今からしなければならないことを考える。
まず、新幹線での暇潰し。夜ご飯も。それと着替えも必要だ。リュックには一日分しか入らなかった。何日逃げるかにもよるけれど、とりあえずあと二日分くらいは用意しておきたい。
すやすやと眠る彼女は赤ん坊のように無防備で、まわりに舞うほこりが窓から差す太陽の光に照らされて、その情景を幻想的なものに仕上げていた。
「起きて。もうすぐ行くよ」
彼女は起きない。肩を揺らそうと手を伸ばすと、後少しというところから動かせなかった。さっきまで共に寝ていたというのに。
今更、何を怖がっているというのだろうか。
不気味な笑いが静寂に溶けた。
荷物を網棚にのせるようと持ち上げる。大規模ショッピングセンターで買ったキャリーバッグは以外と重く、少しだけよろめいた。
彼女はすでに席に座り、外を眺めている。その様子は絵の題材にもできそうなくらい完成されたものだった。
買い物中、彼女は気に入ったらしいタピオカジュースをずっと飲んでいた。年齢に合った趣味に思わず笑いが零れる。
はぐれるのが怖いのか、ずっと手を握られていた。
もしかしたら、周りからは――いや、そういうのを考えるのはよそう。
駅で買ったお菓子を彼女に渡す。美味しそうに食べているのを見てから、僕は暇潰しに買った本を開いた。




