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勇者の末路

南の国ノーファと西の国ウィルパの国境にて、ガンゼル王に別れを告げたルドルフ達は

地上世界と地下世界を行き来することができる天の柱の入り口と思われる場所にやってきた。

その入口近くには、クルウが立っておりジルベルトの帰りを待っていた。


クルウがジルベルトの存在に気が付くと、嬉しそうに駆け寄ってきた。


「ジル!それにみなさんも、おかえりなさい。」

「ただいまー。すげー疲れたからもう寝たい。」

『お前、ずっとここにいたのか?』

「ずっとというか、戻ってきた魔族の人数を確認しながら地下世界に送ったりしてたから・・・

 地上と地下を何度も行き来していたかな。」

「あなたの名簿の魔族は全員そっちに行ったと思うけど、どうかしら?」

「うん、こっちでも確認したから大丈夫だよ。ご苦労様。」


クルウが労いの言葉をかけると、どっと疲れが出てきたのか全員座り込んで一息ついた。

リーティエンドは借りていた名簿をクルウに返し、そのマメさに感心と嫌味を吐いた。

ルドルフは目を閉じて今までの苦労を思い出していたが、もうすぐ帰れると思うと嬉しくて

尻尾をぶんぶんと振っては「くぅーん」と嬉しそうな鳴き声を出した。


『オイラ、これでやっと帰れるんだね!』

「あー、そうだね、おめでとう。」

「きっとユキも喜ぶよ。さぁ、君の世界に帰るといい。」

『・・・・・・どうやって帰るんだ?』


全てが終わったのだから、もう自分の世界に帰れるもんだとばかり思っていたルドルフは

ふと冷静に、どうやったら帰れるのか帰り方を知らないことに気が付いた。


「帰り方を知らないのかい?」

『知らないな。』

「この世界にはどうやって来たんだい?」

『・・・わかんない。気が付いたらピカーってなって・・・』

「そういやコイツ勇者だったな。」

「神族が予言した勇者・・・なら神族が連れてきたということだろうか?」

『なぁ、オイラどうやったら帰れるんだ?』

「そうなると、神族が君を連れて帰るのか?・・・でも彼らは地上には来ないし・・・」


ルドルフの言葉にクルウとジルベルトは腕を組んで「うーん」と悩み始めた。

2人が悩み始めたので、ルドルフは他の仲間に聞いてみようと声をかけた。


「いいんじゃないか?別に。」

『よくない!』

「世界を移動する魔法は知らないけれど、勇者って大体、物語の最後は永住してるわよね。」

『しないよっ!帰りたいんだってば!』

「・・・か、かえ・・・らない・・・で・・・」

『帰らせてください・・・』


帰る方法がわからず落ち込むルドルフ。そんなルドルフの背中をマリアナは優しく撫でた。

そんな気まずい空気の中、ジルベルトは何かを思い出したのか「あっ」と声を上げた。


「ユキにゲームを借りっぱなしだった。ちょっと返してくるよ。」

「ん、あぁ、そうだね。借りたままはよくないし、行っておいで。」


そう言って立ち上がると、ジルベルトは手をかざした。

すると、手をかざした部分の空間が歪み始め、その場所だけ別の景色が広がっていた。

初めてそれを見たルドルフ達は「おおー」と驚きの声を上げる。


「これが勇者サマの世界?へぇ・・・興味深いわね。」

「勇者の世界には強いやつっているのか?」

「・・・ふ、しぎ・・・」


三人が興味津々に空間を覗いている中、同じくそれを眺めていたルドルフが口を開いた。


『・・・なぁ、これについていけばオイラ帰れるんじゃないか?』


ルドルフの一言に、クルウとジルベルトが驚いた表情をした。

連れて行くという考えがまったくなかったらしい。二人は顔を見合わせて笑っていた。


「確かに、ジルが連れて行けば帰れるね。簡単なことなのに気が付かなかったよ。」

「じゃあ一緒に行こうか。」

『あ、でもその前に・・・』


帰れることがわかったルドルフは、すぐに帰りたい衝動に駆られたが、その前にと

