ノーファ城にて休養中
ガンゼル王とローランに担がれ、ノーファ城へ最短ルートで向かっていたルドルフ達は
尋常ではありえない速さでノーファ城へとたどり着いていた。
「・・・ありえない・・・あのルートを通っても、せいぜい7日はかかるはずよ・・・
なのになんで3日で着くのよ・・・休憩という休憩も取らずにありえないわよ・・・」
ぐったりとした様子のリーティエンドは、ベッドの上でブツブツとそんなことを繰り返していた。
彼らは道中のオアシスで水分補給はするものの、休憩はせずに歩き続けていたのだった。
運ばれていただけのルドルフ、リーティエンド、マリアナ、ジルベルトだったが暑さに体調を崩し
城に到着するやいなやベッドに運ばれ寝かされていた。
もちろん、ガンゼルとローランは砂漠横断後も何事もなくピンピンしていた。
そんな二人にルドルフは「化け物か・・・」と思い、ジルベルトは「人族ってこんなだっけ?」と
自分の記憶に疑問を抱くのであった。
「みなさん具合はどうですか?」
ルドルフ達が寝ている部屋に一人の背の高い女性が入ってきた。
ガンゼルと同じ褐色の肌を持つ短髪の女性、彼女はガンゼルの娘ベティ。
彼女のことは城に到着してすぐに紹介されたが、すでにぐったりしていた彼らが
その紹介をちゃんと聞けていたかはわからない。
『暑くて死にそうだよ・・・』
毛皮に覆われているルドルフは「きゅーん」と辛そうに鳴くと、ベティは「すみません」と謝った。
部屋を涼しくできれば違うのだろうが、そんな手段がこの国にはなく申し訳なさそうに
ベティは彼らに飲み物を手渡していく。
「ありがとー・・・しかし、ほんとに暑いねーこの国・・・」
「そうですか?今日は涼しい方だと思いますが・・・」
『これで涼しいの!?』
ベティの涼しいという発言にルドルフとジルベルトは驚き言葉を失った。
ハッと気づいたように「そうだ!」とルドルフは口を開いた。
『あいつがやってたように、魔法で部屋を涼しくすればいいんだよ!』
初めてこの国に入った時、暑さにやられたジルベルトを助けるべく
リーティエンドが魔法で部屋を冷やしていたのを思い出したルドルフはベティに言った。
しかしベティは困ったような表情を浮かべ「それが・・・」と言いにくそうに口を開いた。
「この国には、魔法が使える人がいないんです・・・」
衝撃の事実に一瞬固まったルドルフだったが、すぐに「なんで!?」と尋ねると、
ベティは「それはー・・・」と困った笑顔を浮かべながら話し出した。
「この国は元々日差しも強くとても暑い国なんです。それで、この国に生まれた人たちはみな
この暑さに耐えられるよう、まずは体を鍛えることから始めるんです。」
「それと魔法使いがいないことに、何の関係があるんだ?」
「魔法って、本を読んだり誰かに教わったりして覚えるものですよね?この国の場合
体を鍛えることを重視してるで、魔法を覚えようとする人はいないんです・・・」
それに・・・とベティは遠い目をして諦めたような声で言った。
「魔法の本も魔法を教えてくれる人もこの国にはいませんから・・・」
話を聞いたルドルフは「なんかごめん」と、かける言葉が見つからず困り果て、
ジルベルトは「それであんなバケモノ染みてるのか」と妙に納得していた。
「てかさ、前にそんな魔法を使ってるなら彼女に直接頼めばいいんじゃん。」
『おぉ、なるほど!』
ジルベルトの提案に、それもそうだとリーティエンドの方を向き話しかけようとしたルドルフは、
彼女がベッドの上で黒いオーラを出しながらうわ言のようにブツブツ言っているのに気づいた。
『・・・なんか怖いんだけど・・・』
「ここに来てからずっとあの調子なんですが・・・彼女は大丈夫でしょうか?」
「話しかけづらいオーラが見える・・・これは当分無理かなー?」
『そういやジル、お前はその魔法使えないのか?』
「ん?俺?」
ジルベルトが魔王であることを思い出したルドルフは、彼なら何か魔法が使えるんじゃないかと
少し期待していたが、そんな期待も脆く崩れ去る。
「俺、魔法は使えないよ。強いて言えば異世界を渡る魔法しか使えない。」
『えぇ!?』
「クルウから色々教わったんだけど、なぜか他の魔法は使えなかったんだよねー・・・」
才能ないのかなー?と呟きながら遠い目をしたジルベルトに、申し訳ない気持ちになったルドルフ。
しかも、体力も筋力もないという話から、彼は貧弱な魔王であることが判明した。
「そういや、あっちのちびっ子は魔法使えないの?見たことないんだけど・・・」
ジルベルトがいう「ちびっ子」とはマリアナのことである。彼女の名前を知らないわけではなく
単に「あの子の名前なんだっけ?」とど忘れしたため「ちびっ子」と呼んだのである。
「マリアナのことか?あいつは回復魔法を使えるんだよ。オイラは見たことある。」
「あー・・・そりゃ、見る機会なくて当然か・・・」
魔族を説得する旅に出てから、ローランが怪我を負うことは一度もなかったため、
マリアナが回復魔法を使う機会がなく、ジルベルトはマリアナの魔法を見ることがなかったのだ。
そんなマリアナも暑さにやられ、ベッドの上でうなされていた。
『・・・あいつも辛そうだなぁ・・・』
「とはいえ、冷やす魔法が使える魔法使いは未だあんな調子だし・・・困ったねー。」
『だなー・・・』
打つ手なしといった感じでため息を吐くルドルフとジルベルト、そんな二人を眺めていたベティは
なにかを決意するようにぐっと拳を握るとルドルフ達に言った。
「私に・・・魔法を教えてください。」
突然のベティの申し出に、ルドルフとジルベルトは「え?」と驚いた。
ベティは真剣な眼差しで「お願いします。」と懇願した。
『ど、どうしたんだ急に!?』
「リーティエンド様はまだ動けるほど回復していませんし、マリアナ様も苦しそうです。
私は、皆様の力になりたい・・・私が魔法を使えれば、この部屋を冷やすことができます!
