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大団円

ルドルフが元の世界に戻ってきてから数週間がたったある日、

学校が休みだったユキに連れられ、ルドルフは散歩に出かけていた。

こちらに戻ってきてから、ルドルフの言葉はユキに通じなくなってしまったが、

それは以前の状態に戻っただけであり、ルドルフ自身はそこまで不便に感じていなかった。


散歩から家に帰ってきて玄関を開けると、足元に見覚えのない靴が四つ並んでおり、

四人ほどお客さんが家に来ていることを教えていた。

ルドルフは何か気になったのかくんくんと靴の匂いを嗅いだ。

その直後、驚いたように顔を上げると「わんわんわんわん」と何かを伝えるように吠えた。


「吠えすぎ、うるさい。」

「・・・きゅーん・・・」


怒られてしまったルドルフは、しゅんと耳をたらし落ち込むように下を向いた。

ルドルフがなぜ急に吠えたのかわからないユキは首を傾げたが、まぁ、いいやと靴を脱ぎ始めた。


家の中に上がりリビングへ向かうと、バタバタバタと走ってくる足音が聞こえた。

それはいつも聞くユキの母親のものとは違う、もっと小さな子供の足音のようだった。

ユキとルドルフがリビングに入った瞬間、その足音の主が飛び出しルドルフに抱き付いた。


「ゆしゃまっ!」

「わうっ!?」

「ん・・・なに・・・?」


ルドルフに抱き付いたのは小さな女の子だった。この子がお客さんの一人なんだろう。

しかし、ユキもルドルフもその子に見覚えがあった。

ルドルフはすぐに少女が誰なのか気づき、「くーん」と懐かしそうに鳴いた。

そんなルドルフとは逆に、ユキは少女の事を思い出せずに首を傾げていたいた。

誰だっけ?と記憶を探っていると、リビングでくつろいでいる他の客人が目に入った。


「お邪魔しているわ。勇者サマの主サマ。」

「・・・誰?」


ソファーに座りっていた綺麗なロングヘアーの女性は、ユキの言葉が想定内だったのか

くすっと笑って立ち上がった。


「こうして言葉を交わすのは初めてかしら?私はリーティエンド、魔法使いよ。」


リーティエンドの言葉に、ユキは「あー」と思い出したように声を出してルドルフの方を見た。

彼女が名乗ったおかげで、ルドルフに抱き付いている少女のことを思い出したからだ。

ルドルフに抱き付いた少女はマリアナ。僧侶としてルドルフと一緒に旅をしていた仲間だ。


マリアナはルドルフに再会できて嬉しいのか、色んなことを話していた。

興奮しているのか、オドオドとした喋り方は変わらなかったが、言葉に勢いがあった。

ルドルフはじっとマリアナの話を聞いていた。


「ユキ、ようやく帰ってきたな!」

「お邪魔しているよ。」

「わうん!」


リビングの入り口に立っていたユキは、後ろから声をかけられ振り向くと、

よく知った人物が二人いた。よく遊びに来るジルベルトと、その保護者クルウだ。

ルドルフは驚いた表情で不思議そうに鳴き、ユキは呆れたような表情を浮かべた。


「なにこの大所帯・・・嫌がらせ?」

「違うよ!色々あってみんなでこっちに来ただけだよ!」

「色々?」

「うん、勇者を送ってフィーリシアに戻った後さー・・・」

「わかりやすく簡潔に、三行で。」

「三行!?」

「三行の意味はわからないけれど、簡潔に言うならここに来た理由は、

 リーティエンドはこの世界に興味があり、マリアナは勇者に会いたいと願ったから

 ジルが遊びに行くついでに連れてきた。ちなみに僕は保護者として挨拶に来たんだよ。」

「なるほど・・・」


大所帯で現れたので、てっきり面倒事に巻き込まれると思ったユキは理由を聞いて安心した。

ルドルフもみんなとの再会を喜び嬉しそうに尻尾を振っている。


「ん?・・・母さんは?」


四人も客人が来ているというのに母親の姿が見当たらないと思ったユキは

ジルベルトとクルウに尋ねた。


「あぁ、お前の母親なら買い物に行ったぞ。」

「は?」

「彼女、なんだか張り切っていたね。今日はお祝いしなきゃ、とか言っていたかな。」

「・・・あぁ・・・」


客人に留守番をさせるのはどうなんだ?と思いながら、

張り切っている母親の姿が容易に目に浮かんだユキはもう何も言えなくなった。


遠い目をしたユキを心配そうに見つめるルドルフは「くーん」と鳴いた。

その姿にリーティエンドが口を開く。


