南の国の国王様
ルドルフ達が西の国で、魔族たちを説得する旅をしている頃、
南の国のノーファ王国では、今も激しい攻防が繰り広げられていた。
「くっ・・・撤退だ!一時撤退する!!」
被り物をした隊長と思われる魔族がそう叫ぶと、同じく被り物をした魔族達が
攻撃を止め悔しそうに撤退を開始する。
撤退していく魔族達を追撃しようと動き出す人族の兵に大きな声が響く。
「深追いはするな!我らはこの城を、民を守る使命がある!!」
叫んだのは、褐色の肌にがっちりとした筋肉を持った大男だった。
彼こそ、この南の国ノーファの国、ガンゼル国王である。
国と民を守るため、兵だけに頼らず己も鍛え戦う。という信念を持っており、
以前攻め込んできた魔族の部隊を、たった一人で全滅させた実力の持ち主でもあった。
魔族部隊が撤退したことで戦闘は終わり、兵士たちにつかの間の休息が訪れる。
南の国ノーファは、太陽が照り付ける砂漠の国である。
このノーファ城も砂漠の真ん中にあり、年中暑い地域であった。
強い日差しにより日焼けもしやすく、褐色の肌をしている住民が多かった。
砂漠の国と言っても、オアシスは数多く点在しているため、
行商や旅人が水が足りずに行き倒れるといった被害は少ない方であった。
ガンゼル王は城内に戻り兵士や住民たちの様子を見に行こうと歩いていると
正面から一人の女性が歩いてきた。彼女の名前はベティ、ガンゼルの一人娘である。
褐色の肌に短髪で身長が高く、カッコイイという言葉が似合う美人であった。
「父上、お疲れ様です!」
「ベティか、皆の様子はどうだ?」
「兵たちは度重なる戦闘で疲弊しています。住民達も不安を隠せないようです。」
「そうか・・・」
「食料も残り少なくなりましたし、このまま戦いが続けばこちらが不利かと。」
「・・・やはり打って出るべきか・・・しかし、それでは城の守りが手薄に・・・」
現在ノーファ城は、街を魔族に奪われた国民と西の国から逃げてきた住民達を保護していた。
その情報を知ってか知らずか、魔族共は近くのオアシスを拠点に進撃と撤退を繰り返し
この城を攻め落とそうとしていた。
「ええーい!!あんな魔族どもにいつまで手間取っているんじゃ!
早くわしの城を魔族から取り戻さんかー!!」
いつの間にか、小太りした小柄な男性が二人の側にやってきて怒りをぶつけてきた。
彼は西の国ウィルパの国王ドン。城が魔族達に襲われた時に南の国へ逃げてきたのだ。
それは、友人関係にある南の国のガンゼルに助けを求めるためであった。
しかし、城から出ずに贅沢三昧をしていたドン国王に、南の国の灼熱砂漠は過酷だったようで
彼がノーファ城に辿り着く頃には、すでに魔族達が南の国へ進軍を始めていたのだった。
「ドンよ、何度も言うが、私はこの城を国民を守る義務がある。
友の頼みとはいえ、今この城の守りを手薄にするわけにはいかぬのだ。」
「金ならいくらでも払うと言っているだろ!早く私の城を・・・」
「お言葉ですがドン国王、今我々に必要なのはお金ではありません、水と食料・・・
そして、休息こそが彼らに一番必要・・・」
「黙れ小娘!!あの城にはわしの宝がごまんとあるのじゃ、あの宝を魔族に渡すわけにはいかぬ!」
小娘呼ばわりはともかく、国や民の事よりも自分の宝を優先するドン国王に
ベティは酷く呆れたと同時に、なぜこんな人が自分の父と友人なのかと疑問を抱いた。
「・・・わかった。そなたの城を取り戻しに行こう。」
ガンゼル王は大きなため息をついてそう言うと、ベティの肩に手を置き真剣なまなざしで言った。
「ベティよ、私はこれから西の国に向かう、城の守りはお前に任せるぞ。」
「本気ですか父上!?今兵を動かせば魔族に・・・」
「兵は連れて行かぬ、西の国には私一人で行く。」
「おぉ!よくぞ言ってくれたわが友よ!」
喜ぶドンとは対照的に驚きを隠せないベティ、一人で敵陣の中に行こうとする父親を
心配すると同時になぜそんな無茶をするのかと、理解できなかったのだ。
しかしガンゼルは、なにも勝算なく西の国へ行こうというわけではなかった。
「予言の通りならば、勇者はすでに現れ西の国へ向かっていることだろう。
彼らと合流できればドンの国もすぐに取り戻せるだろうさ。」
「予言の勇者・・・でも、彼らが西に向かってる情報なんて・・・」
「予言の日からこれだけの時が経っているのに、隣国であるこの国に現れていない。
それが何よりの証拠であろう?」
「ですが・・・!」
