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プロローグ『彼女とカサ』
空が描かれているもの。
猫が描かれているもの。
花が描かれているもの。
何も描かれておらず、透けて、人の姿が見えるもの。
綺麗な色だけで染められているもの。
たくさんの種類があり、調べてみると日本には飛鳥時代に入ってきたらしい。
それに加え、紀元前の彫刻にも見られるとか。
よってそれは、世界的に見ても昔から人々に使われてきたものとわかる。
そこまでして、僕が「カサ」に気をかけているのは何故か。
いや、前からカサは好きだった。もとより雨が好きで、カサを差すのが待ち遠しく感じていた。
カサの構造は素晴らしい。計算し尽くされているように思える。
でも、『彼女』のことは計算で求められるはずはなく。
わかりたいと思うのに。
触れたいと思うのに。
名前も知らない『彼女』に、僕の「今まで」は全くもって通用しなかった。
降りしきる雨の所為で視界が悪い。道路を走る車の音と、カサを打つ雨の音が僕の聴覚を支配する。自分の足音は全く聞こえず、声を出しても耳には届かない。
慣れ親しんだ道を歩む間――彼女の顔を見るまでにかける言葉を考える。