「本当に、この世界では言葉が通じないのね・・・勇者サマ。」

「あぁ、俺も最初は驚いたぜ。」

「それが普通なんだろうけど・・・やっぱり変な感じはするね。」


彼らにとってルドルフは、言葉が通じる犬という認識になっていたため、

この世界の喋れないルドルフには違和感を感じていた。


「あっちの世界では喋れてた。異世界限定?」

「なら、向こうに戻ったら喋るのかしら?試してみる価値はありそうだけど・・・」

「つーか、なんで喋れてたんだろ?」

「もしかしたら、勇者として選ばれた時に神族に魔法でもかけられたのかもしれないね。」

「なら、こっちに戻っても喋れそうな感じだけどなぁ・・・なんで喋れないんだろ?」


どうしてフィーリシア大陸でルドルフが喋れていたのかが気になったユキたちは、

次の休みに一度向こうに戻って確かめてみようということになった。


「ただいまー。」


タイミングよく、話が終わった頃にユキの母親が買い物から帰ってきた。

大きな買い物袋を抱えて嬉しそうにリビングにやってくる。


「あ、ユキちゃんルーちゃん、おかえりなさいー。」

「・・・ただいま、とおかえり。」

「今日は腕によりをかけてごちそうを作るから、みんなも食べていってね。」

「・・・なんでごちそう?」

「ユキちゃんのお友達が、沢山遊びに来てくれたお祝い。」

「やめてください。」

「手伝いましょうか。」

「いいの?助かっちゃうわ、ありがとう。」

「あ・・・わ、たし・・・も、て、つだい・・・ます。」


ユキの母親はリーティエンドとマリアナを連れてキッチンへ向かった。

残されたユキは、なんとも言えない表情でそれを眺めていた。

ジルベルトが同情するようにポンとユキの肩を叩く


「まぁ、お前友達いなそうだもんな。」

「今まで心配かけた反動だろうね。諦めてお祝いされなよ。」


ジルベルトとクルウの言葉に「はぁ・・・」とため息をついたユキは、

自分を見上げているルドルフを見た。

ルドルフは不思議そうに「きゅーん」と鳴いた。


「まぁ・・・こんな日も、たまにはいっか・・・」


母親やリーティエンドたちの楽しそうな声を聞きながら、賑やかな日も悪くないと思った。

そんなユキの嬉しそうな表情を見てルドルフも嬉しそうに鳴いた。


(ご主人嬉しそう。なんだかオイラも嬉しいな!)


ルドルフは、こんな日がこれからも続けばいいなぁ。と思いながら

ふと、何かが足りない気がして、あれ?と首を傾げた。


(他にも誰かいたきがするけど・・・だれだっけ?)


この場にはいないが、一緒に旅をした仲間がもう一人いた気がしたが

思い出せないルドルフは、まぁ、いっか。とすぐに諦めた。


最後の一人は戦士ローラン。彼は強いものを求め、武者修行の旅に出たらしい。

そんな話をリーティエンドから聞けたのは、彼らが帰る頃になってからだった。



この日以降、よく遊びに来るようになったジルベルト達は

ユキの両親とも仲良くなり、すっかり家族の一員のような感じになっていた。

そんな状況にルドルフは嬉しそうに鳴いた。


(オイラ、ご主人とみんなが一緒で嬉しいな。こういうのをしあわせって言うんだな。)


賑やかな家の中で、ルドルフは幸せな気持ちでユキに寄り添うのだった。



ここまで読んでくださりありがとうございました。


一応これにて完結となりますが、地下世界と天上世界に行く番外編的なものを考えています。

まぁ、予定は未定・・・



*おまけ*


ルドルフ『なんか、ローランの扱い酷くないか?』

ジル「忘れてた人がそれ言っちゃう?」

ユキ「こっちに来て、強いやつと戦わせろ、と言われても困る。」

ジル「あぁ、なんか言いそうだね。」

ユキ「だから仕方ない。」

ルドルフ『なるほど・・・』

ジル「武者修行の旅とか、彼はあれ以上強くなる気なのかな?」

ユキ「強さだけなら魔王レベル・・・次回はヤツを倒す話になるのか。」

ルドルフ『いや違うから。』

ジル「俺から見たら十分魔王に見えるけどな・・・恐怖な意味で。」

ユキ「人間離れしてるから仕方ない。」

ルドルフ『ローランが人間扱いされてない・・・』

ユキ「仕方ないね。」




ローラン「ぶえーっくしょん!!・・・なんだ?誰か俺の噂でもしてるのか?」


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