「心配はいらぬ。私の強さは側で見ていたお主がよく知っているだろう?」
「・・・わかりました・・・父上、どうかお気をつけて。ご武運を・・・」
「あぁ!」
力強く返事をしたガンゼルはベティの頭を撫で、後は頼んだと言うと
西の国へ向かうための準備をするため歩き去っていった。
ドンは、もう城が取り戻せたも同然と思い、お前たちにも礼をしなければな、などと
偉そうにいくらほしいんだ?とベティに尋ねていた。
ベティはため息を零し、どうしてこんな人と父が・・・と思いながら口を開いた。
「お金はいりません。ですが、父のいない間、ドン国王にも手伝ってもらいます。」
「なんじゃと!?小娘、わしに戦えと申すのか!?」
「あなたが戦力になるとは思いませんし、戦わせる気もありません。
ただ、皆の水や食事を配るのを手伝っていただきたいのです。」
「そんなもの平民にやらせればよいではないか!わしは国王だぞ!」
「・・・お言葉ですが、今やウィルパは魔族の手に落ち、あなたは王の座を失っています。
つまり、今のあなたは平民と同じ立場、手伝うのは当然だと思いますが?」
「小娘が!ガンゼルの娘だからっていい気になるな!!」
ドンがそう叫んだと同時に、ベティの拳がドンの頭上をかすめた。
その直後、ドンの後ろにあった柱が大きな音を立てて砕けた。
砕けた柱を見たドンが恐る恐る振り返ると、ベティは笑顔でこう言った。
「手伝ってくれますよね?ドン国王。」
「はいぃ!!!」
ガンゼル並の力をベティも持っていることに気づいたドンは、逆らったら死ぬと直感し
すぐに返事をすると、青ざめた表情のまま走り去っていった。
一人残ったベティは砕けた柱を見て、大きなため息をつきながら崩れ落ちた。
「またやっちゃった・・・」
偉大な父のもとに生まれ、自分も民を守れるように強くなりたいと一緒に訓練した結果、
父をも超える強さを手に入れてしまったベティ。
そのため、彼女が本気で拳を振るうと、壁や柱が簡単に壊れてしまうのだ。
「・・・まぁ、今回は仕方ない・・・よね?」
結果的にドン国王が手伝うようになったので、この犠牲は無駄ではなかったと
心に言い聞かせ、ベティは父のことを話すため、兵士たちが休んでいる部屋へと向かった。
兵士たちが待機している部屋にやってきたベティが中を伺うと
戦闘で受けた傷の手当をしたり、武器の手入れをしたりと次に備えるもの、
魔族と戦うことに恐怖し、もう終わりだと怯えるもの、重傷で動けないものと
様々な兵士が目に入った。
そんな兵士たちを見てベティは、これ以上の戦闘は厳しいかもしれないと痛感してしまう。
しかし、父親であるガンゼル国王に国を任された以上、弱音を吐いてもいられないと
ベティは兵士たちの部屋に入り、口を開いた。
「ガンゼル国王が、単身で西の国へ向かう。王が留守の間、我らだけでこの城を守るぞ!」
ベティの登場と突然の言葉に、その場にいた兵士達は驚いた。
「べ、ベティ様、それはどういうことですか!?」
冷静さを取り戻した隊長と思わしき一人の兵士が、ベティに尋ねる。
ベティは兵士たちに、ガンゼルが勇者と合流し、西の国を取り戻そうとしていることを告げ、
自分がこの城の守りを託されたことを伝えた。
「もちろん、お前たちだけに戦わせたりはしない。私も戦う!」
前線に出ることを告げたベティに、兵士たちは驚きそして喜んだ。
彼らはベティの強さを知っていた。だからこそ、彼女が戦うなら百人力だと思ったのだ。
南の国は現在孤立状態。なんの情報も入ってこない彼らは知らなかった。
すでに西の国が魔族から解放されていることに。そして、
遠征し南の国を攻めている魔族達を説得するために勇者たちが南の国へ向かっていることも・・・
初期段階では南の国は放置予定でしたw
北が女王だったので、南も女王にしようかと思っていたのですが
ローラン並の強さを持つ女王様(アマゾネス?)が
イメージができなかったので大王イメージになりました。しかし結局娘が強いという・・・
*おまけ*
ルドルフ『今回、オイラ達出番なしー』
ジル「出番なくても説得はしてたんだよねー。」
リーテ「そうね、西の国の魔族を全員説得したから、次は南の国へ向かうわよ。」
ルドルフ『まるで次回予告のようだ・・・』
ジル「ネタ切れとも言う。」
ローラン「お、ついに俺と南の王との一騎打ちか?」
マリアナ「ちが・・・」
ルドルフ『メタ発言禁止な。』
*****
おまけという名の舞台裏w




