説得(物理)
魔族達を地下世界に帰るように説得するため、旅に出たルドルフ達だったが
同行している魔王、ジルベルトの体力のなさにすっかり呆れ果て、
時間を惜しんだルドルフとリーティエンドは、なにか策はないものかと考えた。
そして、ジルベルトをローランに担がせて運ぶという案を思いついたのだった。
軽々とジルベルトを肩に担ぎ歩き出すローラン。ジルベルトも最初は嫌がったが
自分の体力のなさを指摘され、おとなしく担がれることにした。
ジルベルトの体力の心配をしなくてもよくなると、休憩の回数を減らし
今までの遅れを取り戻すようにルドルフ達は歩き続けた。
そんな彼らを見たジルベルトは「これが人族の体力か」と感心するのだった。
魔族達が暮らしている街に辿り着いたルドルフ達は、髪の色が人族のままであったために
一瞬で注目の的となった。ローランはジルベルトを肩から下ろし、
ポキポキと指をならして「こいつらを倒せばいいんだな?」と楽しそうに笑った。
『やっぱり説得が抜けてる・・・』
「まずは説得が先よ、あんたの出番はそのあと。」
「あ・・・かい・・・か、み・・・いっ・・・ぱい・・・」
地面に降りたジルベルトがルドルフ達の前に出ると顔を上げた。
そして、説得を試みようとした瞬間、周りの魔族達が驚いた顔をして叫び声を上げた。
「ぎゃーーーーーーーー!!」
「うわーーーーーーーー!!」
「ひぃえーーーーーーー!!」
ジルベルトは被り物をしたままだった。
その被り物の見た目に驚いた魔族達が叫び声を上げていたようで
様々な悲鳴が一通り上がると、すぐに「って、魔王様じゃないですか」と
何事もなかったかのように平常さを取り戻して声をかけてくるのだった。
どうやら魔王の被り物は魔族にも刺激が強いらしい。
そんな被り物を作ったクルウは、ある意味すごい才能の持ち主なのかもしれない。
街の住人の魔族達が落ち着きを取り戻したことを確認すると、ジルベルトは言った。
魔族全員が地下世界に戻らなければならない、と。
しかし、突然地下世界に戻れと言われても、すぐに納得できるわけもなく
何故?どうして?と魔族たちはざわめき始めた。
「えーと・・・だから・・・」
やはり、子供の魔王というのは立場が弱いのか、なかなか言うことを聞いてくれそうもない。
困り果てたジルベルトは、助けを求めるような目でルドルフ達の方を向いた。
が、被り物をかぶっていたため、その目に気づくものは誰もいない。
しかし、状況が悪い事に気づいたリーティエンドが助け舟を出した。
「この戦いは、私たち勇者が勝利したわ。だから貴方たちは帰るのよ。
文句があるのならば、最強の戦士である彼が相手になるわ、かかってきなさい。」
そう言ってローランを指名すると、彼は嬉しそうに前に出た。
指を鳴らし、飢えた獣のように笑うローランに、大半の魔族は恐怖を抱き後ずさった。
それでも命知らずはいるようで、無謀にも数人の魔族がローランに襲い掛かった。
「なんだ、この程度なのか?もっと強いやつはいないのか?」
襲い掛かった魔族を一瞬で片付けその強さを見せつけるローラン。
魔族たちはその光景に、魔族側が敗れたことを痛感し、地下世界に戻るための準備をするのだった。
「・・・なぁ、これってさ・・・俺、必要なのかな?」
自分が説得するよりも、ローランの力でねじ伏せた方が早いんじゃないかと思ったジルベルトは
どうして自分はここにいるんだろう?と疑問を抱き始める。
「あら、魔王が一緒だから説得力があるんじゃない。」
「え?・・・まさか、最初からこれを狙って・・・?」
「さぁ・・・どうかしら?」
とぼけるリーティエンドにジルベルトは「俺は人質か・・・」と呟くのだった。
荷造りを終え、一人一人街を出ていく魔族達。
ルドルフ達は名簿を確認しながら、天の柱に向かう魔族の列を眺めていた。
出ていく魔族達を見届け、全員が街を出たことを確認すると、
ルドルフ達はようやく次の街に出発できるのであった。
『長かった・・・これ、あと何回ぐらいあるんだ?』
「ざっと見て、あと14回くらいかしら?」
『多いな・・・』
「西の国はそれで終わるけれど、南に遠征したっていう魔族もいるから、
実際はもっと多いと思うわよ?」
『うへぇ・・・』
まだまだ先が長いことを知ったルドルフは、すっかりやる気を失ってしまった。
ルドルフ自身、何かやることがあるわけではないが、気持ちの問題だろう。