仲間の方に向き直して座り、少し照れたように前足で顔をこすった。


『ローラン、リーティエンド、マリアナ、今までありがとな!』

「あぁ、俺も感謝してるぜ。勇者のおかげで強いやつと戦えたんだからな。」

「・・・まぁ、それなりに楽しかったわ。」

「・・・さみ、し・・・ぃよ・・・」

『みんな元気でな、オイラ忘れないから!』


今まで一緒に旅をしてきた、戦士ローラン、魔法使いリーティエンド、僧侶マリアナ

三人の仲間に別れを告げた勇者ルドルフは、ジルベルトに連れられ自分の世界へ帰って行った。



それは一瞬の出来事だった。


ジルベルトがかざした先に見えていたルドルフが元々いた世界の風景。

そこに一歩踏み出した瞬間、もうそこには仲間達の姿はなく、見覚えのある景色が広がっていた。


そして、目の前には見覚えのある家があった。ルドルフが異世界に行く前に住んでいた家だ。

ジルベルトは慣れたように玄関横のインターフォンを鳴らす。

ピンポーンという音が響き「はーい」という女性の声と共に玄関の扉が開いた。


出てきたのはルドルフもよく知っているユキの母親だった。


「あらジルちゃん、いらっしゃーい。」

「こんにちは。」


ジルベルトは何度かユキの家を訪ねているのだろう。

母親ともすっかり打ち解けているようであった。


「ユキはいますか?」

「えぇ、今呼んで・・・」


そう言いかけた母親の動きが止まった。視線の先にはルドルフの姿があった。


「・・・ルー・・・ちゃん?」

「ワン!」


名前を呼ばれたルドルフは返事をする。母親は涙を浮かべ「おかえりなさい」と微笑んだ。

それからすぐに、ルドルフとジルベルトを家の中に招き入れると、

母親はユキの部屋に向かって声をかけた。


「ユキちゃん、ジルちゃんが来てくれたわよー。それにルーちゃんもー。」


母親に呼ばれ、部屋から出てきたユキはゆっくりとやってきた。


「ユキ、借りてたゲームを返しに来たぞ。」

「ん・・・クリアしたんだ?早いね。」

「いや、なんか進めなくなった・・・」

「どこで詰んだ?」

「あー・・・なんか塔の鍵が開かなくて入れない。」

「・・・それ、多分・・・」

「ユキちゃんユキちゃん、ちょっといい?」

「ん?」


母親にとって、ユキが友達と仲良くしているのは嬉しかったが、今回はそれよりも

ずっと行方不明だったルドルフに早く気づいてほしかった。


「ほら、ルーちゃん帰ってきたのよ。やっと帰ってきてくれたのよ!」


母親にとっては、ようやく再会できた大切な家族であったが、

ユキは異世界で再開していたため、いまひとつ感動が薄かった。

しかし、帰ってきたことに嬉しくないわけでもない。

ユキはルドルフの所まで行き、頭や体を撫でた後、以前外れた首輪を再び付けた。


「・・・おかえり、ルー。」


小さくだがそう言って微笑んだ主に、ルドルフは嬉しそうに鳴くのだった。



勇者ルドルフのフィーリシア大陸の旅はこれにて終了となります。

お付き合いありがとうございました。


・・・と言いつつ、もう少しだけ続いたりしますw



*おまけ*


ソルマン王「勇者と仲間たちによって、この地上に平和が戻ったようだ。」

神官ハーユ「報告によると自分の世界に帰ったとか、お礼も言えず残念です・・・」

ソルマン王「うむ、だから感謝の気持ちを忘れぬために、この国に勇者の像を立てようと思う。」

神官ハーユ「・・・像・・・ですか?」

ソルマン王「デザインはもう出来ておる。これだ!」

神官ハーユ「・・・これ、人のように見えますが・・・?」

ソルマン王「うむ。勇者っぽいであろう!!」

神官ハーユ「・・・勇者ルドルフは犬ですよ?」

ソルマン王「犬の像では勇者っぽく見えぬからな、だからこれでよいのだ。」

神官ハーユ「・・・(いいんでしょうか?)」


こうして、誰だかわからない勇者っぽい人の像が建てられるのであった。



*****



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