だからお願いです!私に魔法を教えてください!」
必死に懇願するベティにルドルフとジルベルトは顔を見合わせる。
『・・・お、オイラは魔法使えないから教えるなんて無理だぞ?』
「俺も魔法は使えないしなぁ・・・まぁ、知識はあるから教えることはできるけど・・・」
「教えてください!」
「・・・魔法の見本とか見せられないよ?それに、教えても使えるとは限らないし・・・」
「それでも・・・何もできないでいるよりはいいです。」
「・・・わかった。クルウから教わった魔法の知識、教えてあげるよ。」
「ありがとうございます!」
ぱあっと花が開くような笑顔になったベティにジルベルトは少し頬を染めながら、
彼が教わった魔法の知識を全てベティに教えていった。
ルドルフはジルベルトの話す事がまったく理解できず首を傾げるばかりであった。
ベティには魔法使いとしての才能があったのだろう。
ジルベルトから魔法の知識を教わり実践したところ、彼女は一発で成功させてしまったのだ。
その後、リーティエンドがやったように魔法で部屋を冷やすことに成功し、
ルドルフ達勇者一行の力に慣れたことを喜ぶのであった。
その様子を見ていたジルベルトはその夜、自分の才能のなさに枕を濡らし「悔しくない悔しくない」と
自分に言い聞かせるように唱えるのであった。
ベティのおかげで回復したリーティエンドとマリアナは、そのお礼にとベティに魔法を教えた。
彼女たちから魔法を教わったベティは、この国で唯一の魔法使いとなった。
そしてそれは同時に、この大陸で初めて<魔法戦士>が誕生した瞬間でもあった。
ローランとガンゼルは外で手合わせしてるんですよきっと。
*おまけ*
リーテ「それにしても、いくら砂漠の国だからって魔導書がないのは不思議ね。」
ベティ「いえ、ないわけではなく、遺跡から発見されることはあるんですが・・・」
~回想~
ドン「よく来たなガンゼル。わしの国に来たということは、また何か手に入れたのか?」
ガンゼル「うむ。先日砂漠の遺跡にてこんな本が見つかったのでな、持ってきたのだ。」
ドン「どれどれ・・・っ!?こ、これは・・・!」
ガンゼル「どうした?」
ドン「(これは魔導書ではないか!しかもかなり状態がいい、これはいいコレクションに・・・)」
ガンゼル「ドン、その本がどうかしたのか?」
ドン「い、いや・・・これは・・・残念ながら価値のないただの本だ。」
ガンゼル「そうか・・・今度こそ価値あるものだと思ったのだが、残念だ。」
ドン「その気持ちだけで十分だ。この本は貰っても構わないか?」
ガンゼル「あぁ。その為に持ってきたのだからな。」
ドン「では、ありがたく貰っておこう。」
~回想終了~
ベティ「ということが多々ありまして・・・」
ジル「多分その魔導書は、今クルウが持ってるやつだと思う・・・」
リーテ「あなたのお父さん、騙され過ぎじゃない?」
ベティ「私もそう思います・・・なので私は、そんな父とは正反対の知的な人を伴侶に!」
ルドルフ『反面教師ってやつか?』
リーテ「あの国王は抹殺すべきかしら・・・?」
ルドルフ『!?』
リーテ「・・・冗談よ。」
ルドルフ『冗談に聞こえないよ!?』
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ドンとガンゼルを親友設定にした時に思いついたネタ。
買い取ってる時もあるけど、大体こうしてタダであげてる。