そしてそれは、ジルベルトも同じだったようで、
地べたに座り込み、空を仰いで「あー・・・」と気だるげな声を出した。
「あー・・・帰りたいー・・・ゲームしたいー・・・」
『それって、ご主人がいつもやってるあれか?』
「うん。ユキから教えてもらったけど、あれは面白いね!」
「ゲーム・・・ねぇ・・・カードなら得意だから、相手をしましょうか?」
「カードじゃなくて、ユキのは不思議な道具でやるゲームなんだ!」
「へぇ・・・興味深いわね・・・」
カードのゲームしか知らないリーティエンドは、ジルベルトが言う<不思議な道具>でする
ゲームというものに強い興味を抱いた。ジルベルトは「後でユキに借りてこよう」と
心に決めると、次の目的地をリーティエンドに尋ねるのだった。
「次は・・・そうね、この街かしら?」
そう言って、手に持っている地図をこちらに向けるリーティエンド。
西の国は炭鉱が多く存在するため、他の国に比べて街の数が多かった。
街が多いということは、街から街までの距離がそれだけ短いということ、
リーティエンドは、今日中に次の街まで行ってしまおうと考えていた。
「街にはもう、残ってる魔族はいないようだぜ。」
街に居残っている魔族がいないか、見回りに行っていたローランが戻ってくると
リーティエンドは、すぐに出発しようと声をかけた。
「今日中に次の街まで行くわよ。」
『まじか・・・』
「また歩くのか・・・」
『いや、お前はほとんど歩いてないだろ。』
「がん・・・ば・・・ろ、う・・・」
「その街はどっちだ?」
街の方角をリーティエンドが指差すと、ローランは再びジルベルトを肩に担いだ。
もう最初からジルベルトに歩かせる気はないようだ。
「よし、行くか!」
「ほら、勇者サマも行くわよ。」
『うぅ・・・オイラも楽したいよ・・・』
「・・・おん・・・ぶ・・・す、る?」
楽をしたいと言ったルドルフに、マリアナは「おんぶする?」としゃがんで見せたが
さすがにそれは悪いと思ったのだろうルドルフは首を振って拒否した。
『いや、いいよ。お前がオイラをおんぶするのはきっと無理だと思うし』
「そ・・・う・・・」
『それにオイラはまだ歩けるからな!』
そう言って歩き出したルドルフに、マリアナは少し寂しそうな表情をして
ルドルフの後を追いかけるのだった。
『・・・そういや、西の国にもともと住んでたやつは、今どこにいるんだろうな。』
人の気配がなくなり空っぽになった街を見て、ふと、ルドルフはそう言い出した。
「大半は北の国でしょうね。
女王サーラが言っていたでしょう?西の国の難民を保護してるって。」
『そうだっけ?』
「・・・まぁ、全員とは限らないわね・・・」
「多分、南にも逃げてると思う。
ここの王様かな?なんか派手なおっさんが南に逃げて行ったって話を前に聞いたし。」
「南か・・・強い王とやらに早く会ってみたいもんだ。」
ローランは、今すぐにでも南の国の王に会いに行きたそうだった。
そんな様子にルドルフのみならず、リーティエンド、マリアナ、ジルベルトの全員が
心の中で同じことを思っていた。
(こいつ絶対、南の国の王と戦う気だ・・・)
説得ってなんだっけ・・・?
*おまけ*
ルドルフ『あれ?ご主人たち何をしてるの?』
ジル「ゲームだよ。」
ユキ「TRPGっていう、サイコロで遊ぶゲーム。」
リーテ「中々興味深い内容で面白いわよ。」
ルドルフ『いつものゲームとは違うんだな・・・』
ユキ「さすがにゲーム機3個は持ってないから、別のゲームにした。」
ルドルフ『へー・・・』
リーテ「ねぇ、このダイスの目だとどうなるのかしら?」
ユキ「これはクリティカル、大成功。よってリーテは無事生還できました。」
ジル「ユキ、俺のやつは?俺も大成功か?」
ユキ「・・・ジルはファンブル、大失敗。ジルは逃げ切ることができず死んでしまいました。」
ジル「なぜだーーーーー!!もう一回だ、もう一回やろう!!」
ユキ「次は俺もやりたいんだけど・・・」
リーテ「なら、進行役は私がやるわ。」
ユキ「ん、任せた。」
ルドルフ(・・・ご主人が楽しそうでなによりだ。)
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TRPG=テーブルトーク・ロールプレイングゲーム
ゲーム繋がりで出しただけなので、意味はまったくないです。




